81 思想のある小さな小売店に見る、一歩先の未来 〜 ドワネル 築地雅人 × わざわざ 平田はる香
週末、地方の郊外へ出ると、イオンモールなどの巨大ショッピングセンターは多くの人で賑わっている。ユニクロ、ABCマート、無印良品、カルディ、マクドナルド……と見慣れた看板が並び、駐車場も最上階までぎっしりだ。一方で、町の商店街、旧道に並ぶ小さな薬局や洋品店、駄菓子屋などの個人商店はひっそりしていて開いているかどうかもわからない。そんな光景を目にすることが増えた。
確かに、コンビニエンスストアや複合ショッピングセンターは、便利だ。全国どこへ行っても“いつもの店の、いつものアレ”が手に入る。最近では、新型コロナウイルスの影響で、オンラインで買い物をすることも増えた。
だが一方で、私たちの消費活動は、生活に必要なものを買って使うだけにとどまらない。持っているだけで嬉しくなるような道具、お気に入りの衣服、安心して味わえる食べもの、繰り返し聴きたい音楽、いつまでも眺めていたい本……など、こんまり流に言えば“人生がときめく”、豊かに暮らすための消費もたくさんある。
大量生産大量消費の時代から、追求されてきたのは主に効率とコストである。製造だけでなく、流通・販売面でも、安く早く大量に届く商品が好まれた。その理由は明白で、管理しやすく短期間にたくさん売ることができるから。その結果、時間と手間をかけて生み出すような商品は減り、戦前まで日本に多く存在した手仕事の多くは衰退しつつある。また新しく生み出されるものも、そもそもお客さんの目にふれるところまで届けるのが難しい。そうしたマスの流通の仕組みができ上がってしまっている。
町がこのまま、巨大ショッピングモールやコンビニに覆い尽くされたら、私たちはどこで、心ときめくものと出逢うようになるのだろう。最近はインスタなどのSNSがものとの出会いの場になり、実店舗を持たないD2Cスタイルのメーカーも増えている。そんな風にすべてオンラインで完結するようになるのだろうか。やっぱりものは手に取ってこそと思うのは、昭和生まれの性(さが)だろうか。
そこで、今回着目したのが、ふたつの気鋭の小売店である。どちらも小規模ながら、独自のセンスと仕入れの矜持をもち、多くのお客さんから支持を得ている。一方で、お店の立地を見ると、かたや青山の一等地、かたや長野の山の上と真逆。生き残っていくのが難しい弱肉強食の小売の世界で、キラリと光る個性を発し、多くの人に愛される店を維持していくヒントはどこにあるのか。また、このオンライン化の進む時代に、リアルの店舗を維持し続ける意味とは? 店を運営するうえで大切にしている思想、これからの店のあり方などいま思うことを聞いた。
大手へのカウンターとしての小売
── まず、それぞれどんなお店なのか、簡単に教えていただけますか。
築地:ビオトープという会社の一事業で「ドワネル(doinel)」というお店をやっています。事業全体としてはヨーロッパのインテリア雑貨の輸入がメインで、8割は卸、2割が小売。いくつか海外のブランドのディストリビューションもしていて、ドワネルはそのアンテナショップという位置付けです。路面店が青山にありますが、あえて知っている人だけ来られるように表通りではなく1本入った通りにあります。
「ドワネル」の店舗内観 画像:築地さん提供
平田:私は2009年に「パンと日用品の店 わざわざ」を長野県東御市の、駅から歩くと1時間くらいかかるような山の上で始めました。石窯で焼いたパンに加えて、食品から消耗品、器やタオルなど生活に使うものすべてに範囲を広げて。いま4,000種類くらい扱っていますが、すべて定番品です。オンラインストアが2店舗と「パンと日用品の店 わざわざ」、去年立ち上げた「問tou」というまた違ったお店をやっています。「問tou」は本と喫茶とアートをテーマにした店。全体では仕入れと、パンやお菓子、それに自社開発のオリジナル品がいま20商品くらい。小売が8割以上、残りの1割強ほど卸もやっています。
「パンと日用品の店 わざわざ」の店舗内観 画像:平田さん提供
── ドワネルもわざわざも、オリジナリティのある個性的な商品が人気の理由だと思います。お店で売るものはどんな視点で選んでいるんですか?
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