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137 生きた地域文化の継承とは ~ 3つの現場から見えたもの


どこまでが「継承」か?

2018年1月。驚くようなニュースが飛び込んできた。

「八丁味噌でGIブランド論争 老舗2社外れ、不服申し立てへ」。

GIとは地理的表示保護制度のこと。産地の風土がその品質や特性に結びつく農産物や食品を、地域ブランドとして保護する制度である。「近江牛」や秋田の「いぶりがっこ」「夕張メロン」など、模倣品の排除を目的に、国内で122品目が登録されている(※1)。

八丁味噌は、愛知県岡崎市八帖町が発祥の地。老舗2社「まるや八丁味噌」と「カクキュー(合資会社八丁味噌)」が、江戸時代から「木桶、石積み、二夏二冬」で仕込む製法を守ってきた。

ところがこの2社が、GI対象から外れることになった。追加登録されるか「GIでない」と表示しなければ、2026年2月以降「八丁味噌」の名を使うことができなくなるという。

なぜ、そんなことになったのか。調べてみると、老舗2社の属する協同組合も「岡崎市八帖町」を産地としてGI制度に申請していた。だが、岡崎以外にも八丁味噌を販売する業者はあり、農林水産省は認定範囲を愛知県全体に広げるよう要望。それらの業者は老舗2社と製法が違い、「基準をゆるくすれば品質を保てず、偽物をばら撒くことになる」と2社が合意できず、話がまとまらなかったという。そこで国は、より幅広い味噌・醤油メーカー43社が加盟する「愛知県味噌溜醤油工業協同組合」を申請団体として認定し、そちらには老舗2社が入っていなかった。

本来であれば、ピラミッドの頂点に位置づけられるべき本家本元が「八丁味噌」の名前を使えなくなるのは、GIの主旨からすると本末転倒な話だ。

毎日新聞はこの問題を「国は『食の歴史』より『国際戦略』優先」と報じた。「食の歴史」の信頼性や元祖が揺らげばブランド価値そのものが揺らぐわけだから、老舗2社を決してないがしろにはできないと筆者は思う。元祖は別の形であっても、元祖として示されるべきだ。だが一方で、この出来事は、もうひとつの大きな問いをわたしたちに投げかけているようにも思う。

どこまでを、八丁味噌と言っていいのか? 何をもってその文化の「継承」と言えるのか? という問いである。原料が同じなら「八丁味噌」か。100%製法が同じでなければならないのか。

農林水産省の肩を持つわけではないが、日本の産品をブランド化して売るのも食文化を維持していくうえでは重要だろう。輸出するには、ある程度の量が必要になる。

木桶ではなくタンクを使い、二夏二冬ではなく一夏の熟成で終わらせる。そうした製法でつくられた味噌は八丁味噌とは呼べないのか? については、人によって答えが割れそうな問いである。

文化の解像度を上げる

「どこまでが継承か?」の問いは、食文化に限らず、ものづくりにも当てはまる。

原料や製法は変わらずとも、人々の生活から遠ざかり、文化財として保護されるだけになっても、その文化は継承されていると言えるだろうか。

いま伝統的工芸品に指定されるものづくりには、需要そのものが減り、手間と価格が見合わず、経済活動として成り立たなくなっているものも多い(※2)。重要無形文化財指定の沖縄の芭蕉布の品など、いまも一部では人気があるが、値段を見て思わず目を見張った。手のひらサイズの小さなポーチがウン万円する。ただし現地を訪れ、畑で自分より背の高い芭蕉を見て、収穫、加工する労力を知り、人間国宝・平良敏子さん(※3)の神秘的な手つきを目の当たりにすると、決して高いとは思わなくなるから不思議だ。ただこちらのお財布事情は変わらないので、やはり日常的に買えるものでないのは、確かである。

生かせるところは生かす。でも変えるべきところは変える。要素を分解して「どこまでを残し、どこから先を変えるか?」の精度を上げることが、伝統産業を残していくうえで大事だという話は、これまでに現場にかかわる人たちから何度も聞いた話だ。

だが産業だけでなく、文化的価値の面を考えると、話はより複雑になる。

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