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130 広告業界はなぜカタカナが好きなのか ~ 「いいもの」は未知との遭遇から生まれる

「いいものをつくる、とは何か?」をテーマに掲げてリニューアルした雑誌『広告』。筆者は本誌上で、これまで2回、現代の広告を考察する小論を寄稿してきた。1回目の「価値」特集号(Vol.413)では、「新しいとは何だろう?」というテーマのもと、いつの時代も通用する持続可能なブランドづくりについて考察。2回目の「虚実」特集号(Vol.416)では、イメージ化(記号の差異化)を基本戦略として大量生産と消費の歯車を回してきた20世紀型広告の発想と手法の限界について論じている。

このふたつの小論は過去の歴史を振り返りつつ、現在進行形の広告のポジションを探る試みだった。どうすれば、広告の領域から「いいもの」を生み出すことができるのか? そのためには小手先のメソッドを語るのではなく、“広告”を基底から思索し、再定義し、アップデートする必要がありそうだ。

今回のお題である「文化」は、前2回の特集テーマをも包括する大きな概念である。文化は経済と一体になって、広告というアプリを作動させる“OS”のようなものだ。三部作の締めくくりとして現在・過去及び日本・海外を行き来しながら、未来への展望も描いてみたい。


カタカナ好きにはワケがある
日本文化の3つのレイヤー

どんな領域の話をするにしても、文化がテーマなら円の“外部(そと)”と“内部(うち)”を意識せざるを得ない。新しい文化はこの両者のせめぎあい、ある種の出会いや摩擦から生まれてくる。たとえばモダンジャズという音楽は、黒人霊歌やブルースといった民謡(内部)とヨーロッパの古典から(当時の)現代までの音楽理論(外部)が融合して誕生したことがよく知られている。

日本文化もマッシュアップの連続である。きっかけはいつも“外部”からもたらされる。我が国では遣隋使・遣唐使の時代から、新しい文化はたいてい海の向こうから来た。言語、宗教、行政、税などの諸制度、都市計画、生活用品から武器、果てはライフスタイルにいたるまで、日本は多くの場合“外圧”をきっかけに変化し、独自の解釈とアレンジで文化を育んできた。

鎖国の時代にはオリジナルの文化も花開いたが、それはたかだか200年余りに過ぎない。明治維新後は中国・朝鮮半島ではなく、欧米圏が主な文化の輸入元となったのはご存じのとおりだ。ざっくり言うと我が国の文化には、「漢字」「ひらがな」「カタカナ」の3つのレイヤーが複雑に入り混じっている。

なぜ、広告会社ではカタカナの業界用語が多用されるのか? その謎の答えもこのあたりにある。新しい文化がもたらす流行を、ビジネスに取り入れることが巧みな広告業界は、“外部”からの刺激に敏感だ。よってこの業界で用いられる言葉はカタカナだらけである。「クリエイティブ」「キャンペーン」「マーケティング」「ブランディング」etc.―肝になる概念はほぼ英語。それらをやはり独自に解釈して、自分たちにとって使い勝手がよいように運用してきた。

これら多くのカタカナワードは、アメリカ文化の影響を強く受けた1950年代以降、急速に広告業界に広がり、定着していった。ポスターや新聞広告がメディアの主役だった時代、それまで「図案」あるいは「宣伝美術」と言っていたものが「グラフィックデザイン」と呼ばれるようになった。「アートディレクター」という職種と分業制作システムは1960年代、電通の中井幸一が導入したと言われている。デザイナーとして、のちには広告評論家として活躍した人物である。

近代以降の日本の場合、社会全体が欧米文化好きという側面もあるだろう。英語がもっともグローバルに流通する言語というのもある。しかし、広告業界のカタカナ好きは筋金入りで、ときにこんな風に揶揄される。「よくわからない営業ワードで人を煙に巻いている」「カタカナだらけのスライド資料は胡散臭い」。広告業界が“虚業”呼ばわりされるのも、むべなるかなと感じてしまう。

だが、それは致し方ない面もある。筆者自身2020年代現在、「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」というやたら名称の長い海外イベントに毎年足を運んでは、やれ「パーパス(社会的存在意義)」だの「オーセンティシティ(真正性)」だのといった“外来思想”を紹介する記事を、いくつもの媒体に寄せている。こうした用語は日本語に訳しにくい。「ゲーム・チェンジャー」を“試合変革者”などと訳していたら、かえってよくわからない。広告やIT業界などは日本文化の新しい地層、つまりカタカナのレイヤーにある産業だ。

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