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94 ディズニーランドの虚構と現実
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94 ディズニーランドの虚構と現実

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1.はじめに

1983年4月15日、千葉県浦安市。
まだインターネットや携帯電話ですら、身近ではなかったこの時代。小雨の降るなか、真新しい入園ゲートの前には、約3,000人の客がその瞬間を待ちわびていた。まさかこの日が、日本の遊園地業界、さらにはレジャー産業を大きく変える節目になるとは、当時はまだ誰も想像すらしていなかっただろう。
午前8時45分、園内でセレモニーの壇上に立った、株式会社オリエンタルランドの高橋政知社長(当時)は高らかに叫んだ。
「1983年4月15日、ここに東京ディズニーランドの開園を宣言します!」

ウォルト・ディズニー・プロダクション(当時)が、米国以外で初めて手掛けたテーマパーク「東京ディズニーランド」が、ついに開園を迎えたのだった。いまでこそ日本一の入園者数を誇る、大人気のレジャー施設に成長したが、開園当時の反応は冷ややかだった。万国博覧会のように「半年で閉園する」といった噂や、土地を住宅地に転用して儲けようとしているのではないか、と成功を懐疑的に見る人間も多かった。もちろん、当時オリエンタルランドが掲げた「年間入園者数1,000万人」という目標に対しても、非現実的だとして信じる者は少なかった。

あれから38年。舞浜地区には世界で唯一、海をテーマにした「東京ディズニーシー」をはじめとして、ショッピングエリアやホテルが立ち並ぶ「東京ディズニーリゾート」が形成されている。ふたつのテーマパークの入園者数は、2018年度に過去最高の3,255万人を記録。単純に日割りすると、1日に9万人近くの人が訪れている計算になる。浦安市の人口の半分に当たる人々が、舞浜地区に毎日押し寄せているのだ。

では、どうして米国文化の象徴である「ディズニーランド」が、ここまで日本人に受け入れられたのだろうか。今回はディズニーランドの「虚構」と「現実」という視点から考察していきたいと思う。

2.なぜ、東京ディズニーリゾートに人が集まるのか

日常会話のなかで「ディズニー」と聞くと、多くの人は「東京ディズニーランド」「ディズニーのテーマパーク」を想像することが多いだろう。しかし、ディズニーとひとことで言っても、アニメーション映画にはじまり、実写映画、コミック、キャラクター、さらには稀代のクリエイターであるウォルト・ディズニー自身まで、その表す意味は多種多様なのだ。最近ではディズニー社が買収したマーベル・コミックや、ルーカスフィルムのコンテンツさえも「ディズニー」のなかに含まれている。それでも「ディズニー=テーマパーク」と多くの人が考えるということは、それだけ日本人にとっては東京ディズニーランドのイメージが強いということなのだろう。

なぜ、東京ディズニーリゾートに人が集まるのか。この疑問については、これまで多くの専門家が分析を重ねてきた。太平洋戦争の敗戦から、アメリカ文化への憧れがあったのではないか。高度経済成長から可処分所得が増え、ものよりも「体験」を重視する人が増えたからではないか。日本人が持つ「八百万の神」という考え方が、キャラクター好きを生み出したからではないか……ほかにも実に多面的な分析がなされてきた。そのうえで、ディズニーランドに人が集まるいちばんの理由は、現実を忘れさせ、虚構の世界を体験できるからではないか、と私は考えている。

なぜ、そう考えるのか。ここで時計の針を2010年に巻き戻すことにしよう。
当時、東京ディズニーシーの開園から10年近くたっていたが、ふたつのテーマパークを合わせた入園者数は、年間2,500万人台で頭打ちを続けていた。オリエンタルランドが今後の成長戦略を思い描いていたとき、日本を未曾有の大災害が襲う。2011年3月11日に東北地方の太平洋沖で発生した巨大地震、「東日本大震災」だ。

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博報堂が発行する雑誌。「いいものをつくる、とは何か?」を思索する“視点のカタログ”として2019年にリニューアル創刊。クリエイティブディレクター/プロダクトデザイナーの小野直紀が編集長を務める。最新号の特集は「虚実」。