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『広告』著作特集号の“生原稿”を発売

3月に発売した雑誌『広告』著作特集号では、「著作」にまつわるいくつかの取り組みを行なっています。ひとつは、2,000円(税込)のオリジナル版と、それをコピーして制作した200円のコピー版の同時発売。この販売方法を含む発売後のレポートは後日行なう予定です。そしてもうひとつは、各記事へのクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(以下CCライセンス)の付与です。

CCライセンスとは、インターネット時代のための新しい著作権ルールで、作品を公開する作者が「この条件を守れば私の作品を自由に使って構いません」という意思表示をするためのツールです。(詳細はこちら

『広告』著作特集号では、執筆者や取材先と協議のうえ、全20記事のうち16記事にCCライセンスを付与しています。今回、このCCライセンスを活用した新たな取り組みとして、現在開催されているオンラインブックフェア「TRANS BOOKS DOWNLOADs」へ『広告』編集部として参加することになりました。

TRANS BOOKS DOWNLOADsとは?

「TRANS BOOKS」は、電子・非電子・メディアを問わず、「本」をとりまく体験の多様性と可能性にふれる場として2017年より毎年回開催されているブックフェアです。これまではリアルなイベントとしての開催でしたが、今年は過去に例のない特殊な状況だからこそ、今ならではの「本」のあり方を探るべく「TRANS BOOKS DOWNLOADs」と題してオンライン書店をオープンしました。

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「TRANS BOOKS DOWNLOADs」ウェブサイト

開かれたインターネット上の世界と自分だけのパーソナルな世界の接合点とも言える「Download」をテーマに、インターネットとリアルをつなぐ様々な「本」が販売されています。5月30日から11月末までの開催で、現時点で17組の作家が参加しています。今後も作家は増えていくとのことです。

使ってもらうことで、著作物の遺伝子を未来に繋ぐ

今回、『広告』編集部が「TRANS BOOKS DOWNLOADs」で販売するのは、CCライセンスを付与した16記事の“生原稿”(Microsoft Word形式のデータ)です。これは「読んでもらうだけではなく、使ってもらうことで、著作物の遺伝子を未来に繋ぐ」ことを目的とした取り組みです。簡単にテキストをコピーできる形式とすることで、利用しやすくなるように意図しています。

「著作物の遺伝子を未来に繋ぐ」という考えは、リチャード・ドーキンスの「文化的遺伝子(ミーム)」という言葉を引用しながら書かれた『広告』著作特集号の最後の記事『文化的遺伝子は自由に繁殖したがる』(文:山本友理/編集協力:渡辺紺)に起因しています。

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『53 文化的遺伝子は自由に繁殖したがる』生原稿

この論考では、現在の著作権法はあくまで著作者や著作権者などの「人間」を主体とした文化発展のためのルールでしかない。仮にその主体を人間ではなく“生命体”としての「著作物」だと捉えると、著作物たちは積極的に利用されてそのDNAが後世に繋がれていくことを望んでいるのではないか。そして、この視点においてはつくり手としての人間は、過去の著作物の遺伝子を未来に受け渡すだけの歯車的存在と言える。というようなことが書かれています。

「人間」を主体とするのではなく「著作物」を主体とする視点の転換と、この論考のなかで語られる「人類文化史がこの先、1,000年2,000年という長いスパンでどのように進化・変遷を遂げていくのか、という高い視座に立てば(中略)誰が何をパクろうとも、誰が誰の権利を侵害しようとも、それらは乱暴に言ってしまえば『文化』にとっては些末なことでしかない」という捉え方は、編集をしていてとても新鮮でした。

価格は1記事200円、利用方法は様々

価格は各記事200円(税込)、16記事一式2,000円(税込)です。無料というのも考えたのですが、通常では手に入らない“生原稿”の対価として、また、お金を払ったからには元を取ろうという気持ちの作用に期待して価格をつけました。

利用の方法は様々ですが、例えば以下のようなものが考えられます。

・大学の授業や企業の研修などでの配布
・論文や原稿執筆などでの利用(改変する場合は改変OKの記事のみ)
・そのまま出力して販売
・独自にデザインして販売
・外国語へ翻訳して販売(改変OKの記事のみ)

各記事に付与しているCCライセンスは、クレジットの表示をすれば改変や翻訳が可能な「CC BY 4.0」と、改変をNGだけどクレジットを表示すれば再配布など利用ができる「CC BY-ND4.0」のどちらかです。そしてどちらも私的な利用だけでなく、組織・団体での利用や営利目的での利用ができます。

また、別の使い方として、視覚障害者の方に向けての機械音声での読み上げなど、テキスト情報ならではの使い方も可能です。

さらに、特典として「広告 Vol.414 特集:著作」オリジナル版で使用したAdobe InDesignのデザインテンプレートを各記事にセットで付けています。フォントの設定やレイアウト、マージンの設定など様々なデザイン要素を見ることができます。こちらも自由に使ってください。

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特典の『広告』著作特集号のデザインテンプレート

最後に

毎年、攻めたウェブデザインと興味深い作品の展示・販売をしている様子を外から眺めていた「TRANS BOOKS」。今年は「Download」をテーマにするらしいという噂を耳にしたとき、「著作」にからめて何かおもしろいことができるのではないかと直観的に感じました。本来こうしたインデペンデントなプロジェクトに博報堂のような企業が入ると企業色が出てしまいよくないという考えもあるとは思いますが、『広告』編集部としてぜひ参加したいという連絡をしたところ、快く受け入れていただきました。あらためて主催者の皆さまに感謝します。

いま、インターネット上にある膨大な著作物を自分のPCやスマホにダウンロードして利用する行為は、それが著作権侵害に当たる、当たらないに関わらず誰もが行なっているのではないでしょうか。ときに無自覚に行なわれるこうした行為の意義を、今回の“生原稿”の購入や利用をとおして考えるきっかけになれば幸いです。


雑誌『広告』編集部

TRANS BOOKS DOWNLOADs
「Download」をテーマに、インターネットとリアルを新たにつなぐ「本」を販売するオンライン書店。

会期:2020年5月30日〜11月予定
URL:https://transbooks.center/downloads/
*「広告 Vol.414 特集:著作 生原稿」の販売ページはこちら
注意事項
今回販売するデータの閲覧・利用においては、生原稿には Microsoft Word、デザインテンプレートには Adobe InDesign が必要です。また、使用されているフォントのデータは含まれません。予めご了承ください。生原稿の利用方法についての質問は下記までお願いします。
kohkoku@hakuhodo.co.jp


【『広告』著作特集号トークイベント】

『広告』著作特集号に関わりの深いゲストをお招きしてトークイベントを開催します。

著作特集号トークイベント 第1弾
法律家 水野祐 × 建築家 大野友資 × 『広告』編集長 小野直紀
〜この時代の「著作」のあり方とは?

▶ 詳細はこちら
著作特集号トークイベント 第2弾
美術家 原田裕規 × 写真家 Gottingham
〜これからの時代のオリジナリティについて話そう〜“著作性”とは何なのか?
▶ 詳細はこちら
著作特集号トークイベント 第3弾
グラフィックデザイナー 上西祐理 × 加瀬透 × 牧寿次郎
〜デザインにおける共同著作の可能性
▶ 詳細はこちら
著作特集号トークイベント 第4弾
陳暁夏代 × 峰岸宏行
〜中国におけるパクリの現在地

▶ 詳細はこちら


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