雑誌『広告』
「虚実特集号」発売前後のできごと全記録
「ロシア」「ウクライナ」に関係する内容の可能性がある記事です。
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「虚実特集号」発売前後のできごと全記録

雑誌『広告』

3月1日に虚実特集号が発売されてから約2カ月半が経ちました。『広告』編集部では毎号、SNSやネットの反響や実売数をチェックし、書店ともコミュニケーションをとりながら、最新号がどのように世の中に受け止められたかを振り返っています。

5月19日時点でAmazonでは2,225冊が売れていて、流通を特集した前号のAmazon実売数が発売後1年以上たった現時点で1,781冊だと考えると、とても好調に見えます。しかし、書店での実売数を見ると、現在確認できている範囲で6店舗から完売の連絡が入っているものの、正直かなり苦戦しています。

現時点の書店での販売数は933冊(224店舗中、回答があった188店舗の販売数)。流通特集号の発売後2カ月半頃の販売数1,922冊(211店舗中、回答があった201店舗の販売数)と比べると、半分以下に留まっています。

取り扱っていただいている書店は2019年のリニューアル以来最大の224店舗あり、価格は1,600円で流通特集号の3,000円と比べると手を出しやすい価格設定。それなのに、なぜ書店の売れ行きが芳しくないのか。

このnoteでは、書店の売れ行きの不調の原因を考察すると同時に、虚実特集号の発売までの道のりや想定外のトラブル、発行部数と現状の販売数、アンケートでいただいたご意見・ご感想を踏まえながら、発売前後のできごとをできる限り詳細に報告したいと思います。

虚実特集号の仕掛けとその狙い

『広告』では毎号、装丁や販売方法に工夫を凝らして、特集について興味を持ってもらうきっかけをつくり、話題化を図る仕掛けを行なっています。

虚実特集号における仕掛けの内容および企画から実施までの経緯、発売後の世の中の反応についての詳細は以下の記事にまとめてありますのでぜひご覧ください。

ここでは、ダイジェスト版として簡単に仕掛けの概要をご説明したいと思います。

今号の仕掛けでは、下の画像を“書影”と謳い、発売前に情報発信と予約販売を実施しました。これを見た人に「『広告』虚実特集号の装丁は何も書かれていない真っ白な本なんだ」という思い込みを誘発するのが狙いでした。

『広告』虚実特集号の書影(撮影:伊丹豪)

実際の装丁は、 “書影”として提示した写真がそのまま表紙になっている、下の画像のような黒い本。
雑誌を手にした瞬間に、それまで頭のなかに存在したはずの「真っ白な本」が消失する。そんな体験をとおして、「ネットや広告における情報の不確かさ」や「受け手による無意識の思い込み」についての問題意識を持ってもらい、それが「虚実」について考える入り口となればという意図でこの仕掛けを実施しました。

『広告』虚実特集号の実際の装丁(撮影:伊丹豪)

「真っ白な本」というミスリードを行なうために、発売3週間前の2月8日から告知とリニューアル以来初となる予約販売を実施。『広告』虚実特集号の詳細内容とともに、“書影”として「黒い背景に置かれた真っ白な本」の写真=表紙写真を使い『広告』のウェブサイトやnote、SNS、博報堂からのリリースを発信しました。

また、書店には“書影”画像および店頭用のポスターやPOPを提供し、182の書店で予約販売を実施してもらったほか、Amazonでも予約販売を行ないました。

さらに“書影”をより広く認知してもらうため、リニューアル以来初の“『広告』の広告”を実施。Google、Facebook、Twitter、Instagramにオンライン広告を出稿、交通広告は都内7カ所(表参道駅、中目黒駅、下北沢駅、赤坂駅、汐留駅)の駅構内と、車内ドア横(都営地下鉄大江戸線)に掲載しました。

仕掛けの実現に向けた書店へのヒアリングと商談

先述したように、虚実特集号ではリニューアル以来初の試みとなる予約販売を実施しました。これは、まだ雑誌が世に出回る前に購入してもらうことで、今回の“書影”を使った仕掛けを体験する人を増やしたかったからです。

また、予約購入した人が多ければ多いほど、発売直後にこの仕掛けについてSNSなどで話題にする人が増えるのではと、予約時に割引を行ない予約購入を促進しようと考えました。

ただし、割引となると再販制度の問題があります。書籍や雑誌は、出版社が決定した定価で書店が販売するという再販制度によって流通しています。出版元である博報堂が書店との再販契約を結ばなければ法律上は割引が可能ですが、割引販売をするとなった場合、書店は価格を決めたり、割引後の価格を明記したりなどの手間がかかってしまう。それ以前に、出版物をとおして文化や教養の普及をするという見地からつくられた再販契約を結ばないというのは、書店からネガティブな反応があるのではないかという懸念がありました。

そこで、予約販売や予約販売について、以前から『広告』を取り扱っていただいているいくつかの書店にヒアリングを行ないました。チェーン展開する書店の本部、個人経営の書店の店主と規模の異なる書店にヒアリングを実施。予約販売についてはどちらも問題ないという回答でした。

ただし、予約時の割引を実施するとなるとオペレーションが煩雑になるし、仮に割引がある書店とない書店があると、書店側も購入する側も混乱てしまい、割引をしないほかの書店からクレームが入る可能性もある。取り扱いのある全書店が実施しない限り難しいだろうという回答でした。ヒアリングを重ねるなかで全書店での予約割引の実施はかなりハードルが高いとなり、予約割引については断念することになりました。

こうして、今回の書店との取り組みとして予約販売と情報発信の協力をお願いすることになりました。情報発信にあたっては冒頭でお見せした書影画像やこちらで用意したポスターやPOPを使用してもらいたいこと、実際の装丁の情報は出さずネタバレしないように注意してほしいことを書店との商談でお願いしました。

一部の書店では、オペレーションの都合で予約販売が難しいという返答がありましたが、最終的に取り扱いのある224の書店のうち182の書店で予約販売を行なっていただきました。

なぜ書店での売れ行きが不調なのか

ここからは、冒頭で記載した、書店での売れ行きがなぜ不調なのか、その原因を探っていきます。

はじめに、記事の内容については、読者や書店の方々からも概ね「よかった」「おもしろかった」というご意見をいただいており、編集部としても過去号と比較して遜色ないものだと考えています。

また、「虚実」という特集についても、以下の理由からいまの時代や時期にふさわしいテーマだったと言えるかと思います。

・近年SNSで問題になっているフェイクニュースや政治の不透明さなどとも関連していて一般的に関心の高いテーマなのでは

・雑誌名である「広告」とは切っても切り離せないテーマでもあり、広告業界にかかわる人たちには響くのでは

・「いいものをつくる、とは何か?」という本誌全体テーマのもと、広告業界に限らずいろんなジャンルのつくり手に届けたいと編集を行なっていますが、今号についてはとくに小説や漫画、映画などフィクションの制作に携わる人たちにとっても関心を持ってもらえるテーマだったのでは

・昨年よりバズワード化しているメタバースに関心がある人にも届くのでは

・発売直前の2月24日に、ロシアがウクライナに軍事侵攻を実施。日々の報道のなかで、ロシアとウクライナで真逆の発信をしていたり、戦争における情報戦などから、そこにある虚実について考えさせられた人も多かったのでは

では、書店の売れ行きがよくない原因は何なのか。まずは具体的にどう不調なのか、あらためて販売数を見ていきたいと思います。

虚実特集号の5月19日時点での販売数はAmazonでは2,225冊、書店では933冊(224店舗中、回答があった188店舗の冊数)となっています。前号である流通特集号の同時期(発売後2カ月半頃)の販売数は、Amazonでは1,475冊、書店では1,922冊(211店舗中、回答があった201店舗の販売数)。今号と前号を比較するとAmazonでの販売数は749冊今号が上回っていますが、書店での販売数は半分以下に留まっています。

Fujisanでの販売数を含む合計を比較すると、今号は3,221冊、前号3,463冊。一見すると、全体としては前号とそれほど変わらない売れ行きに見えるのですが、前号の価格は3,000円(税込)だったのに対し今号は1,600円(税込)と比較的安価な設定であること、さらにこれまでは実施していないオンライン広告や交通広告を行なったことを加味すると、編集部としては前号以上の売れ行きを期待していました。

なぜ期待していたよりも振るわないのか。とくに書店での売れ行きが不調である原因は何なのだろうか。

まず考えられるのが、いままでは書店で購入していた人が、Amazonでの購入に流れたということ。Amazonでは、予約販売期間中に1,496冊の注文があったのに対し、書店での予約販売は、108冊(182店舗のうち、回答があった172店舗の冊数)に留まりました。書店での予約販売に気づかなかった人が多かったり、Amazonだと送料がかからないこともあって気軽に購入できたということがその要因かもしれません。

つぎに考えられる要因として、店頭で初めて虚実特集号を知った人に対する仕掛けの体験動線や購入の動機づけが弱かったことが挙げられます。虚実特集号の表紙は真っ白な本の写真のみで、タイトルも箔の空押しで見にくい。いったい何の本なのか、どんな内容なのか、中身を見るまで非常にわかりにくいものでした。

店頭における仕掛けの体験動線については、企画の段階で、たとえばPOPで“書影”を見せつつ、実物は見えないように袋に入れて販売する。または家電量販店やドラッグストアなどで見かける購入カードをおいて、それをレジに持っていくと買える仕掛けにするなどを検討しました。ただ、通常の書店での販売方法に比べて複雑になってしまうことや、虚実特集号の仕掛けを無理やり押し付ける感じが出てしまい、仕掛けとしてあまりスマートではないのではと実施を見送った経緯があります。

これを補うために、事前の情報発信に力をいれ、オンライン広告や交通広告を実施しましたが、限られた予算での施策のため、情報が届いた範囲は限定的でした。

さらに、3月1日の発売日以降、実際の雑誌を手にし仕掛けを体験した人たちによるSNS上での“ネタバレ”投稿による話題化を期待していたものの、残念ながら空振りに終わりました。

実際の雑誌を手に取ったときの驚きを感じてもらいたいという思いから、予約販売中はもちろん、発売後もしばらくは編集部や書店からは仕掛けの内容を明かしませんでした。

発売直後のSNSを見ると、今回の仕掛けの狙いを理解して、ネタバレをしないように配慮した投稿が多く見られました。結果として、期待していた発売直後の話題化は振るいませんでした。

発売1カ月後に、公式にネタバレ解禁として編集部から今回の仕掛けにまつわるnoteを公開し、SNS上で一定の話題化につながりましたが、書店での販売には大きくは繋がりませんでした。

まとめると、書店の売れ行きが不調なのは、以下の3つが原因であると考えられます。

・普段書店で購入している人がAmazonでの予約購入に流れた

・店頭での仕掛けの体験動線や購入の動機づけが弱かった

・発売後、予約購入者による今号の仕掛けに関する投稿が少なく話題化しなかったこと

今回協力いただいている書店のみなさまには、売上貢献につながらずとても申し訳ない気持ちです。

5月19日時点で、書店にある虚実特集号の想定在庫数は2,167冊です。このnoteを読んで『広告』虚実特集号に興味を持っていただいた方は、ぜひ書店でご購入ください。通販を行なっている書店もあります。詳しくは下記をご覧ください。

> 販売店一覧を見る

虚実特集号の発行部数と販売状況

虚実特集号の発行部数は10,000部。これは、販売分としての部数と献本として配布する部数の最低必要数を考えながら、制作費内でつくれる上限として決定しました。このうち、何冊が市場に出回り、5月19日現在で何冊が市場に残っているのかを内訳の詳細とともにご紹介します。

まずは虚実特集号をどのように配分したのかを記載します。主な配分は各書店での販売分、Amazonでの公式販売分、関係者や博報堂のクライアントへの献本分です。

【配布の内訳】

市場 6,104冊
<内訳>
書店での販売分:3,100冊  
Amazonでの公式販売分:2,500冊
Fujisanでの定期購読者販売分:100冊
販売分予備:404冊

サンプル・寄贈 262冊
〈内訳〉
書店のサンプル分:224冊
図書館への寄贈分:38冊

広報誌としての献本 2397冊
〈内訳〉
識者・著名人など:1185冊
クライアント:1212冊

関係者への献本 960冊
〈内訳〉
社外関係者分:128冊
社内関係者分:832冊

予備・保管 277冊
〈内訳〉
予備:177冊
保管:100冊

上記のように、10,000冊のうち、販売分としては6,104冊を配分しました。このうち404冊は書店からの追加発注やAmazonへの追加卸分として確保しているもの。予約販売を開始した2月8日以降に市場に流通した冊数は5,693冊、このうち一部の書店から返本があったため、現在は5,603冊が市場に流通しています。

以下では、市場に流通しているもののうち、予約販売と発売日以降で何冊が売れているのかを記載します。今回、取り扱いをいただいた224店舗に対し、4月6日から確認を開始し、5月19日時点で返答をいただいた188の書店の集計データになります。

【実売数】

書店の合計実売数 933冊(全書店の配本数3,100冊)
 ※回答のあった店舗への配本数は2,665冊
<内訳>
・書店の予約販売での実売数 108冊
・書店の発売日以降の実売数 825冊 

Amazonの合計実売数 2,225冊(配本数2,500冊)
<内訳>
・Amazonの予約販売での実売数 1,496冊
・Amazonの発売日以降の実売数 729冊

また、電子書籍派の方のために再編集したKindle版も販売しており、5月19日時点で66冊が売れています。ただしKindle版はARと連動していないため、紙版がおすすめです。

本誌をまだ手に入れていない方は、ぜひお買い求めください。

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> Amazonで購入する

印刷・製本過程で発覚した想定外のミス

ここからは、虚実特集号の制作において起こったふたつのトラブルについてお話します。

先ほど虚実特集号の発行部数は10,000冊とお伝えしましたが、実はこのうち8,000冊には印刷ミスがあります。本文の1ページめと最終ページの奥付に、2ミリほど何も印刷されていない部分があるのですが、これは本来不要な余白です。

1ページめの余白
最終ページの余白

一般的な本だと表紙を糊付けするために、あえて印刷しないでおく部分ですが、今回の装丁では不要な空白でした。このミスに気づいたのが、すでに印刷は終了し製本も進んでいた1月下旬。デザインへのこだわりは非常に強いこともあり、非常に悔しいミスでした。本当は10,000冊すべてを刷り直したいくらいの気持ちではあったのですが、すでに印刷したものが無駄になってしまううえ、スケジュールも現実的ではないため難しい。ただ、どうしても諦めきれず、本文用紙に使っていた上質紙(OKプリンス上質エコグリーン)の入手可能な在庫やスケジュールとの兼ね合いで、なんとか対応できる2,000冊を刷り直すことにしました。

この2,000冊の刷り直しとしてかかった追加費用は材料費と工賃で約178万。印刷会社と製本会社は「われわれのミスなので追加費用は請求しない」というスタンスでしたが、それでいいのだろうかという思いがありました。広告業界ではミスをした側に費用を負担させるケースが多く、そうした慣例に倫理的な違和感を感じていたからです。

数ミリの不要な空白とはいえデザインの観点からはかなり大きな問題です。でも、雑誌の内容を届けるという視点からすると、文字や画像に影響するものではありません。編集部側のこだわりによる部分が大きいのです。

そして、今回のミスは印刷会社と製本会社の連携がうまくとれていなかったために起こった事故ではあるのですが、虚実特集号は2社とデザイナーと編集部でひとつのチームとなってつくっている雑誌だし、編集部が細部まで丁寧に確認できていなかったことも原因です。

同じチームとして、できるだけ、最低でも材料費だけでも支払いたいという考えのもと予算をやりくりし、捻出した金額は150万。その額を印刷会社と製本会社の間で相談してもらい、2社に同額を支払うということが決まりそれぞれ75万を追加で支払いました。

納品直前に製本会社でコロナ発生、工場が止まる

こうしたトラブルがありながら、ようやく発売目前となった2月17日の夜中、製本を担当いただいている篠原紙工の社長・篠原さんから1通のメールが届きました。

そこには、社内でコロナ陽性者が出てしまい、いったん全員を出勤停止にしてPCR検査をしたところほかにも数人の陽性者がいたこと、陰性のメンバーが深夜まで残ってなんとか作業を進めているが、納品スケジュールを相談できないかという苦しい状況が書かれていました。

無理がないようすべての納品を後ろ倒しにできればよかったのですが、取次や配送会社への納品日をずらすと書店や献本の到着日に影響が出てしまう。最終手段として発売日をずらすという判断もありましたが、なんとか間に合わせる方法はないかと思案しました。そこで、複数ある納品先のうち、保管や予備として編集部に納品予定だった約1,400冊分を、当初の2月24日から2月28日に変更しました。

その2日後、さらに2名の陽性者が出てしまい作業が遅れてしまっているとの相談が入りました。3,200冊ほどある献本分を分納するということなら可能かもしれないと、献本の配送をお願いしている会社に事情を説明し、2月24日の納品分約3,200冊のうち、1,700冊を2月28日納品に変更。編集部の納品分も1,100冊は再度2月28日から3月2日へと変更しました。

コロナ禍以降、篠原紙工では社員のマスク着用、各所にアルコール消毒をおいて手指のこまめな消毒などガイドラインに沿ったコロナ対策を行なっていて、いままでコロナ陽性者が出たことはなかったそうです。工場主体の会社としては早くからオンラインを活用し、デスクワークの社員は在宅勤務にするなど出社人数の管理もしていたと言います。でも、工場は人がいないと動かせない。そして今回は、その現場を担当する社員が罹患してしまったと。

篠原さんに、当時の状況を聞くと「実は私がコロナ陽性となってしまって。わかったのが夕方のことで、まずは翌日からの社員全員の出勤をストップし、各自、PCRの検査をして陰性が確認できた人から出社してくださいと伝えました。それで工場が丸1日止まってしまったんです。ちょうどコロナの感染が拡大していて検査に時間がかかっていたこともあり、全員の検査が終わるまでは5日間くらいかかりました」とのこと。社内感染が広がらないように現場の勤務体制を見直して、通常は3フロア14名ほどのスタッフがいるところを、3フロア各1名に。現場は大変になってしまうけど、工場を止めないための苦肉の策だったと言います。

コロナ陽性となった方々が隔離期間を経て復帰し、通常稼働ができるようになるまでかかったのは2週間以上。こうした状況を乗り切るために、協力会社への外注、クライアントなどへの納期の相談、と篠原さんは各所との交渉に奮闘しました。クライアントによっては、「いったんうちの作業は止めていいから、1〜2週間経って落ち着いてから納期を決めましょう」と言ってくれたところもあったそうです。一方、納期交渉の余地がないところも。

後日、この大変な状況を改めてお聞きし、編集部の納期調整は意味があったのか、無理をさせてしまって申し訳ない気持ちになったのですが、そのことをお伝えすると篠原さんはこんな風におっしゃってくれました。「『広告』編集部に納期の相談をしたとき、最初に『なんとか調整してみます!』と言ってくれたんです。それを聞いて精神的に本当に楽になりました。何日納期をずらせるかまだわからなくても、なんとかしてくれようとしているんだ、ということがうれしかった」

「製造業って、気持ちの面が語られないというか、重きを置かれないことが多いんです。でも今回、『広告』編集部も含めて、なんとか協力や調整をしようとしてくれる方々が多かった。それはいままで業務だけじゃなく、お互いの考え方とか気持ちの面も含めて関係を築いてきたからなんじゃないかと思っています。『広告』の全体テーマである『いいものをつくるとは、何か?』はいつもすごく考えさせられるテーマなんですが、いいものをつくるというと、クオリティが高いもの、美しいものをつくる、というように“もの”に目が行きがちだけど、人と人との関係性があるから発揮できる力もあるんじゃないかなと思います。今回は、クライアントや協力会社がこちらの大変な状況をわかってくれて、助けてくれようとしてくれたから、苦しい状況でも背中を押されてがんばれました」と篠原さん。

コロナ陽性者が出たという話は、風評被害や信用にもかかわるセンシティブな話題なので書くか悩んだのですが、篠原さんにお聞きしたところ「コロナ禍におけるものづくりの現場についてぜひ書いてください」とお返事をいただいたので記載することにしました。コロナに罹患された方は、みなさん軽症で後遺症もなく、隔離期間後に現場復帰されているとのことです。

転売チェックで再び涙をのむ

『広告』編集部は転売に対してナイーブになってしまうところがあります。というのも、1円で販売したリニューアル創刊号では想定以上の転売が発生してしまったり、2号目となる著作特集号では200円で販売したコピー版がAmazonでひとりの購入者に転売目的で買い占められてしまうということがあったからです。その購入者とは交渉のうえ返品してもらうことになったものの、返品に必要な注文番号がなく購入者とも連絡がとれなかったとの理由で結果的にはAmazonに1,340冊が破棄されてしまったという苦い経験もあります。

3号目となる流通特集号では不健全な転売はなかったものの、表紙に記載した流通経路から、博報堂社内に配布したものが未開封のまま出品されていて、悲しい思いもしました。

今回は何も起こらないことを祈りつつ、発売日以降、メルカリ、ラクマ、ヤフオク、Amazon(公式販売以外)を日々チェックしていますが、5月19日現在、ラクマ、Amazonでは出品なし、メルカリでは16件、ヤフオクでは1件の出品がある状態。そのうち、10件は開封済みかつ定価以下で販売されているので、通常の二次流通だなと胸をなで下ろしています。

強いて言えば、献本としてお送りしただろうものが出品されているのを発見してしまい胸が痛みました。『広告』は販売分とは別に、博報堂のクライアントや識者、社内外の制作関係者などに献本として配布しているのですが、商品説明欄に「頂いたのですが読まないので出品します」と書かれた未開封のものが1冊、メルカリで出品されていたのです。出品者からすれば勝手に送ってきたのに何を言っているんだと思うでしょうし、捨てられるよりは読みたい人の手に渡ったほうがいいのですが、ビニールのシュリンクを剥がしてチラリとでも見てもらえればうれしかったな、というのが本音です。

また、今回は2月8日の予約注文開始に合わせて一部のクライアントと識者、社内と関連会社に専用のチラシを配布したのですが、そのチラシとともに出品されていたものが1冊ありました。出品したのが社外の方か社内の誰かなのか、雑誌は献本として受け取ったのか自分で購入したのかはわからないのですが、未開封で出品されているものにはどうしても敏感になってしまいます。

ちなみに、価値特集号や著作特集号では社外の献本や社内の配布分だとわかる目印のようなものがないため、その2号の献本と配布分がどう扱われたのかはわかりません。その実態がわかると、もっと悲しい気持ちになるのか……そうでないことを祈るばかりです。

虚実特集号に寄せられた意見

ここからは一般の方や書店のみなさまからいただいたアンケートをもとに、虚実特集号に寄せられた様々な意見を記載いたします。

【一般のみなさま編】
一般のみなさまへのアンケートは、誌面に回答フォーマットのQRコードを掲載したほか、『広告』や編集長の個人のTwitterアカウントより発信しました。また、Twitterで『広告』虚実特集号に関するコメントをされていた方にリプライで案内したり、社内への一斉メールで案内したりしました。そして3月1日〜5月13日の期間内に56件の回答(無記名)をいただきました。

> 一般アンケートの結果を見る

以下はアンケート結果の概要になります。

質問1:今回の『広告』をどのように入手しましたか?

質問2:今回の『広告』をどのように知りましたか?

質問3:白い本の写真を表紙とした装丁についてどう感じましたか?

質問4:特別企画のAR体験についてどう感じましたか?

質問5:今回の雑誌『広告』の良かった点をお聞かせください。
※自由回答をもとに編集部でカテゴライズ。重複あり。

> 回答の詳細を見る

質問6:今回の雑誌『広告』の良くなかった点をお聞かせください。

> 回答の詳細を見る

質問11:装丁デザインについてのご意見、ご感想をお聞かせください。

> 回答の詳細を見る

アンケートに回答いただいたのは、約半数が書店やAmazonで予約をして購入していて、真っ白な本を思わせる“書影”と実際の本のギャップという体験を届けられた方たちでした。そのため、表紙の仕掛けも楽しんでいただけているようです。

良くなかった点として、裏表紙がなく最終ページが剥がれやすい、横長の判型は扱いにくいという意見がありました。裏表紙をつけなかったのは、厚紙でつくられたカチッとした表紙と対照的にすることで虚実という特集に通じる不完全性や違和感を出すという意図があります。また、裏表紙が厚紙でないことで、手に取ったときに雑誌がたわみ、ページをめくりやすくするという効果も狙っています。今号に限らず「保管に向かない」という意見はいただくことが多く、大切に扱っていただけることはうれしいのですが、特集を感じられるような装丁を追求しているため、今後も保管のしやすさとは相反する装丁になるかもしれません。

また、特別企画として誌面と連動させたARがわかりにくいというご意見もありました。わかりやすさを重視すれば、誌面内の画像が動き出すなどのARになったと思いますが、今回はそうした説明的なARではなく、虚実性を孕んだAR作品を記事の内容とは別のアートワークとして連動させたいという意図がありました。

今回のARを制作いただいたARクリエイターの北千住デザイン・渡邊敬之さんの紹介と制作意図については、以下の記事にまとめています。ぜひご覧ください。

また、今回アンケートにご協力いただいた読者の方には、抽選で40名の方にAmazonギフト券(Eメールタイプ) 1,600円分または「広告 Vol.416 特集:虚実」1冊を進呈するご案内をしていましたが、このnoteの投稿を持ってプレゼント期間を終了とさせていただきます。アンケートの回答をいただいているのが56名なので、今号はかなり高確率です。当選した方には後日連絡させていただきます。なお、アンケートの回答は引き続き受け付けていますので、ぜひご協力をお願いします

> 読者アンケートはこちら

【書店のみなさま編】
書店のみなさまへのアンケートは、今回『広告』流通特集号を販売していただいた224の書店に案内。4月6日〜5月13日の期間内に137の回答(無記名)を得られました。

> 書店アンケートの結果を見る

以下はアンケート結果の概要になります。

質問1:今回の雑誌『広告』を取り扱って良かったですか?

質問2:予約販売についてどう感じましたか?

質問3:白い本の写真を表紙とした装丁についてどう感じましたか?

質問4:1,600円という価格についてどう感じましたか?

質問5:今回の雑誌『広告』を取り扱って良かった点をお聞かせください。
※自由回答をもとに編集部でカテゴライズ。重複あり。

> 回答の詳細を見る

質問6:今回の雑誌『広告』を取り扱って良くなかった点をお聞かせください。

> 回答の詳細を見る

質問7:お客様の反応はいかがでしたか?

> 回答の詳細を見る

書店のみなさまからは、予約販売はどうだったか、白い本を表紙とした装丁はどうだったかという質問に対しては「予約販売で話題性ができた」「驚きをお客さまと共有できた」など概ねポジティブな回答をいただきました。

ただし、良くなかった点に関しては、「売れ行きがよくない」というご意見をかなりいただいています。「店頭で販売するには仕掛けが伝わりづらい」「表紙から内容がわかりづらい」というコメントもいただいており、Amazonでの予約販売に流れてしまったり、店頭で初めて『広告』を見た方にはどういう雑誌なのかが伝わりにくく、それをフォローするための話題化も不発に終わってしまいました。

また今回、書店には表紙のネタバレをしないような情報発信をしてほしいと、実際の表紙の画像をSNSやウェブサイトに載せないようお願いしました。それにより「店の特色を生かした宣伝ができない」「お客様にアピールできない」といったご意見もいただきました。

虚実特集号を全文公開します

Amazonでは予約注文が好調だったこともあり現在で当初予定していた販売数も残りわずかとなっているのですが、これまで書いてきたように書店は芳しくないのが現状です。まだ手に入れていない方はぜひ書店でのご購入をお願いします。

ただ、「気になる記事だけ読みたい」という方のために、本日より週2〜3回のペースで、1記事ずつnoteで公開していきます。各記事とも公開後24時間限定で無料、その後は1記事160円の有料となります。各記事の公開タイミングは『広告』のTwitterアカウントでも発信します。

> 全文公開はこちらから

まずは巻頭メッセージから。こちらは全文無料となります。すでに公開している内容ですが、雑誌『広告』虚実特集号に編集長が込めた思いを綴っていますので、ぜひご覧ください。

> 巻頭メッセージ「虚実」


『広告』編集部


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吉 「風に順いて呼ぶ」
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博報堂が発行する雑誌。「いいものをつくる、とは何か?」を思索する“視点のカタログ”として2019年にリニューアル創刊。クリエイティブディレクター/プロダクトデザイナーの小野直紀が編集長を務める。最新号の特集は「虚実」。