64 小売×データの課題と未来
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64 小売×データの課題と未来

日本の小売は、様々な産業のなかでもとくにデータ活用が遅れているといわれる。海外に目を向けると状況は一転、ウォルマートやテスコを筆頭に、データ活用を中心としたテクノロジー投資によって新しい小売のあり方が生まれている。なぜ、日本は後れを取っているのか。小売のデータ活用にどんな可能性があるのか。業界に精通したPwCのコンサルタント⽮矧晴彦⽒と博報堂のストラテジスト徳久真也が「小売によるデータ活用」をテーマに、いま起きている変化や課題、そしてその可能性を語り合う。


小売の役割とは、商品の価値と顧客を結びつけること

徳久:初めに、データ活用という観点でいまの日本の小売をご覧になったとき、どのような段階にあるとお考えですか?

矢矧:いま企業のマーケティングや事業戦略においてデータ活用はあたりまえになり、可能性がどんどん広がっていますよね。そのなかで、「日本の小売のデータ活用は遅れている」とよく言われています。もちろん、一部の企業は欧米企業に匹敵するほど先進的に取り組んでいますが、業界のほとんどの企業は変革の必要性を感じながらも、何をすればいいのかわからず考えあぐねている状況です。

徳久:なるほど。その背景には何があると思いますか?

矢矧:本来果たすべき役割を果たしていない、ということだと思います。そもそも小売が果たすべき役割とは、メーカーの商品の価値をきちんと理解して、その価値を求める顧客と結びつけることです。メーカーは、自社商品のそれぞれの価値を訴求しますよね。「商品軸」で価値を打ち出しているわけです。一方、小売はそれらの価値を「うちのお客さんにはこのラインナップ」と、「顧客軸」で棚に並べていきます。このように価値軸を変換することが、小売の役割だと考えています。

徳久:編集しているんですね。

矢矧:まさに。商品と顧客のマッチングですね。これは小売が持つ本質的な役割で、昔はしっかりと果たされていました。スーパーマーケットのようなセルフサービスストアができる前は、どこも個人商店で顧客一人ひとりの顔が見えていたから、ちゃんと要望を踏まえて商品を提案できていた。

徳久:いわゆる三河屋さんですね。

矢矧:そうそう、三河屋さん。「徳久さんはこれ好きじゃないよね」とわかっている、究極のパーソナライズが、昔はアナログで提供できていたんです。

徳久:スーパーが登場して一気に拡大していくなかで、その役割を失ってしまった、と。

矢矧:“セルフサービス”になってしまったのでね。いま日本だと「そもそもの役割は」などと深く考えることが少なくなっているのかもしれません。

テクノロジーへの大幅投資を進める海外小売企業

矢矧:一方で海外では、デジタルを活用した新しいパーソナライズの形が生まれています。たとえば欧州のオンライン専業食品スーパーは、異業界出身のメンバーが創業したデジタルネイティブの店なんですね。そのCEOは「セルフサービスストアができる前は、小売はもっとパーソナライズできていた。自分たちはそれをテクノロジーを使って復活させる」と語り、実践しています。

徳久:確かに、オンライン専業なら購買データ以外の顧客データ取得も容易ですから、パーソナライズは充分できますね。それは今年のNRF(全米小売協会)のカンファレンスでの話ですか?

矢矧:はい。海外の小売はデジタル化やデータ活用が進んでいるのはもちろんですが、ツールひとつの導入にしても目的がはっきりしていますね。たとえば「パーソナライズ」を目的とするなら、その実現に必要な手段とツールは何なのかという目的と手段の考え方が明確です。さらにテクノロジー投資と同時に、テクノロジーに精通した人材への投資も半端じゃない。

徳久:ウォルマートを筆頭に、ですね。

矢矧:そうですね、彼らの2019年度のテクノロジー投資は売上高の2.9%にあたる117億ドルで、アマゾンとアルファベットに次いで3番目の額です。店舗にはすでに、棚のチェックをする自動ロボットを2,000台導入したり、売り場の補充などをゲーム感覚で学べる新規スタッフ向けのトレーニングアプリもつくっていたりします。また、2018年度にはデータサイエンティストやエンジニアを2,000人採用すると掲げていました。

徳久:ウォルマートのトレーニングアプリ、おもしろいですよね。まずはアルバイトから始まって、バックルームから言われた商品を見つけ出して、お店に陳列する。その間に何かお客さんから聞かれたりとか、万引き犯が逃げたりだとか、いろんなアクシデントがある。そのときに、ウォルマートの方針に従ってきちんと処理ができると点数がつくという。欠品がこれだけ減りましたとか、売上がこれだけ上がりましたとかの評価もあって、要するに、プライオリティを守ることで店の数値がどう変わるか、をちゃんと教育できるようになっている。

あと、アメリカの大手スーパー「クローガー(Kroger)」も、テクノロジー活用を大々的に進めていますね。AIを含めて店舗運営支援にかなり投資していますし、顧客データや市場データを分析して、自社メディアを通じた広告事業まで始めています。データを軸に各種パートナー企業とエコシステムを構築し、RaaS(Retail as a Service)事業に注力しています。

矢矧:広告事業にまで踏み込んでいるんですね。

徳久:クローガーは、従来のPOSデータに購入者の情報がひもづいているID-POSデータの取得と活用を行なっていて、かつ彼らのスマホアプリやウェブサイト、さらに雑誌などのオウンドメディアを使えるので、彼らいわく「誰に、いつ、どんな商品をお知らせすると購買確率が高まるかがわかっている」と。実はスーパーにあるような商材は衝動買いが多いのですが、彼らは計画的に購買する比率を高める広告運用や商品ライナップの設計を行なっているのです。

日本の小売は、ほとんどデータを活用できていない

徳久:テクノロジー投資も、それを設計・活用する人材への投資も、海外ではすごく進んでいるんですね。一方で、日本は遅れている。

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