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『広告』リニューアル創刊号 全文無料公開

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2019年7月24日に発行された雑誌『広告』リニューアル創刊号(Vol.413 特集:価値)の全記事を無料で公開しています。
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2019年10月の記事一覧

10 「新しい」はもう古い? 〜 広告クリエイティブの “ねじれ”に時代を見る

ホモ・サピエンスは新・珍・奇がお好き「新しい」はそれだけで人を魅了する力がある。新しい製品、新しいサービス、新しい暮らし。何の変哲もない言葉もその冠をつけただけで、人の期待は高まってしまう。だが、「新しい」とは結局のところ何なのか? 何に「新しい」を感じるかは人によっても様々だ。 広告は「新しい」が大好きだ。広告産業はいつの時代も「新しい」を探し続けてきた。新しさを表現することがクリエイティブの役割であり、マーケティングというのも結局のところ「新しい」を設計する技術というこ

11 「新作」はもういらない? 〜 音楽の場合

平成初期、音楽は間違いなく娯楽の中心にあった。民放のゴールデンタイムには音楽番組が並び、毎週のヒットチャートは多くの人の関心を惹きつけた。ミリオンヒットとなる曲も珍しくなく、若者はCDを買い求め、その曲をカラオケで歌った。1998年、音楽ソフトの売り上げはピークを迎えている。 それから約20年。周知のとおり、状況は一変した。音楽はいま、数あるエンターテインメントのなかの選択肢のひとつにすぎない。また、ストリーミングサービスの登場により、巨大なアーカイブデータにいつでも

12 「新作」はもういらない? 〜 映像の場合

「好きなことで、生きていく」。2014年、Googleの広告で描かれた最先端の生き方──YouTuberは、いまや「小学生がなりたい職業」の上位にランクインするようになった。初めは驚きをもって迎えられたニュースだったが、状況は変わった。動画コンテンツは日に日に存在感を持つようになり、YouTubeは老若男女が楽しむプラットフォームになった。 NetflixやHuluをはじめとした、サブスクリプション型の動画配信サービス市場も拡大の一途を辿っている(2018年の動画配信市場規

13 いかに新しいものを生み出すか 〜 マンガにおける「新しさ」の意味

「新感覚」「新ジャンル」「新機軸」……マンガの世界は「新しい」に満ちている。「見たことがない世界」「体験したことのない感覚」という売り文句は確かに強い。真新しい物語が、自分の感覚や世界を広げてくれる。 だけど、物語の価値って「新しい」ことだけなのか、と問われたらちょっと違う気もする。王道の冒険物語、王道の恋愛物語、ともすれば「ベタ」と言われてしまうマンガにもまた、物語の力は宿っている。 たとえば少女マンガの世界。新しいジャンルやテーマの作品ももちろん生まれているが、ティー

14 「最新」があたりまえの世界へ 〜 アップデート前提のものづくり

家電やファッションの世界では、「新しさ」という評価指標が氾濫している。一方で、必ずしも「新しさ」を売りにしないものづくりのカタチがある。スマートフォンアプリは最新バージョンであることがあたりまえであり、ユーザはそのことをもはや意識すらしていない。Microsoft OfficeやAdobeなどのPCソフトも、パッケージ買い切りからアップデートによる逐次的な機能追加のモデルに移行した。 Amazon EchoやGoogle Homeなどのスマートスピーカーもまた、とくに操作を

15 アップデートする建築とプログラマー的建築家

建築にとっての「新しさ」とは何か。とかくスクラップ&ビルドのサイクルが根付いてしまっている日本では、直して使い続けるよりも、商品を買い直すように新築することが“安くてウマい”方法だった。それがいま、変わりつつある。先が読めない社会に対応するべく、未完でもいいから自分にアジャストできるものが求められているのだ。完成品を渡す納品型から、ニーズに対応し続けるアップデート型の建築へ。変わり続ける建築の価値を探ってみよう。 納品して終わりじゃない。アップデートが必須の現代建築2020

#3 無用

誰かに必要とされないものは、価値がないのだろうか? いま何かをつくろうとするとき、世の中の課題を解決したり、生活を便利にしたり、誰かを楽しませたり、多くの人に理解され、必要とされる何か、つまり「用」のものをつくらないといけないプレッシャーを強く感じます。 とくに広告会社に身を置いていると、短期間での売上や認知の向上といった課題解決型の仕事が多く、「いま必要ない」と感じられるものは、つねに後回しになります。 一見必要ないもののなかには、本当は必要だけど、言語化や数値化がで

16 世界最高峰の無用

2013年、ロンドン。ハイド・パークに隣接するケンジントン・ガーデンズに、巨人が石積み遊びをしたような、巨大な岩が巨大な岩の上に載った巨大なオブジェが現れた。 ©Peter Fischli David Weiss Photograph:2013 Morley von Sternberg 映像作品『事の次第』などで知られるスイス出身のふたりのアーティスト、ペーター・フィッシュリ(Peter Fischli 1952〜)とダヴィッド・ヴァイス(David Weiss 1946

17 役に立たないと、いま決めてはいけない

目の前にちょっとした石が転がっていたとしたら、あなたはその石が役に立つと思えるだろうか。 約260万年前、人類は石を道具に変えることによって世界を変えた。その道具とは、HandAxe、つまり石斧だ。肉を切り裂くという革新的な道具の誕生により、食生活は大きく変わり、豊富なカロリー源を得られるようになったことで徐々に脳も大きくなっていった。 石だけではない。落雷などで生まれた火を手に入れ調理や照明に用いるなど、所与のものを異なる用途に転用することでほかの動物とは異なる暮

18 Improbabilità (ありそうにない) 〜 ジュゼッペ・ コラルッソの役に立たないもの たち

©Giuseppe Colarusso 持ち手がロープになったカトラリー、排水口のない洗面台、かけ面がおろし金になっているアイロン……。 ビジュアル・アーティストのジュゼッペ・コラルッソ(Giuseppe Colarusso)によるこれらの一連の作品には、「Improbabilità(ありそうにない)」というタイトルが付けられている。 彼はこのシリーズのなかで、一貫してプロダクトの「機能」の無効化を試みている。役に立つ道具を、わざわざ役に立たなくしているのだ。 「

19 便利の先には「死」が待って いる

私たちは便利さを追い求めて、身体に代わって労働をしてくれる道具を生み出し続けてきた。いまでは、家事は電化製品を使用すればいいし、それも面倒なら外のサービスを利用すればいい。そんな暮らしは、とても気楽で快適だ。でも、そのような発展のしかたをこれからも続けていって、本当に大丈夫なのだろうか? 便利さを追い求め切り捨ててきたもののなかに、失ってはいけないものがあったのではないだろうか? 「負荷がない=豊か」という幻想チンパンジーが枝を使ってアリの巣をまさぐるように、きっと人類の祖