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XX 博報堂と著作権侵害

こちらでもふれているように、本記事はもともと『広告』著作特集号(2020年3月26日発行/発行元:博報堂)に掲載予定であった。しかし、博報堂社内の関係各所への確認や調整に想定以上の時間がかかり誌面への掲載を断念。雑誌の校了後も調整を継続し、幾度もの確認・修正の往復を重ねた。そして初稿の完成から約7カ月、ようやく社内調整が完了し、noteにて公開を行なう運びとなった。本記事は全文無料、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス「CC BY 4.0(表示4.0国際)」で公開する。

『広告』リニューアル第2号の特集は「著作」。オリジナリティや著作権にまつわる記事を多く掲載している。しかし、そもそも発行元であるわれわれ博報堂は、このテーマを扱うにあたってどのような立場にいるのだろう。

多くのクライアントとともに、CMやポスターなど日々膨大な広告制作物を世に送り出している身として、オリジナリティや著作権に対していかに向き合っているのか。外に目を向ける前に、まず自分たちの内情を見つめ直すことが重要だと考え、過去の事案を調べるべく社内取材を行なった。

コンプライアンス遵守が叫ばれるいまの時代、広告会社にとって著作権侵害やそれに準ずる事案によるトラブルは、クライアントはもちろん、自社にとっても大きなダメージとなる。

ここでは、博報堂において実際にどのようなトラブルがあったのか、以下のように大きく3つに分類し、各事案の発生経緯と顛末について明らかにしていく。

1)著作権侵害にあたる可能性がある事例
2)著作権侵害にあたる可能性は低いが、それに準ずる事例
3)アイデアの盗用と抗議を受けた事例

併せて、そうした類似制作物が生まれてしまう原因と博報堂が行なっている対策についても論じていきたい。

なお、事実をそのまま記載すると守秘義務違反になり、クライアントをはじめとする社外関係者に迷惑をかけるため、以下にあげる事例では、登場するクライアントやブランド、制作物のジャンルや名称などはすべて架空のものに置き換えている。予めご了承いただきたい。

1)著作権侵害にあたる可能性がある事例

過去に起こったトラブルのうち、まずは著作権侵害にあたる可能性がある事例を挙げていく。日本の法律では、1)先行する作品を参考にしている(依拠性)と、2)先行する作品に似ている(類似性)、というふたつの事実が同時に認められたときに「著作権侵害にあたる」と判断される。参考にした作品があっても結果として似ていないものだったり、類似する先行作品があってもそれを参考にした事実がなかったら著作権侵害にはあたらない。具体的な事例を見ていこう。

1-1)偶然の一致にしては似過ぎていたケース

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A:博報堂が制作した競馬イベントのロゴ

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B:フォトグラファーの写真集に掲載された作品


上の画像Aは博報堂が制作した競馬イベントのロゴ、画像Bはあるフォトグラファーの写真集に掲載された作品。先に作品を発表していたBのフォトグラファーは、Aのロゴが自身の作品の著作権侵害にあたると抗議。

ロゴの制作を委託した外部のデザイナーに聞き取りを行なったところBの作品を見たことはないとのことだった。しかし、モチーフの形状や構図が酷似しており、著作権侵害の可能性があると考えられる事例である。抗議を受け、フォトグラファーと話し合いを行ない、最終的に双方ともに主張を取り下げ、和解に至った。

1-2)類似度がかなり高かったケース

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C:博報堂が制作した旅行会社のパンフレットのメインビジュアル

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D:アーティストの作品


上の画像Cは博報堂が制作した旅行会社のパンフレットのメインビジュアル、画像Dはあるアーティストの作品。構図やタッチ、全体の色使いが酷似しており、先に世に出ていたDを参照してCがつくられたという印象を強く受ける。著作権侵害に当たる可能性がある事例である。

Cが世に出て数年後、Dのアーティストからクライアントに抗議が入り発覚。博報堂は、制作を委託した外部のデザイン会社に事実関係を確かめようとしたが、担当したデザイナーはすでに退社していた。数年という時間が経過したのちに、このような問題が発覚するケースがあることは十分認識しておかなければならない。

1-3)フリー素材の利用規約を誤解していたケース

とある寝具メーカーが、ヒーリングミュージックをプレゼントするという広告キャンペーンを行なったところ、音源の権利者から「無断で使われている」との指摘があった。調査の結果、無断で第三者に配布することが禁止されている無料音源素材(JASRAC登録はされていないもの)を使っていたことが判明。

博報堂から外部の制作会社に委託し、さらにその会社が外注していたことで確認漏れが発生したと考えられる。発覚後、博報堂は音源の権利者に商業利用した際に発生する金額を支払い、クライアントに対しては経緯を伝え謝罪を行なった。

・考察

上記の3つの事例は、「著作権侵害にあたる可能性がある」ものである。一般的に外部の制作会社に委託しその会社がさらに外注を行なうなど、制作に関わる関係者が多くなり確認系統が複雑になるほど、こうした問題は起こりやすいと言える。

とはいえ、「著作権侵害にあたるとは知らなかった」「外部に委託していたから知らなかった」などの理由がまかりとおるわけはない。こうした事案が起きないよう、博報堂が責任を持って制作や管理進行を行なっていかなければならない。

2)著作権侵害にあたる可能性は低いが、それに準ずる事例

著作権侵害にあたる可能性が低いものであっても、権利者や第三者から「似ている」「パクリだ」と指摘されるケースがある。権利者からクレームが入ったり第三者によりSNSなどでパクリとして広まることは、クライアントの商品やブランドのイメージを損なうリスクがある。ここでは、博報堂の広告制作物のうち、そうしたトラブルになった事例を挙げていく。

2-1)第三者から抗議を受け、広告を取り下げたケース

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E:博報堂が制作したファッションブランドの広告ポスター

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F:海外アーティストの作品

上の画像Eは博報堂が制作したファッションブランドの広告ポスター、画像Fはある海外のアーティストの作品。Eの広告が世に出たあと、Fのアーティストのファンから「似ている」とSNSで抗議があった。Eの制作を担当した博報堂社員に確認したところ、Fの作品を見たことがなく参照もしていないと主張。

確かに表現手法や構成は似ているものの、類似したビジュアルはほかにも世に存在していたため、博報堂は著作権侵害にならないと判断。しかし、クライアントはブランドのイメージダウンを避けるため広告を取り下げた。

2-2)第三者の指摘によりSNSで炎上したケース

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G:博報堂が制作した書店の開店告知のためのポスター

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H:謎解きゲームのパッケージ


上の画像Gは博報堂が制作した書店の開店告知のためのポスター、画像Hはある謎解きゲームのパッケージ。書棚や地球儀、衣装など類似点が複数見られることから、HのゲームファンがSNS上で「パクリではないか」と投稿。多くのユーザーが反応し炎上した。

画像Gを制作した博報堂社員はHを見たことはあったが意図的に真似たわけではないと主張、博報堂としても著作権を侵害しているとは言えないと判断。クライアントも広告を取り下げることはしなかった。

2-3)許諾をとらずにパロディを制作したケース

とある娯楽施設のウェブ動画で、有名なテレビ番組のMCを彷彿とさせる人物が、その番組のテーマソングとともに施設を紹介するというものがあった。テーマソングについては楽曲の権利元に許諾をとっていたのだが、人物の描き方や演出内容は著作権侵害にはあたらないとして、無許可で制作し公開した。

公開後、テレビ番組のMCの所属事務所から抗議を受けたため、制作したウェブ動画を取り下げることとなった。

・考察

広告の制作過程において、制作物が既存の何かに「似ている」と感じられる場合、著作権侵害に当たる可能性は低かったとしても、それに準ずるものとして制作物の修正を行なうことは多い。しかし、「似ている」の受け取り方は様々で一様にルールで規制することは難しい。博報堂が「問題なし」として世に出したものであっても、「パクリ」だと受け取られる場合もある。

アートや映画、文学など文化的な作品においては許容または推奨されるパロディやオマージュといった手法も、広告という商業的な制作物では、元作品の力を借りて何らかの利益を得ようとすることに批判が出やすい。

いまはこうした事案に対するネガティブな反応がSNSやインターネットで拡散されやすく、クライアントが広告を取り下げざるを得なくなることも多々あるため、制作過程でより一層慎重な判断が求められている。

3)アイデアの盗用と抗議を受けた事例

最後に、アイデアの盗用に関するトラブルの事例を挙げる。よく知られているようにアイデア自体には著作権がない。そのため、問われるのは既存のアイデアに対する制作者のモラルとなる。しかしながら、アイデアの“独自性”や心情的な“帰属”の考え方は人によって異なり、また偶然似たアイデアを思いつくこともある。

どこまでが盗用なのか。「パクリ」なのか「かぶり」なのか。その線引きは非常に難しい問題である。こうしたなかで、博報堂として大きな非があるケースと問題なしと判断したケースを紹介する。

3-1)類似アイデアがあると知りながら無許可で広告を制作したケース

とある飲料メーカーに提案した広告のキーとなる衣装の表現アイデアが、若手のファッションデザイナーの作品の表現方法に類似していた。博報堂の制作者はその若手デザイナーの作品を知っていたのだが、博報堂の判断としては、あくまでアイデアの類似であって最終アウトプットは似ていなかったため法的にも問題ないとし独自で実施した。

実施後、そのキャンペーンが話題になったこともあり、ファッションデザイナーから「アイデアをパクられた」と強い抗議を受けた。類似するアイデアがあることを知りながら、アーティストへの配慮を怠ったことが問題となり、一部のクリエイターたちから非難を浴びる結果となった。

3-2)アイデアの盗用として抗議を受けたが、問題なしと判断したケース

とある家電メーカーの空気清浄機のCMで、立体的な星をモチーフにして新しい技術を表現した映像がつくられた。CM公開後、長年、立体的な星を象徴的に使ってきたアーティストがアイデアの盗用だとして取り下げを要請。

だが、星をモチーフにすること自体は一般的であり、強い独自性があるとは言えず、さらにCMの制作者がアーティストの表現を参照した事実もなかったため、博報堂は問題なしと判断。クライアントも同意し、CMは契約期間どおり放映された。

・考察

3-1)と3-2)の違いは、アイデアにどれだけ独自性があるかとそのアイデアを事前に知っていたかだ。3-1)のように独自性のあるアイデアを事前に知っていた場合、そのアイデアを無許可で実施するのは問題があると言える。

3-1)の事例でさらに問題なのは、アイデアに著作権はなく法的には問題はないとはいえ、大きな後ろ盾のない社会的に弱い立場のつくり手への敬意と配慮を欠いたことだろう。クライアントの予算を使い、安定した給料がもらえる立場で、さらにたくさんある仕事のひとつとして制作を行なう広告制作者が、ひとつのアイデアを追求し自身のお金と人生をかけて制作を行なう個人の作品にタダ乗りすることは厳しい批判の対象となることは当然である。

一方で、アイデアの盗用だと指摘する事案のなかには、独自性が強いとは言えないものや、ときには悪意を持った脅しのようなものもある。すべてのクレームを受け入れることは難しいのも事実だ。

類似制作物が生まれる原因と対策

ここからは、広告制作においてなぜ類似制作物が生まれてしまうのか、その原因を大きく3つに分類し、それらに対する博報堂の対策について論じていきたい。

・原因1:著作権にまつわる範囲の広さ

類似制作物が生まれる原因のひとつとして、広告は、写真、映像、音楽、文章など幅広いジャンルの著作物の組み合わせでつくられるものであり、著作権侵害やそれに準ずる事案を回避するためには、各著作物特有の多岐にわたる知見が必要になる事が挙げられる。さらに法律だけではなく、心情的なモラルや業界特有の暗黙のルールなどのリテラシーが求められる。

博報堂では、こうしたリテラシー向上のために、制作を担当する社員向けの研修を入社時に必須としている。また、営業向けにも入社時に必ず研修を行ない、さらに各部署の要請に応じて適宜実施している。

・原因2:企画や提案における「リファレンス文化」

広告会社特有の「リファレンス文化」も類似制作物が生まれてしまう原因のひとつだ。広告制作の現場では、写真、映画、音楽、イラスト、ファッション、漫画など様々なジャンルの作品を参照し企画を行なうことが頻繁にある。また、クライアントへ提案する際、具体的なイメージを伝えるために既存の作品をリファレンスとして見せることも多い。そして提案がとおったあとも、制作者やクライアントがそのリファレンスのイメージに引っ張られてしまい、類似制作物が生まれてしまうケースがある。

また、自覚的なリファレンスだけではなく、過去に見たり触れたりした作品を無意識に参照してしまうケースもある。これに加え、まったく見たことも聞いたこともないものとの偶然似てしまうリスクも発生しうる。

これらの対策として、博報堂には、制作過程において、先行の類似物がないか、参照にしたものは何かなど、制作責任者であるクリエイティブディレクターが必ず確認するルールがある。

また、参照した作品がある場合、もしくは偶然似てしまった作品があった場合、その作品と似ているものが世の中に3つ(場合によっては5つ)以上あるかどうかを探すということも現場では行なわれている。類似のものが多くあれば、それは一般的な表現であり著作権侵害にはあたらないと判断する材料のひとつになる。

さらに、法的な懸念事項の相談窓口である法務室とは別に、著作権侵害も含めたリスクのチェックを行なう組織が13年前に設立され、法的には問題なしとされることでも気になる点があった際の相談先として、随時リスクを確認する体制が敷かれ、現在では年間3,000件を超える相談があると言う。

・原因3:広告業界における働き方の構造

広告業界における働き方の構造も、類似制作物が生まれてしまう原因のひとつと言える。通常、ひとりのクリエイターは複数のクライアントや商品を担当することが多く、企画を生み出すためにリファレンスのイメージが残ったままになってしまったり、類似制作物の確認が疎かになってしまったりと問題が起こりやすい構造となっている。

こうした業界の構造は、一昨年より活発になっている「働き方改革」によって、業務量の調整やクライアントに対する納期の交渉などが積極的に行われるようになり、まだ十分とは言えないが改善の兆しを見せている。

最後に

いま、インターネットやSNSを通じて、類似制作物にまつわる批判や炎上の発生件数が格段に増えている。そのなかには、法律家から見れば著作権侵害にあたらないものや、プロの制作者から見れば問題ない範疇とされるものも多く含まれている。しかし、ひとたび炎上すると、専門家の見解は、一般の人の印象論の前になすすべがなくなり、場合によっては社会問題に発展することもある。

そもそも広告は専門家に向けてつくっているものではなく、世の中のすべての人が目にするものである。そのため、多くの人が抱く「印象」に向き合うことからは逃れられない。

インターネット以前の時代、類似制作物の発覚が限定的だった頃に活躍した往年の広告クリエイターに話を聞いたところ「パクリなんてあたりまえ」「完全なオリジナルなんてない」と言っていた。最近話題になったパクリにまつわるトラブルに対しても「これがダメなら何もつくれない」と。若手に対しても、この考え方が悪影響を与えているとも思われ、是正していかなければならないポイントのひとつだと感じている。

しかし、いまの時代、改めて広告会社の置かれている立場に目を向ける必要がある。広告というものは、クライアントやメディアの力によって、(制作者個人の能力を問わず)社会的な影響力を持つものである。こうした意味で、広告制作者は、ほかのつくり手と比べてより大きな社会的責任とモラルが問われると言える。

さらに、博報堂が対面しているすべてのクライアントやメディア、コンテンツホルダー、社外のクリエイターなど非常に多岐にわたる著作物を扱う関係者への配慮が求められる。

われわれ広告会社の制作者は、大きな予算や影響力と同時に、多くの制約と責任を背負っているのである。博報堂が掲げる「世界をリードする圧倒的なクリエイティビティ」(博報堂ウェブサイトより)を世の中に認めてもらうためには、会社全体、社員ひとりひとりがその意識をより一層高めていかなければならない。


文:飯田 菜々子、小野 直紀/イラスト:川嶋 ななえ

CC BY 4.0(表示4.0国際)
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https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja

[利用の際の記載例]
改変有り:「CC BY 4.0に基づいて『原稿タイトル』(著者名)を改変して作成」
改変無し:「CC BY 4.0に基づいて『原稿タイトル』(著者名)を掲載」
修正履歴
7月10日16時45分:誤植を修正
・2-1)「上の画像Eランドの広告ポスター」を「上の画像Eは博報堂が制作したファッションブランドの広告ポスター」へ修正

7月11日7時10分:わかりやすさのため加筆修正
・各事例をくくる見出しの前に「1)」のように数字をいれ、各事例の小見出しを「1-1)」のように修正
・冒頭の「3月に発売した『広告』著作特集号」を「『広告』著作特集号(2020年3月26日発行/発行元:博報堂)」へ修正
・2-1)2-2)の「制作者」を「制作を担当した博報堂社員」へ修正
・2-3)「公開後、テレビ番組のMCの所属事務所から抗議を受けたため、制作したウェブ動画を取り下げることとなった。」を追記

7月12日17時15分:わかりやすさのため加筆修正
・1-3)「著作権フリーの無料音源素材」を「無断で第三者に配布することが禁止されている無料音源素材」へ修正

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