新潟で本好きたちに愛され続ける「北書店」
編集部員の全国書店開拓ノート47
販路開拓のために編集部員が訪れた全国の書店。直接お会いしてわかった店主のみなさまの本に対する思いやご当地の魅力を綴ります。
北書店 @新潟県新潟市
北書店への道のりは、新潟駅からバスで15分ほど、新潟市役所本館の前で下車します。このあたりは「医学町通(いがくちょうどおり)」というちょっと変わった町名で、市役所前の大通りに面したマンションの1階に、控えめな看板が見えたらそこが北書店です。
看板には「にいがた まち くらし ほん」の文字。いい並びだなぁ。お店に入って佐藤店長にご挨拶すると「おっ!久しぶり!」と。よかった、いつもの佐藤さんだ。というのも今回、北書店を訪問したのは、お店から発信されたこんなツイートを見たからなのです。
脳出血で倒れられ、お店を閉店することになった……⁉︎ これを見て、いてもたってもいられなくなり、すぐに訪問したいとご連絡すると、ぜひ来てくださいと快諾いただき今日ここに来ることができました。
お店に積まれる出版社からの段ボールたち。翌週に控えているという、怒涛の5連続イベントの書籍や注文品が届いています。聞くと、重たいものは持てるけれど、まだ麻痺が残っていて細かい作業がなかなか難しいそう。私に何かできることがあれば!と検品をお手伝い。そして、もうすぐなくなってしまうこのお店を忘れないようにと、しっかり記憶。
入り口には新潟関連の本、奥には絵本のコーナー。ブックエンドに入っているお店のロゴマーク、壁にはシンガーソングライター・二階堂和美さんのサイン、外からの光で浮かぶお店のロゴ・NORTH BOOK STOREの文字。本棚の隙間には隠れうさぎがいること、お店に流れるBGMはつい先日こちらでライブイベントをした前野健太さん、そして、レジからは閉店を惜しむお客さんと佐藤さんの会話が聞こえてきます。
佐藤さんに初めてご連絡をしたのは、いまから遡ること3年。2019年の年末、著作特集号を取り扱っていただく書店を探しているときに、数人の書店員さんから「北書店」がいいよ!とおすすめされ、メールを送付したのが始まりです。でも何度送ってもエラーになりうまく送信できないし、電話も繋がらないという状況が続きました。ほかに連絡をとる術がなく半ば諦めかけていたころ、2020年1月に著作特集号の書店開拓で、新潟県の「今時書店」さんと「books f3」さんのを訪問することに。2件の訪問後、“最終の新幹線まではまだ時間がある、ここまで来てあの北書店に寄らないという選択肢はない!”とバスに乗りいざお店へ。
お店のなかに入ると、前日はコラムニストのえのきどいちろうさんのトークイベントだったらしく、棚のレイアウトや設置されている椅子にその名残が。アポイントを取っていないこと、電話に出てもらえなかったこと、目の前にいらっしゃる佐藤店長がちょっと怖そうなこと……すぐに挨拶ができない理由がたくさん湧いてきて、お店の中をぐるぐると。このまま帰ろうかなと思っていたとき、新潟県関連本のコーナーに、前から気になっていたイカ文庫さんの新潟社員旅行のZINEを発見したので購入することに。お会計を終えたときに思い切って声をかけました。
『広告』の編集部員であること、雑誌を取り扱っていただけないかと、メールや電話を11回(数えていました)かけても繋がらなかったことなどをお話すると「え、そうなの!ごめんごめんっ!」と予想していなかった笑顔の佐藤さん。メールはサーバーの調子が悪く受け取れず、電話はなかなか出られない状況だったそう。迷惑をかけたり、嫌がられたりしていたのではないとわかり、ほっとしました。そして『広告』の詳細をお伝えすると、その場で「取り扱ってみるよ!」とお返事。最近読んだ本のことなどちょっとした雑談も含め、ゆっくりお話することができました。連絡をとることすら諦めかけていたので、直接ご案内できたことがとても嬉しかった。ほくほくした気持ちで帰路につきました。
その後、冊数の確認などのメールでも、おすすめの本『ごろごろ、神戸。』(平民金子、ぴあ株式会社関西支社、2019年)や、子育てのことなどちょっとしたメッセージを書いてくださる佐藤さん。業務だけのメールではなく、こういうやりとりが、心の余裕がなくなりがちな校了前の私をどれほど助けてくれたことか。
今回の訪問でもお客さん対応の合間に、お子さんにはどんな絵本を読み聞かせていたかとか、佐藤さんが編集したフリーペーパー『新潟と本とごはん』のことなど聞かせてもらいました。あぁ、時間はあっという間。帰り際、入り口まで見送ってくださった佐藤さんが「今日はありがとね、いい時間だったよ」と。こちらこそです。楽しい時間をありがとうございます。
帰りの新幹線で佐藤さんが出演されたラジオ「RYUTist 東港線もどかしルーム」を聞く。お店を閉めるということ、そしてこれからのことについて「どうにかなるだろうと思える。次に向かって何かやれると思っている。………僕が本を並べていたらそこはもう北書店だから」とお話されていました。長い間、本と、新潟と、お客さんと向き合ったからこそ出てくる言葉だなぁ。このお店がなくなってしまうのは寂しいけれど、きっといつかどこかで始まる佐藤さんの「北書店」を楽しみに待つことにします。
北書店 探訪メモ
須坂屋そば
日帰りで移動も多かった今回の出張。帰る前に、何かひとつでも新潟らしいものを食べたい!ということで、佐藤店長のおすすめ・須坂屋そばで「へぎそば」をいただくことに。味もさることながら居酒屋みたいな雰囲気がいいんだそう。冠婚葬祭などの時に大勢で食べる風習があったせいか、小サイズでもこのボリューム!蕎麦のつなぎに布海苔を使っているので、つるるっとした独特ののどごしであっという間に完食です。
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SUGER COAT
北書店からの帰り道、マップを見ると前から気になっていたお店「紅茶と手作りお菓子のお店 SUGER COUT」が近くに!隠れ家みたいな店内では、ポットにたっぷり入った紅茶とお菓子をいただくことができます。焼き菓子盛り合わせはなんと10種類以上。が!私がお店に到着したのは閉店10分前。クッキーをひとつ持ち帰り、新幹線で食べながら再訪問を心に決めました。
▶︎お店のHPはこちら
文:『広告』編集部・大塚
北書店
2010年に閉店した老舗書店「北光社」の店長だった佐藤さんが同年、本屋をなくしてはならない、と新潟市中央区医学町通にオープン。過去には谷川俊太郎さんや植本一子さんなどを呼んだトークイベントや、店内での音楽ライブも開催。まちの本屋として、旅先の特別な本屋として、たくさんの人に愛されて12年。惜しくも2022年8月末でこのお店は閉店となりました。
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