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131 クリエイティブマインドを惹きつけるアップル文化の核心


「破壊」ではなく「前進」を目指すIT企業

あるインタビューでのスティーブ・ジョブズの言葉がビル・ゲイツとの確執を深めた。

「マイクロソフトの唯一の問題は、彼らにセンスがないことだ。彼らにはまったくもってセンスが欠落している。些細なことを言っているのではない、広く全般的な話だ。彼らは独自のアイデアを持たず、自らの製品に文化をもたらしていない」

マイクロソフトについて言及したこのインタビューは、1995年夏、パソコンの誕生に関してのドキュメンタリーTVシリーズ「The Triumph of the Nerds: The Rise of Accidental Empires」として収録されたものだが、のちに、当時テレビではカットされた部分も含めて映画『スティーブ・ジョブズ1995〜失われたインタビュー〜』として公開された 画像:『スティーブ・ジョブズ1995〜失われたインタビュー〜』 販売元/ハピネット 提供/フロンティアワークス、MSエンタテインメント・プラス ©John Gau Productions & Oregon Public Broadcasting 2011

確かに言われてみるとアップルの製品には、ほかのメーカーとは違う独特の文化があり、それがアーティストやグラフィック/プロダクト/ファッションなどのデザイナー、フォトグラファー、ミュージシャンといった多くのクリエイターを惹きつけている。市場の統計を見ると、世のパソコンの主流はWindows機のはずなのに、そうしたクリエイターの制作現場や展示を見に行くと、Macを目にすることのほうが圧倒的に多い。これらのクリエイターは初対面でもアップル製品の話題で盛り上がることができる。

このようなアップル製品にまつわる文化は、どのようにしてつくられたのだろう。冒頭のインタビューでの発言のあと、ジョブズは次のように続けている。

「プロポーショナルフォントという技術は、タイプセッティング(組版)や書物を見て誕生したもの。これらがアイデアの源泉となっている。もし、Macがなければ、彼ら(マイクロソフト)の製品にもこの技術が採用されることはなかっただろう」

プロポーショナルフォントは字形に応じて文字幅や間隔を変える表示技術だ。Macがこれを採用するまで、パソコンの画面表示では「w」と「i」のような幅の違う文字がすべて等間隔で表示されていた。少し間の抜けた読みづらい等幅フォント(字体)での文字表示があたりまえだったのだ。

欧文圏の活字では連続する文字の組み合わせによってふたつ以上の文字がひとつにくっつく合字(リガチャー)が使われることがある

このプロポーショナルフォントの採用がきっかけで、やがてアップルはDTP(Desktop Publishing、卓上出版)と呼ばれる技術を生み出し、世界を変えてしまう。DTPの誕生と発展には、アップルがいかにクリエイティブな文化を生み出したかのエッセンスが含まれているので、このまま少しだけ歴史物語におつき合いいただきたい。

パソコン登場以前、手書きの文字や活版印刷でつくられた書物には豊かな文字文化があった。国や話す言語、社会的役割に応じて同じアルファベットでもローマン体やイタリック体、ゴシック体と様々な字体があったり、単語に文字の塊としての美しさを与えるべくふたつ以上の文字を組み合わせてひとつにする合字など、様々な文字修飾の技法が存在した。

1970年代に登場した初期のパソコンは、まだ性能が低かったこともあり、こうした文字表現はできなかった。字体は選べず1種類だけで、それも等幅フォント。そのため出版の世界と比べると文字表現の能力はかなり未熟だった。しかし、それを補う便利さがあったため、ユーザーは「パソコンとはそういうもの」とこれを受け入れていた。

’80年代には、IBMをはじめとする多くの会社が、人気急上昇中のパソコン製品をつくりはじめていた。そんななかにあってスティーブ・ジョブズが率いるMacの開発チームだけが、活版印刷や書物の文化に敬意を払い、それを復興させるべくプロポーショナルフォントの技術を開発した。

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