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XX 広告会社と著作権侵害

本記事は、先日公開した「XX 博報堂と著作権侵害」の公開許可が博報堂からおりなかった場合の代替案として用意していた記事である。博報堂の事例ではなく、報道等で公知となっている国内外の広告会社の事例をもとに一般論として原稿を修正している。自社を棚上げして論じることへの抵抗はあったが、完全なお蔵入りを避ける意図で準備していた。論旨は大きく変わっていないため蛇足ではあるのだが、取り上げている事例が異なるため参考になればと公開を行なうこととした。本記事は全文無料、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス「CC BY 4.0(表示4.0国際)」で公開する。

多くのクライアントとともに、CMやポスターなど日々膨大な広告制作物を世に送り出している広告会社は、オリジナリティや著作権に対していかに向き合っているのだろうか。コンプライアンス遵守が叫ばれるいまの時代、広告会社にとって著作権侵害やそれに準ずる事案によるトラブルは、クライアントに迷惑をかけるだけではなく、クライアントとの関係の悪化、世の中からのバッシングなど大きなダメージとなる。

しかし、そうした類似制作物によるトラブルは今も昔もあとを絶たない。本稿では、広告会社において実際にどのようなトラブルがあったのか、以下のように大きく3つに分類し、各事例の発生経緯と顛末について明らかにする。また、類似制作物が生まれてしまう原因についても考えていきたい。

1)著作権侵害にあたる、またはその可能性が高い事例
2)著作権侵害にあたる可能性は低いが、それに準ずる事例
3)アイデアの盗用と抗議を受けた事例

なお、具体事例の調査にあたっては、裁判所の判決文や弁護士事務所のウェブサイト、新聞記事、国内外の信頼性の高いニュースサイトを参考にした。また、各事例の関係者は、国内外の同業他社および我々(博報堂)自身の既存または将来のクライアントや協業相手でもあり、過去の具体事例を“蒸し返す”ことでそれぞれの関係者に迷惑をかけるのは本稿の意図ではない。そこで、以下にあげる各事例で登場する会社やブランド、制作物のジャンルや名称などは、すべて架空のものに置き換え、各事例を理解しやすくするため、架空の制作物および作品のイメージとして描き起こしたイラストを掲載する。予めご了承いただきたい。

1)著作権侵害にあたる、またはその可能性が高い事例

広告業界で過去に起こったトラブルのうち、まずは著作権侵害にあたるもの、またはあたる可能性がある事例を挙げていく。日本の法律では、1)先行する作品を参考にしている(依拠性)と、2)先行する作品に似ている(類似性)、というふたつの事実が同時に認められたときに「著作権侵害にあたる」と判断される。参考にした作品があっても結果として似ていないものだったり、類似する先行作品があってもそれを参考にした事実がなかったら著作権侵害にはあたらない。そして裁判では、先行する作品が「著作物」として認められることも重要である。この点を踏まえて、以下の事例を見ていこう。

1-1)偶然の一致にしては似過ぎていたケース

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A:フラワーショップの雑誌広告

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B:イラストレーターの作品

Aの画像はとあるフラワーショップの雑誌広告、Bの画像はイラストレーターの作品である。Bの作品を多少加工してAのパーツとして使用したように見える。Aの広告が世に出たあとにイラストレーターの著作権管理者が気づき、無断で加工・使用したとして抗議。広告の制作会社は「イラストレーターの作品は一般的な表現であり、偶然の一致である」と主張しつつも、広告で使用した場合に発生しうる金額を払った。だがイラストレーターはその金額以上の被害を被ったとしてフラワーショップと広告制作会社を相手取り裁判に。判決ではイラストレーターの作品の著作権が認められ、賠償金の支払いを命じた。

1-2)無許可で類似制作物をつくったケース

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C:百貨店のセールのキービジュアル

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D:海外アーティストの作品

ある百貨店が、セールのキービジュアルCを公開した。これを見た人が「海外のアーティストの写真Dにそっくりだ」と指摘。キービジュアルを制作した広告会社に確認したところ「アーティストの写真からインスピレーションを受けて制作した。本人に使用許可をもらう交渉中だった」と回答。百貨店は別の広告会社にキービジュアルの再制作を依頼した。

1-3)著作権譲渡されていると勘違いしていたケース

ある旅行会社が、広告会社にオンライン広告の制作を依頼。広告会社は外部のデザイン会社に制作を委託。デザイン会社は広告素材の撮影をフリーの写真家に依頼した。広告会社およびデザイン会社は写真家との間で著作権に関する契約を結ばず進めていた。旅行会社は、納品された写真は著作権譲渡がされているものと認識し、トリミングをしたり色を変えるなどの改変をしたうえで自社の別の広告に使用。それを見た写真家が、著作権侵害だとして旅行会社に損害賠償を求めた。旅行会社は写真家に相応の金額を支払い、和解。その後、旅行会社は広告会社に和解金の賠償を求めて訴訟を起こし、広告会社は敗訴。多額の賠償金の支払いを命じられた。

・考察

上記の事例は、実際に著作権侵害にあたると裁判で認められたもの、もしくは認められる可能性があるものである。各事例の判決文やニュースサイトによると、このような制作物が世に出てしまった原因として、制作者の著作権リテラシーの低さのほか、関係各所への確認漏れなど初歩的な過失もある。クライアントから受注した広告会社が外部の制作会社に委託しその会社がさらに外注を行なうなど、制作に関わる関係者が多くなり確認系統が複雑になっていて、確認漏れが起きたケースもある。

とはいえ、「著作権侵害にあたるとは知らなかった」「外部に委託していたから知らなかった」と言って許されるものではなく、実際訴訟になったり、制作物が差し止めになるなど大きなトラブルになっている。こうした事案が起きないよう、広告会社は責任を持って制作や管理進行を行なう必要がある。

2)著作権侵害にあたる可能性は低いが、それに準ずる事例

著作権侵害にあたる可能性が低いものであっても、権利者や第三者から「似ている」「パクリだ」と指摘されているケースがある。権利者からクレームが入ったり第三者によりSNSなどでパクリとして広まることは、クライアントの商品やブランドのイメージを損なうリスクがある。ここでは、裁判や国内外のニュース、SNSで取り上げられたトラブル事例を挙げていく。

2-1)作品の盗用であると抗議を受け、改変したケース

あるお菓子メーカーが新商品のキャッチコピーを広告会社に依頼。広告会社が制作したキャッチコピーをポスターやCMで使用していたところ、ある人物A氏から「そのキャッチコピーは自分が過去に出版した本に掲載されている詩の盗作である」と抗議を受けた。お菓子メーカーはコピーの部分を削除してCMを放映した。その後、A氏は損害賠償を求めて裁判を起こし、裁判所ではA氏のキャッチコピーの著作物性は認めたが、お菓子メーカーのキャッチコピーとの類似性は認められないとして訴えを棄却した。

2-2)作品の盗用であると抗議を受け、取り下げたケース

食品メーカーのSNS広告で、あるミュージシャンの歌詞とほぼ同じフレーズがコピーとして使われていた。それを知ったミュージシャンが、「自分が書いた歌詞からパクっている」とSNSで抗議し、ファンにより拡散された。これを受け、食品メーカーが制作を担当した広告会社に確認したところ、「パロディとして使用した」との回答が来た。食品メーカーは広告を削除し、ミュージシャンに謝罪するコメントを出した。

2-3)第三者の指摘によりSNSで炎上したケース

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E:航空会社のポスター

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F:写真家の作品

とある航空会社のポスターEが発表されると、フランスの著名な写真家の作品Fに似ていると航空会社に問い合わせがあった。事務局は「ビジュアルはオリジナルで、法的にも問題がない」と回答。このキービジュアルを制作した広告会社も「そもそも写真ではないし、鳥の数も違う。著作権侵害には当たらない」と判断したという。そのうえで、広告会社は写真家の代理人とコンタクトを取りビジュアル制作の意図を伝え、最終的には写真家から了承を得た。

・考察

広告の制作過程において、制作物が既存の何かに「似ている」と感じられる場合、著作権侵害に当たる可能性は低かったとしても、それに準ずるものとして制作物の修正を行なうことは多い。しかし、「似ている」の受け取り方は様々で一様にルールで規制することは難しい。広告会社が「問題なし」として世に出したものであっても、「パクリ」だと受け取られる場合もある。

また、既存の制作物に意図的に似せるパロディやオマージュは、たとえ権利侵害に当たらない範囲だとしても元の作品の制作者・権利者の許諾なしに製作するのは危険である。アートや映画、文学など文化的な作品においては許容または推奨されるこうした手法も、広告という商業的な制作物では、元作品の力を借りて何らかの利益を得ようとすることに批判が出やすいからだ。

いまはこうした事案に対するネガティブな反応がSNSやインターネットで拡散されやすく、クライアントが広告を取り下げざるを得なくなることも多々あるため、制作過程でより一層慎重な判断が求められている。

3)アイデアの盗用と抗議を受けた事例

最後に、アイデアの盗用に関するトラブルの事例を挙げる。よく知られているようにアイデア自体には著作権がない。そのため、問われるのは既存のアイデアに対する制作者のモラルとなる。しかしながら、アイデアの“独自性”や(心情的な)“帰属”の考え方は人によって異なり、また偶然似たアイデアを思いつくこともある。どこまでが盗用なのか。「パクリ」なのか「かぶり」なのか。その線引きは非常に難しい。ここでは、SNSで話題になった事例や海外の裁判からこの問題を考えていく。

3-1)類似アイデアがあると知りながら無許可で広告を制作したケース

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G:音楽フェスのポスター

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H:写真家の作品

とある音楽フェスのポスターGが公開された。海岸に捨てられたゴミで文字が描かれているのが印象的だが、Gのポスターが世に出る前から同様の手法で写真作品のシリーズを発表してきた新進気鋭の写真家から、音楽フェスの事務局にクレームが入った。さらにその写真家は、「パクられた」「このポスターを制作した広告会社と過去に仕事をしたことがあり、自分の作品を知っているはずなのに」とSNSで発信。SNS上では、「これは完全にアウト」「アイデアは一緒だけれども似ていないのでは?」などと議論が巻き起こった。ポスターGを制作した広告会社は「作品は知っていたが、詳細の表現方法を変えており模倣する意図はなかった」とアーティストに弁明した。

3-2)アイデア盗用として抗議があったが、問題なしと判断されたケース

イラストレーターA氏は、ある化粧品メーカー広告キャンペーンのためポートフォリオを見せて欲しいと広告会社より依頼された。その後、A氏に連絡はなく、広告会社は別のイラストレーターに広告のキービジュアルの素材制作を依頼した。だた、新たに発表された広告がA氏の作品と似ていたため、「自分の作品を盗用された」としてA氏は裁判を起こした。しかし裁判所は、A氏の作品は一般的な表現であり、構図などのアイデアが共通するにとどまると判断された。

・考察

アイデアには著作権はなく、アイデアを真似すること自体は、法的には問題がない。しかし、独自性あるアイデアを事前に知っていた場合、そのアイデアを無許可で実施するのは倫理的にいかがだろうか。

さらに問題なのは、これらの事例では大きな後ろ盾のない社会的に弱い立場のつくり手への敬意と配慮を欠いていることだろう。クライアントの予算を使い、安定した給料がもらえる立場で、さらにたくさんある仕事のひとつとして制作を行なう広告制作者が、ひとつのアイデアを追求し自身のお金と人生をかけて制作を行なう個人の作品にタダ乗りすることは厳しい批判の対象となることは当然である。

一方で、アイデアの盗用だと指摘する事案のなかには、独自性が強いとは言えないものや、ときには言いがかりのようなものも見かける。すべてのクレームを受け入れることは難しいことも事実だろう。

類似制作物が生まれる原因

ここからは、広告制作においてなぜ類似制作物が生まれてしまうのか、その原因を大きく3つに分類し論じていく。

・原因1:著作権にまつわるリテラシーの低さ

類似制作物が生まれるもっとも根本的な原因として、制作者や制作の管理進行を行なう営業やプロデューサーのリテラシーの低さが挙げられる。広告は、写真、映像、音楽、文章など幅広いジャンルの著作物の組み合わせでつくられるものであり、著作権侵害やそれに準ずる事案を回避するためには、各著作物特有の多岐にわたる知見が必要になる。さらに法律だけではなく、心情的なモラルや業界特有の暗黙のルールなどのリテラシーが求められる。

・原因2:企画や提案における「リファレンス文化」

広告会社特有の「リファレンス文化」も類似制作物が生まれてしまう原因のひとつだ。広告制作の現場では、写真、映画、音楽、イラスト、ファッション、漫画など様々なジャンルの作品を参照し企画を行なうことが頻繁にある。また、クライアントへ提案する際、具体的なイメージを伝えるために既存の作品をリファレンスとして見せることも多い。そして提案がとおったあとも、制作者やクライアントがそのリファレンスのイメージに引っ張られてしまい、類似制作物が生まれてしまうケースがある。

また、自覚的なリファレンスだけではなく、過去に見たり触れたりした作品を無意識に参照してしまうケースもある。これに加え、まったく見たことも聞いたこともないものとの偶然似てしまうリスクも発生しうる。

・原因3:広告業界における働き方の構造

広告業界における働き方の構造も、類似制作物が生まれてしまう原因のひとつと言える。多数の案件を同時進行するケースがあるという声や、クライアントへの企画提案や実施制作の期間が極端に短かいという声をよく聞く。短期間で大量の企画を生み出すためにリファレンスに頼ってしまったり、時間がないために類似制作物の確認が疎かになってしまったりと問題が起こりやすい構造となっている。

こうした業界の構造は、一昨年より活発になっている「働き方改革」によって、業務量の調整やクライアントに対する納期の交渉などが積極的に行われるようになり、まだ十分とは言えないが改善の兆しを見せている。

最後に

いまは、インターネットやSNSを通じて、類似制作物にまつわる批判や炎上が発生しやすくなっている。広告業界に身を置く者として、その件数は昨今、格段に増えているように感じられる。そのなかには、法律家から見れば著作権侵害にあたらないものや、プロの制作者から見れば問題ない範疇とされるものも多く含まれている。しかし、ひとたび炎上すると、専門家の見解は、一般の人の印象論の前になすすべがなくなり、場合によっては社会問題に発展することもある。

そもそも広告は専門家に向けてつくっているものではなく、世の中のすべての人が目にするものである。そのため、多くの人が抱く「印象」に向き合うことからは逃れられない。

インターネット以前の時代、類似制作物の発覚が限定的だった頃に活躍した往年の広告クリエイターに話を聞いたところ「パクリなんてあたりまえ」「完全なオリジナルなんてない」と言っていた。最近話題になったパクリにまつわるトラブルに対しても「これがダメなら何もつくれない」との意見だった。若手にも同様の考え方をする人も少なくない。

しかし、いまの時代、改めて広告会社の置かれている立場に目を向ける必要がある。広告というものは、クライアントやメディアの力によって、(制作者個人の能力を問わず)社会的な影響力を持つものである。こうした意味で、広告制作者は、ほかのつくり手よりも大きな社会的責任とモラルが問われると言える。

さらに、各広告会社が対面しているすべてのクライアントやメディア、コンテンツホルダー、社外のクリエイターなど非常に多岐にわたる著作物を扱う関係者への配慮が求められる。

われわれ広告会社は、大きな予算や影響力と同時に、多くの制約と責任を背負っているのである。広告表現のクリエイティビティを世の中に認めてもらうためには、業界全体、広告製作に関わるひとりひとりがその意識をより一層高めていかなければならない。


文:飯田 菜々子、小野 直紀/協力:河尻 亨一/イラスト:川嶋ななえ

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