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61 アフターデジタルとD2C 〜 これからの流通が向かう先

オフラインとオンラインの融合によって、大きく様変わりした「流通」の姿。中国ではアリババなどのプラットフォーマーが隆盛し、アメリカではD2Cブランドが勃興している。いま商品と顧客の接点で何が起こっているのか。そしてその先に何があるのか。いまやデジタル化先進国となった中国の実情を紹介・分析した『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』、『アフターデジタル2 UXと自由』(ともに日経BP)の著者・ビービットの藤井保文氏と、アメリカにおけるD2Cビジネスの事例とその本質をまとめた『D2C』(NewsPicksパブリッシング)の著者・佐々木康裕氏が語り合う(文中の──は編集部による質問)。


既存プレイヤーへのカウンターとしてのD2C

藤井:D2Cについて佐々木さんにお伺いしたいことがあったんです。一般的にD2Cはメーカーと顧客がダイレクトにつながることを指します。しかし、佐々木さんは「D2Cの本質は、ものを売ることから世界観を売ることへのシフト」とおっしゃっていて、確かにそのとおりだなと。

僕はそれに加えて、D2CにはGAFAなどのプラットフォーマーに対するカウンターカルチャーの側面があるのではないかと考えています。GAFAのロジックやテンプレだと、メーカーはできることがすごく限られる。たとえば商品ページで世界観を表現したいと思っても、アマゾンでは限界があり、お客さんと思うようにつながれません。その状況へのカウンターカルチャーとして、D2Cが出てきたのかなと。

佐々木:流通の長い歴史のなかで、顧客との接点を押さえる人とものをつくる人はずっと分業してきました。たとえばカップラーメンをつくる人と、それを売るスーパーマーケットやコンビニは役割分担してきて、みんなそういうものだと疑問を抱かずにきたわけです。

しかし、デジタルによってそうではない可能性が示された。ECサイトを構築すればリアル店舗ほどお金はかからないし、従業員を大量に抱えなくてもいい。顧客との関係もSNSで築くことができる。それで「これ、自分がやったほうがいいじゃん」と気づいた会社がD2Cをやりはじめた。

そういう意味では、D2Cはいままでの流通が持っていた理不尽さに対するカウンターカルチャーといえるかも。従来はサプライチェーンをいじめながら価格を維持していたり、カルテルみたいなことをして不当な利益を得ていたり、消費者の便益とは関係ない供給者側の力学で決まっているところもありましたよね。顧客接点の不便さも、そこで隠蔽(いんぺい)されていた。しかし、D2Cが出てきて、隠されていたところがアンカバーされ、消費者とブランドがいちばん都合のいい形で流通側の都合が塗り替えられていった。そこはカウンターカルチャー的です。

藤井:そうするとGAFAに限らず、既存の流通も含めて数の力に対するカウンターといったほうが正しいかもしれませんね。

佐々木:そうですね。GAFAのなかだととくにアマゾンへのカウンターですが、それ以上に、ウォルマートなどリアル店舗で売り場と顧客接点を押さえていたプレイヤーへのカウンターという要素が大きいと思います。

実際、家電量販店と家電メーカーの関係性は不健全な面があります。たとえばエアコンのような技術進歩があまりない成熟した商材は、毎年新しいモデルを出す必然性に乏しいです。しかし、売り場に賑やかさや更新性を与えるために、家電量販店はメーカーに「新モデルが必要」という風に促す。それを受けたメーカーは少しの機能追加や色展開などを行ない「2021年夏バージョン」をつくるわけです。消費者にとってもあまり利便性がなく、メーカーも本質的とはいえないような近視眼的な商品開発を行なうことになる。D2C化すれば流通大手とのよくない共存共栄関係から抜け出して、こうした消費者の価値に直結しない行動をやらなくてもすむわけです。

届け方で世界観は表現できるのか

藤井:D2Cが流通大手プレイヤーへのカウンターだとすると、届け方や保管のしかた、パッケージなどにも、カウンター的なものが反映されていくのでしょうか。アマゾンだと何を買っても似たようなパッケージで届いて、メーカーの個性はありません。

一方、靴のD2Cである「オールバーズ(Allbirds)」で商品を買ったときは、レジ袋ではなく、靴箱に靴ひもをつけて取っ手にするというエコな運び方で渡されて、とても新鮮でした。そういう風に消費者にものを届けるときや箱を開けたときの感覚を、D2Cはきちんと調整できるのかなと。世界観を表現するのがD2Cの本質だとしたら、それを流通のシーンでどこまでやれるのか、すごく気になります。

佐々木:方向性はふたつあります。まず、顧客とブランドの接点のすべてを自分でコントロールしようとする動きです。厳密にはD2Cブランドではないのですが、フィットネスバイクの「ペロトン(Peloton)」が象徴的かな。彼らは自分でロジスティクスをやっています。イヴァンカ・トランプが購入した様子が激写されていましたが、250ドルくらい追加で払うと、ペロトンのトラックで専用のスタッフが家まで運んでくれるんです。

スタッフは、いかにもペロトンで鍛え上げましたというタイプの男性で、しかも運ぶだけではなくオンボーディングまでしてくれる。ネットワーク設定があるので、運動はしたいけど設定がわからない人にとって、「1回目のクラスをいっしょにやってアカウントをつくりましょう」というのは、とても便利でしょう。

カスタマージャーニーの視点でいうと、配送は数多(あまた)あるタッチポイントのうちのひとつです。商品の認知はSNSでやるし、店舗で商品のトライアルをしてもらい、購入はサイトでもできます。使いはじめたあとのコミュニティも自分たちで管理している。まさにすべてのタッチポイントを自分たちでコントロールしないと気がすまない感じですね。ペロトンは1台数千ドルと価格帯が高く、物流網的に数をさばかなくても大丈夫という側面はあるかと思います。

藤井:すごいですね。自分たちで世界観を統一するために、リアルの接点をどう使うかというところまで考えている。

佐々木:もうひとつの方向性が、つるはし屋さん(※1)の利用です。D2Cブランドがたくさん出てきたあと、彼らがつくりそうなパッケージを請け負う業者がたくさん出てきました。開けたらメッセージが書いてあるとか、パステルカラーでかわいい感じにしたりとか、いかにもD2Cらしいパッケージをつくります。最近は、そうしたつるはし屋さんが配送も請け負って、顧客体験を損なわない形でものを届けてくれる。

藤井:配送方法や保管のしかたでユニークネスを出すプレイヤーはいないんですかね。

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