_1_価格扉

#1 価格

先日、ひとり5万円する高級レストランに行く機会がありました。瀟洒な空間に高級そうな器、ウェイターのあり余るホスピタリティとともに出てきた料理やワインは、確かにおいしかった。

ただ、こうした場に不慣れだった僕は、なんだかモヤモヤしながら帰路についたのです。はたしてこの食事に、5万円の価値があったのだろうか……。その店の持つ「ミシュランの三つ星」や「予約の取りにくさ」という要素が、5万円という価格を正当化しているようにも思えました。普段の食事の何十倍もの価格に、見当はずれな期待をしてしまっていたのかもしれません。

「価格」は、価値を測る指標の代表格です。その影響力はあまりにも大きくて、ものの価値の感じ方を左右することが多々あります。本質的には、価値によって価格が決まることがあっても、その逆はないはずなのに。

また、別の角度から価格について考えてみると、いまや定額で映画が見放題だったり、音楽が聴き放題だったり、価格の概念が大きく変化しています。ものの価値に対しての価格の影響力が弱まっているとも言えます。

僕自身、1本いくらと映画にお金を支払うのではなく、プラットフォームにいつでもアクセスできる権利にお金を支払っている感覚でいます。さらに、YouTubeだと音楽も映像も無料。いまどきマンガを無料で読んでいる人も少なくありません。

これまで、ものの「価値」を翻弄し続けてきた「価格」。その概念が揺らぎ始めたいま、あらためて「価値と価格の関係」に目を向けていきたいと思います。(小野直紀)

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この記事は2019年7月24日に発売された雑誌『広告』リニューアル創刊号から転載しています。

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