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123 同人女の生態と特質 ~ 漫画家 真田つづる インタビュー

かつて、「大衆文化」と「サブカル」の間にははっきりと境界線があった。もともと日本では、漫画やアニメ、ヒップホップ音楽など一部の人たちが享受するコンテンツなどを指して(「サブカルチャー」の本来的な意味ではなく)「サブカル」と呼んでいたが、いまやすべて大衆文化となっている。サブカルは商業的な力学のもとに大衆文化へと同質化していく特性があるのだ。

だが、そこには数少ない例外がある。そのひとつが二次創作の世界だ。かつてサブカルだった、そしていまや大衆文化となった漫画やアニメ、ゲームなどの「原作」をベースに、ファンたちがつくりあげる二次創作。それらは大衆の目に触れにくい場所で、しかし計り知れないほどの規模と強度のコミュニティを形成し、今日も生み出され続けている。

二次創作は原作に対するファンアート的な立ち位置でつくられる文字どおり「二次的」なものだ。著作権的にも限りなくグレーな創作物であるがゆえに、大規模に商業化されることもなければ、日の目を見ることも少ない。それが、二次創作が大衆文化になりえない最大の理由だろう。同人誌は商業活動ではなく心を同じくする「同人」同士で分かち合うためにつくられるものであるため、販売ではなく「頒布はんぷ」と呼ばれる。その精神は、このインターネットやSNS全盛の現代においてもなお受け継がれ続けている。

そんな現代に残されたサブカル的コンテンツのひとつである二次創作。本稿では、そのなかでも特異性が強いと思われる「女性向け二次創作」、つまりBL(ボーイズラブ)を描く二次創作に焦点を当てる。その世界で活動する「同人女」たちの生き様を描いた漫画『私のジャンルに「神」がいます』(KADOKAWA)の作者である漫画家・真田つづるさんにインタビューを行ない、彼女たちの生態や女性向け二次創作の特質を解き明かしていく。

なお、聞き手である筆者は、広告会社でコピーライターとして働きながら、現在進行形で女性向け二次創作に勤しむ同人女である。筆者自身の実体験も踏まえながら、話を伺っていきたい。


「非商業的」な二次創作のモチベーションとは

──この世界は基本的に非商業的であることが前提だと思うのですが、二次創作のモチベーションの源泉とは何なのでしょうか? なかにはややもすると「下品」と思われるような種類のモチベーションもあるように思うのですが。

真田:同人女の創作モチベーションには、大きく分けてふたつあると思っています。ひとつめは「推しへの愛」、キャラを推したいという気持ちです。世の中にはいろいろなオタクがいますが、そのなかでも「同人女」とは、「推し活動の一環として二次創作をしている人」のことだと思っています。彼女たちがなぜそこまで一生懸命になって二次創作ができるかというと、キャラクターを推す力、推しに対するエネルギーが非常に強烈だからです。その推しへの愛、推し活の裏にある「願望」というのが、これまた3つほどに分けられると思っています。

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