119 中国コンテンツをとりまく規制と創造の現場
日本から見ると、中国は世界でもっとも言論統制が厳しい国だと思われがちだが、そうではない。世界のそれぞれの国に事情があり、日本に比べて基準が厳しい、あるいは緩いという相対的なものでしかない。日本は世界で有数の基準が緩い、あるいは比較的作者が自由に作品を発表できる国だと感じる。もちろん出版社の判断は介在するが、国が出版物の内容をひとつひとつチェックすることはない。
実は中国も、出版段階で国がチェックしているわけではない。日本と同様に出版社が独自にチェックし、問題ないと判断するまで修正を行ない、出版する。出版後に、これは反中だ、反共産党だ、あるいは暴力的すぎる、性的すぎると騒がれてから、国が調査に乗り出すケースが多い。騒がれるラインは異なるが、実は中国と日本の出版時点での国の関与レベルは同程度なのである。
違いはペナルティの大きさにある。中国では出版管理規定により、出版社が1年に出版できる書籍には限りがある。正確な数字はわからないが、中国の新刊出版数は年に20万冊と言われており、2019年には585社の出版社があるので、出版社毎に年間で平均340冊の本が出版されていることになる。ちなみに日本の新刊出版数は、出版指標年報によると69,052冊(2021年)で中国の1/3程度である。
出版物には、日本はもとより各国においてISBNという出版管理番号が付与されている。単行本などを見ると裏面にバーコードとともに記載されていることが多い。中国ではこのISBNを国が独自に発行し、各出版社に与える方法をとっており、出版社は与えられたISBNの数にもとづき年間の発行作品数を決めるのである。
出版物に問題があると、出版社は翌年、国から与えられるISBNの数が減らされてしまう可能性があり、経済的損失は大きい。著者に対しても何かしらのペナルティがあると思われるが、たとえば1993年に出版された賈平凹(カ・ヘイオウ)の『廃都』は中国で1,200万冊も売り上げたベストセラーだが、内容が過度に退廃的で性的であったことから、禁書となった。しかし賈は1995年以降も新書を出し続けている。2012年にノーベル文学賞を受賞し、日本でも『紅い高粱』で有名な莫言(モー・イエン)も『豊乳肥臀』や『蛙』といった禁書を出しているが、それによって創作を阻害されたようには見えない。もちろん彼らが特殊である可能性もあるが、体制批判運動家よりは許される傾向にあると思われる。
文化大革命時代の禁書作家となるとそうはいかなかった。「中国向何処去」(中国はどこへ向かうのか)を執筆した楊小凱(ヨウ・ショウガイ)は、19歳のときにこの論文を書いたことによって、自身は懲役刑となり、父は左遷、兄弟は地方に追放され、母は批判に耐えられず自殺している。その後中国で頭角を表すと海外に渡り、ノーベル賞にもっとも近い中国人として56歳でこの世を去った。
では誰が出版物の問題を見つけるのか? そして中国コンテンツはどのように産出されているのか? 正しく理解するには中国政府と中国共産党の違い、そして出版物を製作する企業の動きや国民の反応を見ていく必要がある。
勢いのある中国コンテンツとその裏
近年日本では、アニメだと『魔道祖師』や『羅小黒戦記』、ゲームだと『アズールレーン』や『原神』、『幻塔』といった中国コンテンツを目にするようになった。とりわけゲームの勢いはすさまじい。
中国の出版物にはゲームも含まれており、ゲームをリリースするには、出版社へ持ち込み、党中央宣伝部での審査を経る必要がある。以前は広電総局や文化部も審査に参加していたが、2019年に広電総局と文化部からゲーム審査人員を党中央宣伝部に集約し、審査体制が刷新された。
最後までお読みいただきありがとうございます。Twitterにて最新情報つぶやいてます。雑誌『広告』@kohkoku_jp