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52 これからの著作権 〜 法律家 水野祐 × THE GUILD代表 深津貴之 × 『広告』編集長 小野直紀

これまで著作権は、書籍、音楽、映像などメディアの拡張とともに発展してきた。そうしたなか、1970年に全面改正された著作権法は、その目的を「著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与すること」と明記した(第一条)。それからおよそ半世紀、インターネットやスマホという新しいメディアの普及、新しい技術の登場によって、誰もが簡単に創作し、複製し、流通させることができる環境が急速に実現した。この急激な変化にいまの著作権は適応していないのではないか。本誌編集長の小野直紀が、法律家の水野祐氏とTHE GUILD代表でコンテンツ投稿プラットフォーム「note」を運営するピースオブケイクのCXO(※1)を務める深津貴之氏を迎え、「これからの著作権」をテーマに鼎談を行なった。


著作権は、産業のためか、文化のためか

深津:そもそも著作権って、本当に文化発展のためにつくられたものなんでしょうか? それは建前で、本当は産業保護が目的だったと以前にうかがった記憶があるのですが。

水野:著作権の歴史については諸説あるんですが、活版印刷技術の発展・普及を前提として、印刷業者による複製の権利として生まれてきたと言われているので、確かに最初は産業保護が目的だったと言えるかもしれないですね。加えて、活版印刷技術によって情報が大量に複製されるようになって、ときの権力者が「出版、情報をコントロールしたい」と考えるようになったことも大きいと言われています。つまり、国王が一部の印刷業者に独占的な権利を与え、管理下に置いたことが著作権の始まりだと説明されることが多いです。
ですが、しばらくして国王による支配がなくなると、権力から与えられた特権ではない形で著作権を理論化する必要が出てきました。たとえばドイツやフランスでは、著作権をクリエイター本人がもともと持っている権利、つまり「自然権」であると理論を構成しました。これは著作権の人格権的側面を重視した考え方です。その後、著作権という独占権を付与することでクリエイターのモチベーションを上げ、より創作に励んでもらおうという著作権の経済的側面を重視した考え方が出てきました。
いずれにしても、著作権は基本的には産業ではなく、文化の保護を担い、産業の発展については特許権などが担うという役割分担で法律が設計されてきました。ここでは、文化と産業は別モノであるという考え方が前提となっています。

深津:ということは、本質的には著作権は文化振興のツールなのですね? だとすると、産業のために著作権を振りかざすのは反則というか、本来の用途と違うという理解でよいでしょうか?

水野:出自的にはそうかもしれません。ですが、いまの著作権がねじれているのは、日本では1990年以降、文化に産業的側面が入ってくるようになったためです。「コンテンツ」という言葉には経済的な視点から文化を見た際のニュアンスが含まれていますが、「コンテンツ文化」などと言うように、文化と産業が切り離せなくなりました。逆も然りで、文化が持つ経済的な側面が「文化資本」などという言葉とともに語られるようになってきます。そのような流れをふまえて、著作権法が謳う「文化の発展」には「産業の発展」も含まれているのだ、という解釈をする人は増えてきていますし、僕もそう考えています。

深津:基本方針が文化の育成、成長ということなら、著作権法のせいで文化の発展が阻害されたり毀損されたりするケースはどう考えるべきでしょう。制度の設計が時代に合わなくなったか、設計そのものにバグがあったということになるのか。

水野:そうですね。実際、近年のインターネットなどの環境に照らすと、著作権という権利や著作権法という法律が文化のためになっていないというケースが散見されるようになっていると思います。そしてここには、誰の目から見た「文化」なのかという難しい議論もあります。
究極的には第一条の目的に立ち返って、「これまで通用していた解釈がいまでは文化発展のためになっていないのだから、その解釈を変えるべきではないか」と主張することは、法理論的には可能です。ただ、もし実際になんらかの裁判が行なわれたとき、「法律の目的」を論拠にするというのは、たとえるなら憲法違反を主張するような、ほかに打つ手がないときの最終手段という感覚が弁護士的にはあります(笑)。

著作権は、ミームの流通を阻害している

小野:現状の課題として、インターネット時代になって誰もが創作して複製して発信できるようになったいま、どういう齟齬が発生していると思いますか?

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