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63 「売る」というエンターテインメント

「売る」がどんどん民主的になっていく世界

近年、「メルカリ」や「ヤフオク!」などのフリマ・オークションアプリの普及によって、一般生活者も気軽に「ものを売る」ことができるようになった。かつて物品の仕入れ・販売は、生産者や卸売業者、小売店など特定の業種の従事者のみに許された特権という印象が強かったが、新たなサービスやデジタルツールの進化により広く一般化し、いまではもう、何も特別なことではなくなりつつある。

個人間取引サービスの古株であるヤフオク!(旧ヤフーオークション)はサービス開始からすでに20年以上の歴史があるが、とくにここ数年、「メルカリ」などの新しいフリマアプリの勃興により、個人間取引の利用者層はさらに拡大の傾向だ。

その要因として、かつてあった出品・発送作業の煩雑さがかなり軽減されたことがあげられる。スマートフォンで撮影から出品までの作業がワンストップになり、サービスの充実により相手と住所を交換していちいち手書きで宛名書きをしなくてもコンビニから簡単に発送ができるようになった。さらに、個人情報や銀行口座を教えなくともサービスを介してお互いに匿名で安全に金銭・物品の授受ができるようにもなった。

そしてまた、買い手側の感覚として、ここ10年ほどのあいだにECサイトでの商品購入に慣れてきたことも規模拡大の大きな理由のひとつだろう。かつては「ネット通販」というだけで若干のハードルがあったものだったが、あっという間にその感覚は氷解し、いまでは誰もがあたりまえにECサイトを利用して商品を購入するようになった。

ECへの抵抗感さえなくなれば、それと地続きの感覚で、案外気軽に個人からも購入してしまえる。「メルカリ」などのUIは、出品者が個人であることを意識させない程度に整っていて、相手が素人であることをあまり気にせずに済む。

これらの理由によって、「売る」という行為の民主化はますます加速してきている。さらにフリマアプリなどの(基本的に中古品を主とする)個人間取引以外にも、アマゾンのマーケットプレイスなど参入障壁の低いネット上の流通経路も増え、これまで小売業をしていなかった層にも広がりを見せはじめている。

「売る」に夢中になる生活者たち

これまでの「生活者」は、もともと「消費者」という言葉もあったように、基本的には「買い手側」の人格として着目されることが多かった。しかし、前述のように生活者が「買い手」ではなく「売り手」としての側面を見せるようになってくると、その行動のなかに新たな発見を見出すことができる。

たとえば、近年話題になっている「メルカリ中毒」という言葉がある。これは単にメルカリでお得な中古品を買いあさるという意味での「買い手」としての中毒だけではなく、出品者として出品行為に夢中になってしまうことを意味する。

「出品して売れる」ループが楽しくなり、家にあるものを次々と出品し、つねに何か出品できるものはないかと家中を探し回ってしまう行動や、「メルカリハイ」と呼ばれる少額での出品を繰り返す行動なども観察されている。

これらの「売る」という行動は、確かに多少の節約やお得にはなっているかもしれないが、商売になるほど簡単に「稼げる」行為ではない。それでもなぜ人は「売る」という行為に夢中になってしまうのだろう? そこにはこれまで着目されてこなかった、「売る」という行為のなかにひそむ快楽の存在があるのではないだろうか?

「売る」の民主化による副作用

もうひとつ、近年「売る」の民主化によって顕在化し、加速している現象がある。それが「転売」だ。誰もが簡単にものを「売る」ことができるいまの時代ならではの副作用といってもいい現象である。

もともと転売は、アイドルやアニメなどのコレクターズアイテムや音楽ライブのチケットなどの問題として取りざたされることが多かった。2016年、チケットの高額転売に反対する音楽団体やミュージシャンらの共同声明の意見広告が新聞に掲載されたことは、まだ記憶に残っている方も多いのではないだろうか。

しかし近年、この「転売」がまた違った姿を見せはじめている。2020年春、新型コロナウイルスのパンデミックで店頭から使い捨てマスクや消毒用アルコールが姿を消し、それらが高額で転売され話題となったことは記憶に新しいだろう。また、ステイホームな環境下で需要が拡大したニンテンドースイッチなどの商品も品薄の結果、転売されるケースが多数見受けられるようになった。いまや転売は、チケットなどのレア・高額商品だけに止まらず、すぐに増刷されることが明らかなはずのコミックス(『鬼滅の刃』など)や需要が一時的に高まった一般生活必需品など、ありとあらゆる商品にまで広がりつつある。

「転売」という行為は、古くからダフ屋・せどり・闇市などの存在もあったように、決していまに始まったことではない。しかし、昨今の「売る」の民主化によって、もともとの転売を生業(なりわい)としていた人々に加えて、よりカジュアルに転売へと参入する人々が加速度的に増加していることは間違いないだろう。

たとえば2020年春の緊急事態宣言前後では食品やトイレットペーパーなどの店頭での買い占めも問題となったが、実際のところ、「最悪使わなくても、すぐ(高く)売れるだろうから多めに買っておこう」という心理が、いまの時代だからこそよりカジュアルに働きやすくなったとも考えられる。

事実、マスクや消毒用アルコールが店頭の10倍以上の価格でメルカリで転売できることを知ってしまった人が、最初は自分用に買っていたのに、気がつけば転売目的でマスクを探し回るようになってしまっていたというケースもあったそうだ。

これは、前の項で述べた「家のなかで出品できるものを探す」という行動とは少し趣が異なってくる。一般的なモラルに照らすと迷惑行為として眉をひそめられることも多い行為であるにもかかわらず、なぜ人は転売に手を染めてしまうのだろうか?

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2021年2月16日に発行された雑誌『広告』流通特集号(Vol.415)。そのすべての記事を4月16日より順次公開していきます。各記事とも…

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