60 アマゾンがなくなる日
またもプラットフォーマーとしての圧倒的強さを見せつけられた。世界最大のネット通販(EC)事業者であるアマゾンは2020年10月15日、先般開催した会員向けのビッグセール「プライムデー」で、サイトに出品する事業者の大半を占める中小事業者の売上高が過去最高に達し、販売個数にして約800万に達したことを発表した。
「プライムデー」は2015年から年に一度、アマゾンが自社有料会員プログラム「プライム」の顧客向け“感謝祭”として実施している。2020年はまず8月にインドにて開催し、その後19カ国(※1)で、10月13日0時から14日23時59分まで、48時間にわたり開催した。
全世界がコロナ禍に沈むなか、アマゾンは2020年のプライムデーのテーマを「中小規模の販売事業者の支援」と位置づけ、プライムデーから年末商戦にかけ出品者の売上増大を図るため、グローバルで1億ドル(約105億円)以上を関連の取り組みに投資したと発表している。
実際、今回日本ではセール期間直前に1,000円分の買い物をしたユーザーに、期間中に利用できる1,000円分のポイントを返すキャンペーンなどを実施。中小事業者での買い物を後押しした。
こうした施策も奏功し、2020年は中小事業者による売上高が全世界で35億ドル(約3,686億円)を記録。日本ではとくに日用品、ヘルスケア用品、食品・飲料、ヘッドホン、ベビー用品、PCアクセサリー等に注文が殺到した。このことからも、アマゾンでの買い物はもはや「趣味品など余暇の買い物」にとどまらず、「日常生活に必要不可欠なものを手に入れる買い物」となっていることがうかがえる。
アマゾンが同年10月末に発表した決算(2020年7~9月)によれば、四半期の売上高は前年同期比37%増の961億ドル、純利益が同約3倍の63億ドルに成長。創業以来最高の水準となった。コロナ禍において各国の消費者が外出自粛を迫られ、EC市場に強烈な追い風が吹いたことは確かだ。ただ、アマゾンがこの事業規模でなお高い成長率をたたき出していることに株式市場は強く反応し、株価は年初から10カ月で倍近くに高騰した。
「神」になったアマゾン
多くの消費者、そして商品の販売者にとって、いまやアマゾンは必要不可欠な存在になっている。1994年にジェフ・ベゾスCEOが創業し、翌年にネット書店として自宅ガレージからスタートを切った同社。現在は日用品から嗜好品まで、新品も中古品も、あらゆる品目を取り揃え、世界中に構える自社倉庫がユーザーへの商品配達のハブを担っている。
近年は米国の高級スーパーマーケットチェーン・ホールフーズの買収(2017年)、日本でもライフコーポレーションと業務提携(2019年)などで、生鮮食品領域の販売を拡大。さらに、リアル書店の「アマゾン・ブックス」、レジでの会計を必要としないコンビニ「アマゾン・ゴー」を20店舗以上出店するなど、オフライン店舗の展開も広げている。また、日用品、アパレル領域などでは低価格かつ高品質を売りにするプライベートブランド(自社企画商品)の開発・販売も活発だ。
アマゾンはこうした矢継ぎ早の展開を背景に、お得に買い物をしたい消費者にとってはもちろん、ブランド、メーカーなど商品の売り手、つくり手にとっても、自社の成長戦略や生き残り策を考えるうえで無視できない存在になったといえる。消費者、売り手、つくり手がみな、ひとたびアマゾンのエコシステムに入るとその利便性、効率性からなかなか抜け出せない。まるでアマゾンがつくり出したシステムのなかで生かされているような、アマゾンが「神」になったことを示唆するようでもある。
アマゾンが急激な成長を遂げてきた最大の理由は、創業以来、ベゾス氏が業容拡大のための先行投資に徹し続けたことだ。1998年、上場後初めて発行した「株主への手紙」でベゾスCEOは、自社の成功の尺度について「長期で生み出す株主価値だと思っている」と明示した。続いて配送インフラ強化や海外での展開拡大など次年度のプランを列挙、「今後の挑戦は事業拡大の方向性を見つけることではなく、(すでに見えている方向性について)投資の優先順位を決めることだ」と記すなど、取り組みたいことが目の前にあまた広がっていることを示している。
それは実際の業績動向にも明確に表れている。上場後、売上高は安定的に積み上がっているのに対し、純利益は毎年かなり上下しており、赤字の年もあった。短期での利益を重視しないという、ベゾス氏の有言実行がなされている。
こうした大胆な先行投資を可能にしているのが、傘下に抱える高収益のクラウド事業「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」だ。もともとはECでのセール時に発生する膨大なサイトアクセスに耐えられるよう、自社サーバーを強化することから始まった事業だが、いまは外部へのサービス提供を主体に急激に拡大。クラウド事業ではマイクロソフト、アリババ、グーグルなど2位以下を大きく突き放し、世界トップシェアを誇っている。ここで稼いだ利益がECなど他領域のサービス・機能開発のための原資となっているわけだ。
むろん、これまでの投資には大失敗もある。99年に米国のオークションサイト・イーベイに対抗する策として投入した「アマゾンオークション」は想定したほど利用者を獲得できず、わずか半年で撤退した経緯がある。だが、転んでもただでは起きないのがアマゾン。この失敗からの学びを生かし、2000年に誕生したのが、外部の事業者向けの出品サービス、「マーケットプレイス」だ。当初念頭に置いていた中古品にとどまらず、新品を売る事業者にも利用が広がり、自社で仕入れて売る従来の「直販型EC」に加え、「モール型EC」としても存在感を高めた。結果として、マーケットプレイス経由の販売点数は同社EC全体の半分以上を占めるまでに成長。現在のアマゾンの原型ができあがった。
「顧客第一主義」が起こした革命
ここからは、神となったアマゾンが人々の消費生活に何を「創造」したのかを整理したい。どれだけ多くの商品を並べようとも、またどれだけの資金力を誇ろうとも、消費者に選ばれなければ買い物の場としての発展は見込めないだろう。アマゾンの場合も、ここまで述べてきたような「経営の妙」は確かに同社の成長を支えてきたものの、最大の原動力だったのは根底にある「カスタマー・セントリック(顧客第一主義)」という企業理念にもとづくサービス開発だ。
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