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128 経済立国シンガポールの文化事情

シンガポールは、日本人からポジティブとネガティブ、両極端のイメージを持たれることが多い国です。ポジティブなだけのパラダイス国家は、空想の世界にしか存在しないのだから、ネガティブもついてくるのは当然なのですが、シンガポールの場合は両方に振り切っている印象です。ポジティブなものは「お金持ちなんでしょ」「マリーナベイ・サンズの屋上プールやカジノがすごい」「政府が賢い」「タックスヘイブン」で、ネガティブなものは「明るい北朝鮮」「文化がないから住むと飽きる」「四季がない」「監視社会」などなどです。

うにうに@シンガポールウォッチャーです。小野編集長から、「経済立国シンガポールの文化事情」をテーマに原稿の依頼を受けたときに、「これはどっち側の依頼なんだ?」とクビをひねったわけです。「シンガポールにおける文化」とは皮肉なテーマでもあり、「心を入れ替えて頑張っているところで、今後はもっと頑張ります」という取り組みを伝えられるテーマでもあります。

シンガポールは、東南アジアのマレー半島の先にある島国で、建国57年と若く、東京23区ほどの大きさの都市国家です。先の大戦では日本軍が占領し、シンガポール華僑虐殺事件と圧政で遺恨となるものの、政府の政策、日系企業の進出と雇用、サブカル・和食など日本文化の浸透の影響で、対日感情は大きく好転しました。ひとり当たりの名目GDPでは世界7位、アジアで1位(IMF、2022年)と、経済的にはいまが絶好調の国です。


シンガポールは“文化の砂漠”

高度経済成長期、日本人は「エコノミックアニマル」呼ばわりされていて、日本人もそれを受け入れていましたが、バブルが弾けたいまとなっては「日本は文化豊かな国」にしれっとすり替わりました。経済的に豊かになり東京など都市圏にお金が集まって文化創造が活発になったことや、長い歴史のなかで集積されてきた文化遺産が評価されています。漫画やアニメなどのサブカルについては世界最高峰との自負もあります。

シンガポールは「文化の砂漠(cultural desert)」と呼ばれています(いました)。日本人が「シンガポールと言えば」でここぞとばかりに持ち出すステレオタイプの「明るい北朝鮮」は、日本国内でしか通じない日本人用語です。シンガポールは一党独裁などではなく“北朝鮮”のイメージを満たしません。秘密投票で普通選挙が行なわれているのに、国を発展に導いた与党への国民の信任が厚く、野党が勝てないだけです。自民党が政権をずっと担っていた55年体制の類似型として、“一党支配”が妥当な分類です。一方、「文化の砂漠」はシンガポール人にも通じます。政府文書にも「文化の砂漠(cultural desert)」の表現がでてきます(※1)。自他ともに認める表現なのです。

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