24_ザク化

24 ザク化する日本のものづくり 〜 ガンダムに学ぶ、コスト度外視の優位性

1979年に放映開始された『機動戦士ガンダム』。
精緻な世界観の構築で、ロボットアニメの常識を覆したセンセーショナルな作品だ。

物語の舞台は、人類が宇宙に居住するようになった近未来。地球連邦軍とジオン公国という2国間の戦争がメインテーマだ。戦場ではモビルスーツという人型兵器が活躍し、タイトルにもなっているガンダムは地球連邦軍所属の最新鋭モビルスーツの名前だ。

戦争以外にも、差別、階級闘争など、子ども向けとは思えないテーマを盛り込み、その仕上がりはもはや、大人が楽しめる社会派ドラマ。

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©創通・サンライズ

そんなガンダムだが、実はものづくりについての示唆にも富んでいるのだ。
キーワードはコスト度外視。

主人公が搭乗するガンダムは地球連邦軍がコスト度外視で建造した機体だ。兵器であることを差し引いても、その度外視っぷりは、ちょっとすごい。設定ではガンダム1機を製作するのに、ジオン公国のモビルスーツであるザク7機ぶんのコストがかかるとも言われている。試作機だったから、その開発費も相当なものだったはずだ。

その背景にあったのは、ジオン公国との戦争での圧倒的不利。戦争開始直前、ジオン軍はMS-06ザクという、超絶イノベーションを起こした。世界初となる量産型人型戦闘兵器。ミノフスキー粒子という特殊な粒子の散布によってレーダーによる索敵やミサイル誘導、通信が困難になり、戦艦同士の長距離戦は事実上不可能という世界において、この白兵戦が可能なモビルスーツの登場は大きかった。ザクは縦横無尽に宇宙空間を飛び回り、巨大戦艦を次々に墜としていった。地球連邦の1属国でしかなく、資源の乏しいジオン公国が戦争初期に押しに押せたのはザクという傑作量産機のお陰だ。

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しかし、そのあとがよくなかった。

MS-06C、MS-06J、MS-06F、MS-06FSなどザクのマイナーチェンジを繰り返し、高機動型ザク、ザクキャノン、デザートザク、ザクマリンタイプなど様々なバリエーションも生まれた。

「ザクとは違うのだよ、ザクとは!」という名ゼリフとともにガンダムに立ちはだかったグフにしたって、陸戦に最適化した、いわばザクのマイナーチェンジだ。

マイチェンである程度乗り切れたというのは、ザクという機体のポテンシャルの高さの表れでもあるのだが、この、いわゆるボトムアップ式のものづくりが連邦軍との明暗を分けた。

ザク以外ではズゴックなどの局地戦に特化したモデルも登場するが、パーツの互換性などもなく、小ロット機体だったためコスト効率が悪化。資金面でのジリ貧も呼んだ。

コスト重視でザクを量産していたはずなのに、アッガイ、ゾック、ギャンなど場当たり的な特化型モビルスーツも乱発し、逆にコスト効率が悪化するという捻れた構図も生むことになった。

対する連邦軍は、超絶コスト無視のガンダムで逆転を計る。最初にフラッグシップモデルをつくり、それで得たデータを量産機のジムに注ぎ込むという、トップダウン式の手法を採った。

この結果、コストを抑えつつ、ガンダム並みのパフォーマンスを発揮できるモデルを量産することができたのだ。ジムというと雑魚キャラのイメージが強いかもしれないが、実は量産機としての性能は素晴らしいのひと言。武装や装甲などは劣るものの、スラスター推力はガンダムとまったくいっしょだし、ジェネレーター出力もほぼ同等。センサーにいたっては、ジムのほうが優秀なくらいなのだ。

ジオン軍のザクはもちろん、ドムなどよりもトータルの性能では上をいく。しかもそのコストはガンダムの20分の1という圧倒的なコストパフォーマンスのよさだ。コスト度外視が生んだ、コスパ最強プロダクト。それがジムなのだ。

しかもジムに搭載された学習コンピュータにはガンダムから吸い上げた戦闘データが惜しげもなく投入されているため、パイロット育成の時間を大幅に短縮することができた。コクピットのつくりも、戦闘機のものに類似させ、かつての戦闘機乗りがモビルスーツ乗りとして再出発するのも容易だった。

一方ジオン軍。戦争後期になって、ようやくドムやゲルググなどの新鋭&高性能な量産モデルが投入されるようになるが、ときすでに遅し。ベテランパイロットたちが慣れ親しんだザクを好み、新鋭機に乗りたがらないという事態も起き、新鋭機に新人が搭乗するという無駄使い感。ザクという、かつての傑作機に固執しすぎた末路だ。

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いまの日本のものづくりは、どこかザク化してしまっていないだろうか。重箱の隅をつつくようなマイナーチェンジを繰り返す消極的な姿勢。これでは生活者をワクワクさせてくれるようなイノベーションは生まれない。

コスト度外視は、ともすればネガティブにとらえられがちだが、実は閉塞的なものづくりのいまを変える力があるはずだ。

ザクをいくらつくり続けてもダメなのだ。いち生活者として、いまこそガンダムが見たい。

ガンダムシリーズでは、つねに主人公はガンダムであり続けた。きっとその裏には初代の名に恥じないものをつくろうというモチベーションもあったはずだ。

コストを度外視したガンダムだからこそ、世代を超えてヒーローであり続けることができるし、ジムという最高の量産機だって生まれるのだ。

文:櫻井 卓/写真:赤羽 佑樹

櫻井 卓 (さくらい たかし)
1977年生まれ。旅やアウトドアを主なテーマに雑誌、WEB、カタログなどで執筆。ヨセミテなど、アメリカをはじめ海外の国立公園を頻繁に訪れ、昨年はネパールのサガルマータ国立公園にてエベレストのベースキャンプまでの歩き旅を経験。一方で、オンラインゲームやアニメ、マンガが大好物というギークな面も。
参考文献
『ガンダムの常識 MS大事典 U.C.0079〜0083編』(オフィスJ.B、双葉社、2015年) /『機動戦士ガンダム 一年戦争大全』(電撃データコレクション編集部、メディアワークス、2007年)/『週刊 ガンダム・ファクトファイル』(デアゴスティーニ・ジャパン、2004年)/『機動戦士ガンダム一年戦争全史』(樋口隆晴 林譲治、学研プラス、2007年)

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この記事は2019年7月24日に発売された雑誌『広告』リニューアル創刊号から転載しています。

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