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69 「韓流ブーム」から「アジアで独り勝ち」へ 〜 韓国ポップカルチャーを加速させた新しいシステムと新しい流通

2003年にNHKで初放送された『冬のソナタ』を発端とするいわゆる「韓流ブーム」は、その後、日韓の政治関係の悪化などを背景に短いサイクルで浮き沈みを繰り返し、現在はBTS、TWICEなどを筆頭とするK-POPグループの人気が牽引する「第3次韓流ブーム」の真っ只中、あるいは、コロナ禍における日本国内のネットフリックス契約者数増加に大きく貢献した『愛の不時着』や『梨泰院クラス』の大ヒットを受けて、「第4次韓流ブーム」などともいわれている。

しかし、最初に共有しておきたいのは、輸出先は主にアジア圏内(とくに日本)のマーケットだった2000年代までと違って、2010年代に入ってからその文化的な影響力を全世界に拡大することに成功した韓国ポップカルチャーは、もはや「ブーム」という言葉で言い表すにはあまりにも巨大になっているという事実だ。韓国ポップカルチャーの隆盛はもはや一時的なものではなく、2010年代の音楽、映画、テレビドラマにおける「新しい状況」となった。まずはそれを前提として話を進めたい。

韓国ポップカルチャーについて語る際には、ふたつの困難さがつきまとう。ひとつは、先述した「音楽、映画、テレビドラマ」をひとまとめにして語ると、どうしても大雑把な話になってしまうということだ。日本にもK-POP、韓国映画、韓国ドラマ、それぞれのカルチャーの成り立ちや個別のプレイヤーに詳しい専門的な書き手や語り手はいるが、自分が本稿のオファーを受けた理由は「音楽、映画、テレビドラマの最新動向に精通していて、各分野を横断して語ることができる」という自負が少なからずあったからだ。

2010年代後半以降、北米をはじめとする世界中のマーケットで大成功を収めるようになったK-POP。1990年代から世界的に評価される映画作家をコンスタントに送り出していて、『パラサイト 半地下の家族』ではカンヌ国際映画祭&アカデミー賞のダブル制覇を成し遂げるまでになった韓国映画。そしてアジアのマーケットが中心であることは変わらないものの、2010年代に入ってから一部の作品において目を見張るような洗練を遂げるようになった韓国ドラマ。それらの異なる動きをひとつの「トレンド」として語っても、そこに正確さや的確さは望むべくもない。

もうひとつの困難さは、韓国カルチャーのマーケットが急拡大したことによって、韓国国内での動き、日本での受容のされ方、そして世界各国での受容のされ方、それぞれ「どの視点から語るか」によって見え方が大きく変わってきたことだ。とくに韓国、日本、北米をはじめとする各地域で独自のファンダムが築かれてきたK-POPはそれが顕著で、所属するプロダクションの戦略や、レコード会社のリリース・スケジュールやリリース作品も、地域ごとのマーケットに最適化したローカライズが図られているアーティストも多い。そこを見誤ると、たとえば2年前に日本の女性週刊誌やスポーツ新聞が見出しとして打った「BTS、紅白落選」のような、日本のローカル音楽番組の価値を根本的に勘違いした滑稽な言説を撒き散らすことになる(その半年前にBTSはビルボード全米アルバムチャートでアジア圏アーティスト史上初の1位を記録している)。

本稿では、そのようなふたつの困難さをかい潜(くぐ)りながら、「音楽」「テレビドラマ」「映画」と分野を3つに分けて、日本のエンターテインメント界との対比を軸に、韓国のエンターテインメント界でいま何が起こっているかをひも解いていきたい。


キーワードは「K-POP超え」

K-POP界における2020年最大のニュースは、BTSが2年前に初めてビルボード全米アルバムチャートで1位を獲得した(その後も3つの作品で1位を獲得している)のに続いて、同年8月にリリースした「Dynamite」でついに全米シングルチャート初登場1位を記録したことだろう。リリース初週に熱心なファンがフィジカルやデジタルダウンロード音源とセットになったグッズ(そのような販売形式は「バンドル」と呼ばれている)を買い支えることでチャートのポイントを稼ぎやすいアルバムと違って、ラジオでのオンエア回数やストリーミングでの再生回数がダイレクトに反映されるシングルでは、全米くまなく幅広い層からのリアルな支持がないとトップに立つことができない。ましてや、シングルでの初登場1位というのは、それこそドレイクやアリアナ・グランデのようなトップ・オブ・トップのアーティストでも滅多になしえないこと。

そこでBTSは2週連続で1位になったうえに、5週目にも1位に返り咲き、さらに6週目には自身がリミックス(楽曲でフィーチャリングされることを現在はリミックスと呼ぶことが多い)したジェイソン・デルーロの「Savage Love」をリリース17週目にしてBTSのバリューによって1位へと押し上げた。チャートの1位2位を独占するという、大げさではなく、まるでアメリカ進出を果たした1964年のザ・ビートルズを思わせるようなファナティックな状況を生み出したわけだ。すでにパフォーマーとしてはグラミー賞授賞式でのデビューを果たしているBTSだが、2021年のグラミー賞では最優秀楽曲賞レコード賞といった主要賞でのノミネートも射程に収めている。

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