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116 カルチャー誌の過去と現在


カルチャー誌とは何か

日本に「カルチャー誌」は存在しない。いや、定義が存在しないのだ。日本三大中型辞典『広辞苑』(岩波書店)、『大辞林』(三省堂)、『大辞泉』(小学館)に収録されていないし、日本唯一の雑誌の総目録だった『雑誌新聞総かたろぐ』(メディア・リサーチ・センター、2019年休刊)や取次用資料『雑誌のもくろく』(日本出版販売、2022年休刊)の分類に「カルチャー誌」という項目がつくられたことは一度もない。

たとえば、ここ15年ほどの間に貴方が本屋で見た「カルチャー誌」をいくつか想像してほしい。次に引用する『雑誌新聞総かたろぐ』のカテゴリーのどこにいるかを見てほしい。下図は2009年版と2019年版から代表的だと思われる誌名を抽出したもので、休刊した雑誌も含んでいる。

『雑誌新聞総かたろぐ』(メディア・リサーチ・センター、2019年休刊)の2009年版と2019年版から、代表的だと思われる雑誌を抽出して作成(休刊した雑誌も含む)

おそらく想像と少し違う場所に位置づけられているのではないだろうか。実のところ、『STUDIO VOICE』(INFASパブリケーションズ)が「一般総合誌」から「美術・アート・デザイン」に、『Quick Japan』(太田出版)が「エンターテインメント」から「生活情報」に、『ユリイカ』(青土社)は「哲学・思想」から「詩」に移動したりと、雑誌の動向によって変化はあるのだが、いずれにせよ「カルチャー誌」というカテゴリーが存在しないかのように、ここでは散り散りに配置されている。もともと雑誌の分類は『出版年鑑』(出版ニュース社)などの業界動向解説から生まれ、その後に広告出稿側のニーズで具体的な読者層の把握のために細分化されていったものだが、そこに「カルチャー誌」の読者層は「層」として認知できない分析しづらさがあったのかもしれない。

とはいえ、この言葉を使う人々は確実に存在し、確認しあわずとも漠然と共通認識はある。おそらくそれは「専門誌ではない、様々な事象を取り上げる総合雑誌。しかし内容は政治・経済・社会よりも大衆文化を中心としたもの」といったところではないか。多くは特集主義で、毎号扱うテーマを変えながら、編集方針となる基本スタンスは変わらない。大事なのは分野横断/ジャンル越境の態度であり、スペシャリストよりもジェネラリストを志向している。昔はこうした雑誌のあり方は「オピニオン誌」と同義だったが、誌面からオピニオン=意見/主張が消え、代わりに消費社会ガイドブックに近づいたことで、「カルチャー誌」に落ち着いたのだと推測する。そしてカルチャー誌が消えつつあるのが2023年現在である。

ここではカルチャー誌がどのように生まれ、どのように滅んでいったのか(?)を概説していく。

1960年代のカルチャー誌の誕生

近代社会成立以前、人は突然、子どもから大人になっていた。それが社会の発展によって幼少期と成人期の間に「青年期」が発見されると、19世紀の日本に「Young Men」が輸入され訳語「青年」が流行する。時代によって示す範囲は変わるが、現代日本はおおよそ15〜29歳を青年期と呼ぶ。カルチャー誌に手を伸ばしはじめる年齢も、この青年期のはずだ。政治経済はまだ自分には関係ないものだとし、学校では教えてくれない同時代に起きている何かについて知りたいときに、カルチャー誌は最初に手にする方位磁石だった。

カルチャー誌の定義が存在してこなかった以上、カルチャー誌の正史というのもないのだが、雑誌の歴史からカルチャー誌と呼べそうなものを抽出していくことでその代わりとしよう(カッコ内の年は説明がない限り創刊年)。

日本でカルチャー誌が誕生したのは’60年代である。それは1964年に『平凡パンチ』(平凡出版、現・マガジンハウス)が創刊されたからだ。『平凡パンチの時代』(マガジンハウス)で「日本の若者文化は昭和39年に『パンチ』が創刊され、まがりなりにもたくさんの若い読者を集めることができたことで誕生した」(※1)と言い切るのは自画自賛が過ぎるかもしれないが、この雑誌を日本の若者文化誕生のひとつの象徴として扱うのは様々な資料から検証しても間違いではない。

『平凡パンチ』1964年創刊号(平凡出版) 画像:©マガジンハウス

当然ながら『平凡パンチ』以前にも若者向けの雑誌というのは存在する。平凡出版が出していた『平凡』(1945年)および『週刊平凡』(1959年)、近代映画社の『近代映画』(1945年)や集英社の『明星』(1952年)といった、人気俳優/アイドルの動向を紹介する一連の大衆芸能誌の読者は主として若者であった。1962年末創刊の『FIVE 6 SEVEN』(わせだ書房)は男性向けファッションを中心にパロディギャングの手によるアメリカ的なナンセンスを持ち込んでいたし、小学館の『ボーイズライフ』(1963年)はサイズは漫画誌だが、中高生向けにスポーツ/車/スパイ/秘境/芸能/劇画など読み物記事を充実させたミドルティーン向け総合誌だった。

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