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88 プレ・メタバースと消費 〜 無限の世界で金と時間はどこへ行く?
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88 プレ・メタバースと消費 〜 無限の世界で金と時間はどこへ行く?

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パンデミックと「メタバース」

新型コロナウイルスのパンデミックが世界を襲ったとき、リアルに集まる場を失った人々は物理世界の場をオンラインで代替できないか模索しはじめた。仕事や学校、飲み会、親戚の集まり、ライブ、スポーツ観戦、医療、さらには旅行まで、あらゆるものをオンラインで再現しようとする大実験が世界中で始まったのだ。

Zoomを超える没入感を求め、オンラインゲームの仮想空間に足を運んだ人も多い。世界保健機関(WHO)によるパンデミック宣言の直後に発売された『あつまれ どうぶつの森』は結婚式や香港の民主化運動の舞台となり、『マインクラフト』では数百人が参加する合同卒業式も開催された。

とはいえ、ある程度「場」を構築できるオンラインゲームに人々が集まり様々な用途に転用する試みは、パンデミック以前から見られていた。4億人超のユーザーを誇るエピック・ゲームズ(Epic Games)のバトルロイヤルゲーム『フォートナイト(Fortnite)』はシューティングゲームという枠を大きく越え、公園のような存在となっている。子どもたちは放課後にフォートナイトに“集合”し、遊んだり、バーチャルの世界を探検したり、ただおしゃべりしたりして過ごすのだ。『マインクラフト』にもパンデミック以前から「クラブマトリョーシカ」のようなバーチャルな音楽イベント会場が存在していた。ただ、このような試みがステイホームの号令をきっかけに広がり、にわかに注目されはじめたのである。

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『マインクラフト』につくられた「Quaranteen University」では2020年5月22日に全米から学生が集い、卒業証書を受け取った 画像:Quaranteen University

こうしたなかでメディアや企業にいままで以上に取り上げられるようになったのが、「メタバース」という言葉だった。「超/高次の」といった意味を持つ「メタ」と、「世界/宇宙」といった意味を持つ「ユニバース」を合わせたこの造語は、SF作家ニール・スティーヴンスンが1992年に発表した小説『スノウ・クラッシュ』で初めて使った言葉だ。ただ、メタバースに類似した発想はそれ以前からあったと言える。たとえばルーカスフィルムのゲーム開発部門が開発した「ハビタット(Habitat)」では、2次元ながらバーチャル空間でアバターを介して交流ができた。また、複数が同じ世界で同じイベントを体験するというメタバースの性質に目を向けると、MMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)の原型であるテキストベースのマルチユーザーダンジョン(MUD)は1970年代には誕生している。さらにその後、インターネット環境やサーバー技術の向上、デバイスの変化、表現技術の改良を経て、現在「メタバース」とひもづけられているようなゲームやサービスが登場したのだ。

2021年には、様々な企業がメタバースに関するプロジェクトの構想やメタバース関連事業への投資拡大を発表した。エピック・ゲームズやロブロックス(Roblox)のようにパンデミック以前からメタバース的空間の構築を目指していたゲーム関連企業をはじめ、マイクロソフトやディズニー、NVIDIA、ユニティ・テクノロジーズ(Unity Technologies)、日本のグリーやKDDIもその例だ。フェイスブックに至っては、自らを「メタバース企業」として再定義すべく、社名を「メタ(Meta)」に変更したほどである。

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2021年9月にはフォートナイトに「BALENCIAGAフィット」のコスチュームやバッグ・アクセサリーが登場。それに連動し、ユーザーが自己表現した画像を投稿するキャンペーンも展開された 画像:エピック・ゲームズ ©Epic

実体も定義もないメタバース

ただ実のところ、当の「メタバース」が具体的にどのような世界を指すのか、一貫した定義はない。こうしたなか、メタバースを研究してきた投資家のマシュー・ボールは自身のブログでこの空間を「現在のモバイルインターネットの準後継」と呼び、「ただし、2次元のバラバラのウェブページやアプリを使ってインターネットにアクセスするのではなく、つねに相互接続されたシミュレーションというかたちでインターネットを体験することになる」とつけ加えた。同じブログのなかでボールはメタバースのあり方として「同時参加人数が無制限で、それぞれにプレゼンス(そこにいる実感)が与えられる」「参加者がものをつくり、保有し、投資したり売買したりできる」「様々な人・企業がコンテンツを生み出す」「かつてない相互運用性を持つ(たとえば『フォートナイト』のアイテムが『Counter-Strike: Global Offensive (CS:GO)』で使えたり、それを友人にフェイスブックを通じてシェアできるなど)」といった8つの項目(※1)を挙げているが、この考え方を軸とするならばメタバースと呼べるものはまだないだろう。

ボール自身は、自らが定義するメタバースに近いものとして『フォートナイト』を挙げている。様々なデバイスから同じバーチャル空間にアクセスでき、決済システムを幅広くサポートしているなど、メタバースならではの特徴がいくつか見られるからだ。しかし、こうしたゲームはまだ箱庭状態にあり、メタバースを志向するほかのゲームやサービスとの相互互換性もない。ボールが言うように、要素技術は出てきているが、それがひとつに統合されていない状態なのだ。

ではそれがひとつになったとき、人々はどのような消費行動をみせるのだろうか? メタバースはまだないが、その断片を垣間みられる事象はすでに起きている。そのわかりやすい例がデジタルファッションだ。

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2022年3月1日に発行された雑誌『広告』虚実特集号(Vol.416)。そのすべての記事を5月19日より順次公開していきます。各記事とも公…

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大吉 「竜の雲を得る如し」
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博報堂が発行する雑誌。「いいものをつくる、とは何か?」を思索する“視点のカタログ”として2019年にリニューアル創刊。クリエイティブディレクター/プロダクトデザイナーの小野直紀が編集長を務める。最新号の特集は「虚実」。