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『広告』リニューアル創刊号 全文無料公開

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2019年7月24日に発行された雑誌『広告』リニューアル創刊号(Vol.413 特集:価値)の全記事を無料で公開しています。
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記事一覧

いいものをつくる、とは何か?

「広告はもうやりません。ものづくりをやります」と博報堂の役員に宣言したのが5年前。まさか“広告”を冠した雑誌をつくることになるとは思いもしませんでした。 『広告』は、変な雑誌です。編集長が2〜3年に一度変わって、その度にテーマも体制も、判型も価格も、全部変わります。“広告”という誌名なのに、広告について扱うことは稀です。だから、僕も広告を扱わず「ものづくり」を扱うことにしました。 僕は博報堂で働く傍ら、個人で「YOY(ヨイ)」というデザインスタジオを主宰しています。YOY

#0 価値

「意味」はあるけど、「価値」はあるのか? 買い物に行ったり、マンガを読んだり、日々いろんなものに触れるなかで、そう考え込んでしまうことがあります。どこかで見たことのあるデザイン、何が新しいのかわからない新製品、似たような設定の似たような絵のマンガ。そういう、なんだかつまらないものでも、きっと、誰かの役に立って、誰かを楽しませて、誰かの儲けになっている。それが存在する「意味」はあるんだと思います。 でも、それに「価値」を認めてしまうと、世の中がつまらなくなってしまう気がする

1 価値と人類 〜 松村圭一郎 × 『広告』編集長 小野直紀

「ものの価値」って何だろう。どうやって人はものに価値を感じているのだろうか。そんな根源的な疑問を文化人類学者の松村圭一郎氏に本誌編集長の小野直紀が投げかける。 松村氏は「すべての物事は再構築できる」との立場を取る“構築人類学”を提唱している。いまの時代に、価値あるものとは何なのか、これからどうやって価値あるものを生み出していけばいいのか。そうした問題意識に対して、人類学は“価値の再構築”の手がかりを提示できるか。 価値を決めるのは人の欲求か、社会の文化か?小野:今日は松村さ

2 価値のものさし

人は、複数の「ものさし」で価値を測っている。様々なものさしを組み合わせ、使い分け、価値を判じている。当然、人によって持ち合わせている「ものさし」は違う。それが価値観の相違を生む。 世の中には膨大な種類の「価値のものさし」が存在している。文化や社会環境によっても異なる。そして、時代によって「ものさし」自体が変化したりする。 価値とは何かを問うのであれば、一度、どんな「価値のものさし」が存在し、それらがどう変化しているかを観察してみるのがいいかもしれない。価値、と聞くと普遍的なも

#1 価格

先日、ひとり5万円する高級レストランに行く機会がありました。瀟洒な空間に高級そうな器、ウェイターのあり余るホスピタリティとともに出てきた料理やワインは、確かにおいしかった。 ただ、こうした場に不慣れだった僕は、なんだかモヤモヤしながら帰路についたのです。はたしてこの食事に、5万円の価値があったのだろうか……。その店の持つ「ミシュランの三つ星」や「予約の取りにくさ」という要素が、5万円という価格を正当化しているようにも思えました。普段の食事の何十倍もの価格に、見当はずれな期待

3 江戸時代の価値と経済

「ものの価値」について話すとき、ついついお金の話になりがちな昨今。しかしほんの数百年前に遡れば、お米や金・銀・銭(銅)で価値を換算している時代もあったのです。徳川幕府260余年、日本の近代社会の基盤がつくられた江戸時代には、いまにつながる様々な慣習や価値観が生まれました。現代の「価値」の源流は江戸にあり? 江戸の経済に精通する専門家・鈴木浩三氏に尋ねました。 Q1:江戸時代の通貨には、どんな種類があったのでしょうか?A:流通していたのは金・銀・銭(銅)の3種類、日々レートが

4 花森安治の「紅いバッグの話」 〜 お金ともの、そしてその価値

高価なものと美しいものと 紅いバッグの話  なにかのことで、お祝いか法事で、親類縁者が一堂に会した。もちろん、こういうことは、戦後ではなかなか見られないことで、この話は、戦争初期のことと思つてください。  親類縁者が集まれば、例によつて例の如き雰囲気を呈することは、ご想像のとおりだが、女連れが多いから、したがつて子供も多い、うるさがられて、子供は子供同士、一部屋に追いやられた。そこで、女の子の間で、どの子からとなく、お互いに持つているハンドバッグの品定めがはじまつたと

5 どんぐり100個600円

メルカリで「どんぐり」を検索すると、たくさんのどんぐり販売人が出てくるのをご存じだろうか。価格は数百円~千円程度。装飾を施すなど、加工した品もあるが、ほとんどは無加工の普通のどんぐりだ。「近所で拾ってきました」などと書いてある。誰が一体何の目的で、何の変哲もないどんぐりを売っているのだろうか? 実際にどんぐりを購入してみた。商品名は「小さめどんぐり100個」で、価格は600円。送料込み。兵庫県からの出品。商品カテゴリーは「ハンドメイド」の「素材/材料」。どうやら、手芸に使う

雑誌『広告』1冊2,500円

先日発売された雑誌『広告』リニューアル創刊号は好評なようで、すでに1万部が完売したそうだ。「1円で販売される」という話題性もあって手にした人も多いと思うが、中身の記事も楽しんでいただけていれば、執筆に参加した人間としても嬉しい。 本号では「どんぐり100個600円」という記事を担当した。実はメルカリには、その辺で拾ったどんぐりを販売して商売にしている人たちがいる。ハンドメイド工作の素材として買われているようだ。一見、無価値に思えるどんぐりでも値段をつけて販売されることで今ま

6 チープをモチーフにするハイブランド 〜 価値付けのゲームはどこへ向かうのか

あの、青いIKEAバッグそっくりのバッグ。一見、大衆的でチープなモチーフを扱ったアイテムがいま、高価格で販売されている。それらをリリースしたのは、バレンシアガ(BALENCIAGA)、 ヴェトモン(VETEMENTS)など、いずれも昨今のファッションシーンを牽引するハイブランドだ。両ブランドの中心人物であるデザイナーのデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)は、一体なぜこのようなアイテムをつくったのだろうか? そして、なぜ消費者たちは、チープなモチーフ×高価格とい

7 値付けの裏側 〜 私たちは何を買っているのか

「ファンなので絵を描いてほしい」。レストランで女性に声をかけられたピカソ。さらさらと絵を描いてこう言った。「100万ドルです」。「30秒で描いたのに?」。驚く女性にピカソは答えた。「いいえ、40年と30秒です」と。 これは、値付けにまつわる逸話である。この話からもわかるように、ものの値段には表には見えてこない裏側がある。本稿では、私たちの身の回りにある様々なものの値段がどのように決められているのかを考察していく。 日本一“高い”富士山の自販機 ── ペットボトル飲料の値付

8 無料2.0 〜 図解で読み解く新たな「無料」のしくみ

2009年、『フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(以下『フリー』)という本がNHK出版から発売された。そこには「フリーミアム」を筆頭に、無料で儲ける仕組みや概念が提唱され、世界25カ国で刊行されるベストセラーになった。発売から10年経った2019年のいま、様々な形に進化した無料のサービスやビジネスが生まれ、時代背景も大きく変化してきている。ここに、かつての定義ではとらえきれない新たな「無料」の仕組みを紹介したい。 無料1.0『フリー』では、無料で価値を提供する仕組みを

#2 新しさ

世の中には、新しくない「新しさ」が溢れている。 たとえば、家電量販店にずらりと並んだ新商品。よくよく見ると少しだけ見た目が変わっていたり、ボタンがひとつ増えていたり。でも、誰もそのボタンを使わないとすれば、その「新しさ」に何の意味があるのでしょうか。世の中には「新しさ」という名のニッチな差別化や、本質的ではない微細なアップデートが蔓延しているように思えてなりません。 そうは言うものの、つくり手としても、受け手としても、「新しさ」に惹かれている自分がいます。 世界最

9 「新しさ」の ジレンマ 〜 新しくない新商品はなぜ生まれるのか

家電の世界には、毎日のように新しい商品が登場する。だが、人々が話題にするのはその一部に過ぎない。 「いままでになかったジャンル」「いままでにない機能」はわかりやすい。しかし、そういう明確な新しさを持った製品は少数だ。 ほとんどの新製品は、販売店での「棚」を確保したり、商戦期に製品をアピールするためにつくり出される。 とはいえ、そうした日常的に生まれる新製品が、すべて意味のないものか、というとそうではない。変化を少しずつ積み重ねてよくなっていくものも、確かにあるからだ。