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66 「あたりまえの日常を止めない」

2020年春、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言の発令と前後して店頭商品の「買い占め」が一気に始まった。マスクやハンドソープをはじめとする衛生用品、トイレットペーパーなどの紙類、パンや米などの食品まで、様々な商品が一斉に店頭から姿を消した。その様子を目の当たりにして、あたりまえの日常生活はいとも簡単に「あたりまえでなくなる」と感じられた方も多いのではないだろうか。その、毎日使うものが店頭に並んでいるという、「あたりまえの日常」を支える仕事のひとつが卸売業だ。

流通業は、よく川の流れにたとえられる。サプライチェーンとも言い換えられるその一連の流れは、川上にある製造業(メーカー)が製造した製品が、卸売業を経て、小売業の店頭に並び、商品として消費者の手に届くまでを指す。製造業と小売業は一般消費者との接点も多く、認知度も高いが、卸売業と聞いてその業務を具体的にイメージできる人は少ないはずだ。1960年代には「問屋無用論」が唱えられた時期もあったが、流通業界において、製造業から仕入れた商品を在庫し、仕分け、店舗まで配送する卸売業はいまだ大きな役割を担っている。アマゾンのようなグローバルEC企業が存在感を増し、また製造業が消費者に直接販売を行なうD2Cも勢力を増しつつある昨今、その卸売業の役割はどう変化しようとしているのか。

本稿では、卸売業の歴史的成立過程や機能を解説しながら、次世代の卸売業が目指す姿について、そして筆者が考える課題について考察する。なお、本稿における卸売業は、筆者が日々取材活動をしているトイレタリーや日用雑貨などの消耗品カテゴリーにフォーカスしたものとなっている旨ご留意いただきたい。


様々な規模・膨大な数の企業が入り乱れる日本の流通業界

製造業と小売業の間を橋渡しする卸売業は、その歴史を振り返ると、平安時代後期から鎌倉時代に組織された「問」に由来する。問は、年貢米の陸揚地である河川・港の近くの都市に居住し、運送、倉庫、委託販売業を兼ねる組織だった。室町時代には一般の商品も扱うようになり「問屋」と呼ばれるようになる。中世末期頃からは、運送機能よりも卸売機能に重点が移り、市場を代行する機関となったという。山や川が多く、決して交通の便がよいとはいえない我が国において、各地域の特産物を販売するのに重要なのは「運送機能」だった。こうした地形的な背景もあり、日本の流通業で運送機能を担う「問屋」(=卸売業)は他国に比べて早い時期に成熟した。また、先進諸国と比較して、卸売業の役割が分化しているのも日本の流通業の大きな特色である。

日本の流通業においては、食品、日用雑貨、医薬品、酒類など取り扱う商品のカテゴリーによりまったく異なる流通の仕組みが形成されていて、各カテゴリーごとに様々な卸売企業が存在する。たとえば日用雑貨であればパルタック(売上高1兆464億円・2020年3月期)、あらた(同7,962億円・2020年3月期)、食品卸売業であれば三菱食品(2兆6,546億円・2020年3月期)、日本アクセス(2兆1,543億円・2020年3月期)、医薬品であればメディパルHD(3兆2,530億円・2020年3月期)、アルフレッサHD(2兆6,985億円・2020年3月期)……など、日本中に物流倉庫を持ち、全国展開している大規模な卸売業がある一方、数名規模で細々と運営している卸売業も膨大にある。商業統計によれば、平成26年度、国内には卸売業の事業所数が26万あり、うち約75%の事業所が9名以下であるという。また、東京・大森の海苔問屋や出版の神田神保町、宝石類の御徒町など、小規模問屋は一定地域に集積することが多い。

このように様々な規模と膨大な数の製造業、小売業、卸売業が入り乱れ、日本独特の流通業の仕組みが構築されてきた。

卸売業の基本機能は「物流・商流・情報流」

では、その卸売業は実際のところどのような役割を果たしているのか?

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