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54 流通と社会 〜 経営学者 石井淳蔵 × 『広告』編集長 小野直紀

流通の変化が生産のあり方や消費のあり方、そして社会をいかに変えてきたか。日本における流通業発展の歴史をひも解きながら、現代の流通を取り巻く課題やこれからの流通のあるべき姿について、流通科学大学の元学長であり日本の経営学の大家である石井淳蔵氏と本誌編集長・小野直紀が「流通と社会」をテーマに語りあう。


流通簡素化論と流通革命論

小野:今回、流通に関する本をずいぶん読んだのですが、僕がいま流通に対して抱いているイメージは、「広くあまねく、より安く、より早く」です。つくられたものが受け手に届くまでを流通だとすれば、届くまでにかかるコストと、届くまでに要する時間を限りなくゼロにする方向に向かっているように思えます。しかし、日本のGDP比で見ると流通産業の規模って18%もある。製造業が20%なので、かなり大きい(※1)。にもかかわらず、ゼロに向かっているのはなぜなのか。そこに違和感がありました。こうした方向性はどのようにして生まれたんでしょうか?  20世紀初頭にアメリカで誕生したチェーンオペレーション(※2)がひとつの大きなきっかけだとは思いますが、いかにして現在の流通のあり方に至ったのかをまず教えてください。

石井:小野さんがおっしゃる「ゼロに向かう流れ」というのは、まさに流通のひとつの考え方です。つくり手と買い手をつなぐ流通はゼロに近づけば近づくほどいい。流通は必要悪であって、ないに越したことはない存在です。だけど、つくり手と買い手の間に人が介在するのはそれなりの理由があるというのは、流通に対する主流派の考え方です。仮に、ものをつくる人が100人、買う人が100人いたとしましょう。つくり手は高く売りたいと考え、買い手は安く買いたいと考えると、そこには100×100、つまり1万の取引の可能性が生まれてくる。でも、つくり手と買い手の間に情報を集約する役割の人がいれば、1万の取引が100+100の200の取引で済む。これは、大学の商学部や経済学部などでいちばん最初に教えられる流通の基本概念。流通とは取引コストを最小化する装置だという考え方です。流通にかかわるコストを下げる限りにおいて、存在を許される存在、それが商業です。

小野:わかりやすいですね。

石井:半世紀前のわが国の流通革命のときにも、この考え方が出てきました。1962年に東大教授の林周二さんが出した『流通革命』(中央公論社)は大ベストセラーになりましたが、その考え方にもとづいて、当時進行中であった流通革命を高く評価したのです。「細くて錯綜したパイプ」が「太くて短いパイプ」へ、より効率的な流通に変わるというわけです。それでいうと、世の中にまず市場が存在していて、つくり手と買い手がいる。そこにいちばん遅れて登場するのが商人だという理屈です。あらゆる人から仕入れてあらゆる人に売って取引を効率化するのが商人の役目であり、それこそが商人の商人たる理由だと説きます。何より流通の効率化に焦点を当てたこの理論が、小野さんの言われる「ゼロに向かう流れ」の根本にあります。

小野:いちばん最後に登場するのが商人という発想なんですね。

石井:そうです。この考えに、ダイエーの創業者であり、流通革命を巻き起こした中内㓛さんが大反発しました。真っ向から歯向かった。「その考えは流通簡素化論に過ぎない。私が行なっているのが流通革命だ」と言ってね。流通簡素化論というのは、売り手と買い手の間に人がひとり入れば取引が簡素になってコストが下がるという先の考え方に従った流通革命論ですが、自分たちがやっている流通革命はそうではないというのが中内さんの主張でした。流通が先で、そのあとからつくり手も買い手も出てくる、というのが中内さんの基本的な発想です。

小野:おもしろいですね。まず商人ありきで、そのあと、ものづくりが始まり、買い手が登場して、市場ができるという考え方ですか。

石井:この中内さんの理論は1960年代以降の流通革命のいちばんのポイントだったように思います。こういったことは中内さんが1969年に出した『わが安売り哲学』(日本経済新聞社)に詳しく出ています。ただ、当時、学会は中内さんのこの理論にまったく反応しませんでした。

小野:中内さんはどのように流通革命を推し進めたのでしょうか?

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2021年2月16日に発行された雑誌『広告』流通特集号(Vol.415)。そのすべての記事を4月16日より順次公開していきます。各記事とも…

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吉 「出船に船頭待たず」
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