20 無用なものへのまなざし 〜 打ち捨てられたゴミに息づく生命の痕跡
©shinichiro uchikura
2018年度「写真新世紀」優秀賞を受賞した写真家・内倉真一郎のシリーズ『Collection』。真っ黒な背景にゴミが並ぶ本シリーズは、標本図鑑のように一つひとつ、丁寧に撮影され、その存在自体がまとう異質さがありありと伝わってくる。
これらのゴミは、もともと近所の道端、海岸、川、山、飲み屋街といった、いわゆるゴミ捨て場ではない、日常のなかに打ち捨てられていたものだ。もちろん内倉は、写真を通じて「ゴミを捨てるのは禁止」といった警告を伝えたいわけではない。
きっかけは、散歩していた際に偶然「正体不明の説明がつかない」ゴミを見つけ、疑問を抱いたことだった。以降は見知っているはずのものが様々な場所を経て、別の姿へと形を変えている、そんな印象を強く受けたゴミを撮影していった。
なかでも衝撃を受けたのが、失敗作として捨てられていたフクロウの剥製。「透明のビニール袋に入れられ、取り出すとまだ少し温かい状態で、瞳には潤いが残っていました。右の羽が上がっているのが失敗の理由でしたが、そこにはつくった人間とつくられたものの結びつきがあり、人間の痕跡が現れていたんです」。
ゴミとは、人間社会にとって無用となったものであり、その生涯を終えたもの。しかし、そこには無数の「生きてきた」痕跡が残されている。それは、大量生産された空き缶や車椅子といったコモディティでも同じだろう。人間の手を介することで、一つひとつに歴史が刻まれ、唯一無二のものへと姿を変えていく。その成れの果てがゴミなのだ。
そんなあり様が、内倉の目には映っていた。
「誰もが見逃す、もしくは、見ようともしないゴミには、メッセージがある。それは、命あるものには必ず終わりがあり、形あるものは必ず崩れていくということ。その最後の姿を、ポートレートシリーズにしようと思いました。写真で永遠に残された、生命体=ゴミたちは一点一点、大切な宝物です」これは、声なきものたちの記録であり、その存在を讃えるまなざしでもある。
構成・文:酒井 瑛作
内倉 真一郎 (うちくら しんいちろう)
1981年、宮崎県生まれ。日本写真映像専門学校卒業後、六本木のスタジオアートプラザに勤務。その後独立し現在は宮崎県にて活動中。主な受賞歴にニコンサロンJuna21、コニカミノルタフォト・プレミオ、7th EMON AWARDグランプリ、キヤノン写真新世紀優秀賞など。清里フォトアートミュージアムにて作品が19点永久所蔵されている。
酒井 瑛作 (さかい えいさく)
ライター/エディター。1993年生まれ、郊外育ち。主に現代写真、ファッション写真について執筆。「SIGMAFAT」「Pen」「IMA」などのアート、カルチャー領域媒体で活動中。
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この記事は2019年7月24日に発売された雑誌『広告』リニューアル創刊号から転載しています。
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