世界観を共有するコミュニティコマースの可能性
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世界観を共有するコミュニティコマースの可能性

ビジネスデザイナー 江原理恵 × Takramディレクター 佐々木康裕 × わざわざ代表 平田はる香
『広告』流通特集号イベントレポート

2月16日に発売された雑誌『広告』流通特集号にかかわりの深い方々をお招きし、オンラインでのトークイベントを開催しました。今回のゲストは、流通特集号で全体の編集アドバイザーも務めていただいたTakramの佐々木康裕さん。同じく本誌でお話をうかがった、パンと日用品の店「わざわざ」および「問tou」を運営されている平田はる香さん。そして、アメリカ・サンフランシスコから最先端の消費動向を発信されている、ビジネスデザイナーの江原理恵さんのお三方。いま、ものを販売するうえでひとつのキードライバーとなっている「コミュニティコマース」をテーマに、「関係者をすべて含めた『共同体』をよくしていく」「世界観と規模拡大は両立するのか」など、話題は多岐にわたりました。

ものがあふれる時代に生まれつつある「コミュニティコマース」

小野:いま僕は京都にいるんですが、佐々木さんは東京、平田さんは長野、そして江原さんはサンフランシスコというそれぞれの場所からお届けしています。「コミュニティコマース」に注目したのは、ちょうどこのトークイベントを企画していた1月に、「コミュニティコマースが今後盛り上がるのでは」という佐々木さんのツイートを拝見したのが発端でした。まず佐々木さんから、このワードに注目したきっかけを教えていただけますか?

佐々木:スニーカーオタクのコミュニティ向けに情報発信している「Sole Savy」がおもしろいな、と思ったのがきっかけでした。アメリカとカナダで運営していて、月額30ドルほどのサブスクリプションでSlackコミュニティに参加できます。クローズドなので聞いた話ですが、たとえばナイキの特定モデルが好きな人同士で語ったり、レアスニーカーの入手情報が共有されたりしているそうです。

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「Sole Savy」のウェブサイト。会員になるとSlackコミュニティに参加できたり、スニーカーの独占リリース情報を得られるなど様々な特典がある 画像:「Sole Savy」ウェブサイトより

消費者とのこうした接点の持ち方は、「自分でつくって自分で売る」というD2Cブランドのスタイルとは違います。考えてみると、スニーカーはすでに世の中にいいものがたくさんあるし、新しいものの提供より、何を買ったほうがいいかを教えてくれるほうがいいなと思ったりします。また世の中全体でも持続可能性や消費の脱物質化に注目する流れがあるなかで、果たして新しいものをつくる必要はあるのか、という問いもある。そうすると、ニッチな興味を持つ人のコミュニティが生まれる場を設けて、そこに情報提供したり既存商品を販売したり、という在り方もこれから増えていくかなと思ったんです。

小野:具体的に、コミュニティコマースはどういった活動だと捉えていますか?

佐々木:D2Cとの違いで言うと、ものづくりをしない代わりに4つの活動があると思っています。コミュニティの運営、そのカルチャーづくり、既存商品やサービスのキュレーション、そして情報のキュレーション。キュレーションのセンスのよさそのものが、商品なんですね。顧客インターフェースも自社ではなくSlackなどを活用していたり、資金調達ニーズがあまりなさそうな点も、D2Cブランドとは違いますね。拡大というより、もう少し手触り感があるような活動に見えます。

江原:似たようなところで「Curation as a Service」という言葉がありますね。ものがあふれる時代だからこそ、信頼できる人の勧めるプロダクトやニッチなニーズに沿ったプロダクトなどを狭い範囲でキュレーションして、特定の人に深く刺さるようなコミュニティづくりが起こってきていると思います。

小野:コミュニティコマースだったり、キュレーション自体を商品にしているようなサービスで、江原さんが注目しているものはありますか?

江原:一例ですが、「Parade(パレード)」というランジェリーブランドがインスタグラム上で「自分のクラフトスキルを教えたい人はいませんか」と募っていました。フラワーブーケやDIYなど範囲は広いのですが、教えたい人と教わりたい人をつなげるコミュニティづくりのようなことに取り組んでいる。ブランドとしてものづくりをする人をエンカレッジする姿勢を打ち出すという意図があると思うんですが、こうしたちょっと変わった動きは最近とても多く見かけます。

クラフトチュートリアルを募るParadeの投稿


また個人的にも好きな「FOOD52」というサイトのコミュニティが、このコロナ禍で伸びているそうです。食べ物やキッチンまわりのインテリアを中心に、家で使うものがキュレートされているんですが、あくまでコミュニティがメインでEC機能はその一部に含まれている形です。

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数千のレシピのほか、食にまつわる記事がアップされている「FOOD52」。コミュニティに参加すると、自分のレシピを投稿したりコンテストに応募することができる 画像:「FOOD52」ウェブサイトより

小野:このセンスに惹かれる人たちが集まっている、ということですよね。どういう発端で集まるようになっていったんですか?

江原:最初は、ファウンダーの方がレシピサイトとして立ち上げていました。ただ、単なるレシピ情報というよりテーブルでのプレゼンテーションまで含めて凝っていて、そのセンスに惹かれて人が集まっていった経緯があります。メンバーがハッシュタグで自分のキッチングッズを投稿したり、レシピを教える動画にメンバーが登場したりしていますね。

佐々木:まずコミュニティありきで、後付けでコマースがある、と。いままではD2C企業がプロダクトを売るために顧客をコミュニティ化していましたが、逆ですね。

友人に勧めたいものを扱う「わざわざ」の商品選び

小野:ある種の世界観や価値観に人が集うという点は、平田さんが実践されていることに重なると思います。平田さんの場合はコミュニティコマースではなく、まずお店ありきで人が集まるという順序ですが、僕が『広告』流通特集号の「81 思想のある小さな小売店に見る、一歩先の未来」という記事でお話を聞いて印象的だったのは、お店を運営するうえでの指針が本当に明快だったことです。受け手が共感できるコアがしっかりあることが、世界観の確立に大事なんだと思いました。平田さん、まず「わざわざ」を開いた経緯をうかがえますか?

平田:わざわざ」は長野県東御(とうみ)市の山の上にある、パンと日用品のお店です。2009年に実店舗とECを開店して、いまも同列で商品を販売しています。私自身、もの選びのこだわりがとても強く徹底的に調べるので、買うまでに時間がかかってストレスだったので、それを端折った仕組みをつくりたいと思ったことが発端です。

最初から、商品選定からビジュアルからECから、すべて統一した世界観をつくろうと考えていました。江原さんが紹介された「FOOD52」は私も以前から見ていましたし、アメリカのライフスタイル雑誌『Kinfolk』などを読んでライフスタイル系のフォトグラファーやスタイリストを片っ端からフォローして、世界観はどんな要素でつくられるのかをかなりリサーチしましたね。初期にだいたい方針を決めて、社内でずっと共有を図ってきました。

小野:扱うものにも、明確な基準がありますよね。

平田:私たちが使って「よい」と思ったものを、友人に勧めるように紹介しています。友人や家族なら健康であってほしいし、無駄のない買い物をしてほしい。そういう気持ちで商品を発掘したり、オリジナル商品の開発をしたりしています。基準をしっかり言語化した(※1)のは立ち上げから少し経ってからですが、考えとしては当初から一貫しています。

ただ、厳密には徐々に緩くなっているところがあります。最初はもっと無農薬や動物性成分ゼロなどにこだわっていましたが、あまりに偏向的だと、本当にニッチな人にしか合わなくなって。少しでもずれる人に、基準を強いるような行動はあまりよくないなと思ったんです。

小野:「友人に勧めたい」というのが真ん中にあるのが、すごくいいですよね。緩くしていった過程も、友人といっても時間をかけられる人もいれば忙しくてそこまでこだわれない人もいるから、といった思考がうかがえるところがおもしろい。

佐々木:世にあるお店も、基本的には「誰かの幸せのために」というモットーで運営されていると思いますが、いまの平田さんのお話からはお客さんはもちろん、生産者や地域のこと、環境のことも考えられていることがわかってとても共感しました。従業員も含めて、ビジネスにかかわる全員のためにお店を運営されている。

コミュニティコマースにちょっと違和感があるとすると、コミュニティもコマースもお客さんしか見ていない感じがあるんですよね。買い手と売り手やつくり手の関係性も、日本だと「お客さんのほうが偉い」となりがちですが、その関係にも揺さぶりをかけるような売り買いの仕方ができると、次世代感がある。そういう対等な感じが、いいなと思いました。

平田:ありがとうございます。「誰か」だけを見ないように、いつも意識しています。厳密すぎる基準はお客さんにとっていいことではないし、生産者にも負荷をかけるので少しあいまいにしておく、それも一方向だけを見ない取り組みのひとつです。

いま「コミュニティ」に注目が集まるのはなぜか?

小野:最近、マーケティング関係の話で印象的だったことがふたつあります。ひとつは経済学者の大垣昌夫さんから、「マーケティングとは『顧客との共同体をよりよくしていく活動』だ」とうかがったこと。オリジナルの考えではないとおっしゃっていましたが、この「共同体」という言葉には、売り手も買い手もつくり手も、もう少し広げると環境なども入ってくる。コミュニティというと手法のように聞こえますが、共同体とも近いのかなと思いました。

もうひとつはマーケティングコンサルタントの高広伯彦さんに、すべての商品をサービスとして捉え直す「サービス・ドミナント・ロジック」についてうかがったことです。昔は商品自体に価値があり、企業はそれを届けるだけでしたが、サービス・ドミナント・ロジックには「価値をつくるのに顧客も協力する」という考え方があります。たとえば、わざわざで出汁を買った顧客が、自分で時間をかけてスープをつくって初めて価値が生まれる……みたいな。もう少し共同体的で、売り手と買い手が分断されていない感じ。

平田:その考え方は、昔からあるようにも思います。たとえばお茶の世界だと、生け花や書や庭、茶碗や着物など含めて全方位的に主人が空間をつくり上げ、客人はその空間を乱さずにならっていきますよね。そんな全方位的な感覚がビジネスに反映されると、独自の世界観が生まれて、集まる人もまたその世界観をつくり上げていく、といったことができるのではないかと思います。

小野:なるほど。新しくないと言われればそんな気もします。なぜ、新しく感じるんでしょうか。江原さん、アメリカではD2Cやコミュニティづくりが早くから活発だと思いますが、そうした顧客の協力で成り立つ世界観や共同体づくりについてどうお考えですか?

江原:たしかに、新しいわけではないと思います。コミュニティやそこにおけるコマースを調べると、2013年頃の記事が多くて、それってD2Cが勃興しはじめた頃なんですね。プロダクトが世の中にあふれ、マーケティング主導でどんどん広がって利益追求の潮流が色濃くなっていく対抗として、D2Cは「なぜこんなにものが高いのか」という業界を打ち砕くような問題提起とともに誕生したと思うんです。そうしたマーケティングの潮流やライフスタイルの変化などに応じて、コミュニティは波のように生まれては消え、私たちに寄り添って昔からあるものなんだと思います。

同時に、だからこそコミュニティづくりは企業活動に比べてかなり難しく、マネジメントしにくい側面があります。難しいから、企業がチャレンジし続けていて、時代に合わせた再設計が繰り返されている。

小野:いまがまた、そのタイミングなのだろうと?

江原:そうですね。とくにアメリカではコロナの影響がすごく大きいと思います。日本と違って外出の制限が強く、本当にちょっとした友人にも全然会えていない状況のなかで、オンラインをベースに趣味や興味で強く結びつくコミュニティがトレンドになっている。少し前は物理的な結びつき、オフラインがトレンドでしたが、いまはオンラインが新しく見えているのだろうと思います。

消費者から声を上げていくことと、その力が増幅される怖さ

佐々木:アメリカでは若い人が価値観を上書きしようとするエネルギーがすごく大きいですよね。江原さんは、そのうねりをどうご覧になっていますか?  日本では人口ピラミッドの構造からも、なかなか若い人たちの声が世の中に大きな影響を与えにくいですが、アメリカだと次々起こっている印象があります。そのあたりが、消費者の価値観の変化や、それこそコミュニティの在り方にも影響するかなと思っていて。

江原:なかなかひと口では言えないので、あくまで個人的な体感になりますが、若い世代がいままで以上にリベラルになってきているような感覚はあります。私くらいの世代だと国際結婚や在米2世、3世との結婚があたりまえなので、いまのZ世代はMixed-raceの人が本当に多いんですね。なので政治や人種差別の問題が起きたとき、自分ごとになりやすいのかなと思います。そこに、いまの不景気や不安定な状況がある。結果として、理不尽なものに怒りを感じやすく、表出しやすいのではないかなと。

正義感が強く、誰かが盗作したとか、企業に対しても儲け主義に見える動きをけん制するようなところもあります。たとえば昨年起きた「Black Lives Matter」に対しても、何も態度を表明しないとそっぽを向かれたり、あるいはトレーダー・ジョーズというスーパーで従業員の不当な解雇が明るみになった際にも、SNS上で不買運動が起こったりしています。外側からの圧力が、かなり強くなってきているというのは感じますね。

佐々木:平田さんのお話にも通じますが、消費者とメーカーの立場関係がかなり変わってきて、大企業の従来の販売方法に対して若い人を中心にNOが突きつけられている、と。SNSという、ある種の声の拡散装置を活用することで、これまで無視していいだろうと思われていた意見がどんどん拡散しているわけですね。

平田:ちょっと怖いところもありますね。消費者が主張する「正しさ」が、本当に正しいのかはわからないから。共振することで思想がどんどん変わっていく過程もあるでしょうし、とくにSNSは悪いものほど加速的に突き上げる力が大きいので、ゆがんだまま糾弾され続けることも起こりそうで。経営する側として、突き刺さる問題だと感じます。

佐々木:その怖さ、よくわかります。江原さんが「何も態度を表明しないとそっぽを向かれる」と言われましたが、個別事情があるから口をつぐんでいるかもしれないのに、その事情に思いを寄せない。現在の価値観で過去の行為を否定したりすることも起きていると思います。

商品をよくするために意見を寄せるのは顧客の義務

佐々木:多少行き過ぎな点はありつつ、この声を上げる現象が大きな流れになっていること自体は、先ほどの「売り手と買い手が対等になる」話のように、これまでの関係性に揺さぶりをかけることになっていると感じています。

平田さんはお店のスタンスをはっきりと提示されていますし、僕が先ほど話した「お客さんのほうが偉い」といった日本的な価値観は薄いかと思いますか、顧客との関係性のバランスをどう捉えていますか?

平田:そうですね、売り手も買い手も、どちらが「100%正しい」ということはないと考えています。よい塩梅を探していくのが私たちの仕事なのかなと思っていて、まさにバランスを取ることをすごく意識しています。

たとえば商品の不具合でクレームを受けた際、一般的な企業はまず謝るのかもしれませんが、私たちでは謝る前に「何が起こったのか」を徹底的に検証します。写真や現物を送ってもらったり、どのような使い方をしたのかを聞いたりして、お客さんの主張が本当に真実で私たちが悪かったのかを追及します。最初は、そんな対応をしたらすごく怒られたりしたんですが、いや違うんだと。あなたの使い方も教えてください、というスタンスをとおしています。

オリジナル商品だと10年くらい通年販売しているものもあり、つねに改善しているんです。なのでお客さんに対しても「不具合を報告するのは商品をよくするための義務」だと思ってほしいくらいの感覚がありますね。

佐々木:それはすごい、「商品をよくするために報告するのは顧客の義務」というのは、まさにパラダイムシフトですね。

平田:うちとつき合うなら、それくらいの覚悟でいてください、と。ただ販売するわけじゃなく、顧客も“買ってやる”という態度じゃない、お互いに支え合う仕組みがいいと思っています。

それはメーカーに対しても同じで、工場にもよくうかがっていますし、最良の策はないかをディスカッションしてつくっています。私たちの提示する仕様が絶対ではないので、意見を交わしながら実装していきたい。対等でありたいですね、お互いに。

小野:本当に、ブレがないですよね。その姿勢がとても興味深いです。と同時に、平田さんだけが奮闘していてもひとり相撲になってしまいますよね。従業員や生産者の方々も理解して一体となれるのかが大事になるのでは、と思います。そうした方々と共同体になって価値をつくるために、気をつけていることや取り組んでいることはありますか?

平田:情報を完全にオープンにしています。オリジナル商品なら生産過程で私たちがどれだけ利益を得ていて、どう分配しているか、いつどこで何個売れたかの販売データも全部メーカーに公開しています。

社員やバイトさんにも、経営のデータに全員がアクセスできますし、商品選びの過程もLINE上で見えているので、入荷したときに「あ、これがあの商品か」というのがわかる。あと、社内では毎週「講和」と称して、考えたことや取引先の社長との話、スタッフの「今週の好プレー珍プレー」などを話しています。平田の話を30分聞け、という時間です。

小野:おもしろい(笑)。

平田:プロセスを見ているから、統一の意志ができてくるようなところはありますね。隠し事がない状況で、逐一、変わっていく軌跡を見せるようにしています。

規模の拡大と世界観の維持は両立できるか?

佐々木:とても興味深いです。僕はよく「鏡から窓へ」という話をするんですが、これまでは企業がマーケティングリサーチをとおして消費者のニーズを探り、それに呼応する形で「これがほしいんですよね?」と提示する、まるで消費者の映し鏡を読み解くようなアプローチがなされていたと思います。そこから「窓へ」というのは、企業自体が全面ガラス窓に囲まれた丸裸の状態で、「それでも好きになってくれますか?」と問いかける覚悟が問われているように思うんです。つくり手が本当に本気でやっているか、を見てもらう。

冒頭で、D2Cとコミュニティコマースの違いを4つ挙げましたが、ちょっと複雑なので省略したことがあって、それが「オーセンティシティ」でした。本物か、正真正銘か。砕けた言葉でいうと「ガチでやっているのか」ということですね。

アメリカでもいろいろな選択肢があるなかで、いわゆるマーケティングハック的につくられたプロダクトより、企業の本気度合いが問われて選ばれているのではと思いますが、どのような状況ですか?

江原:おっしゃるようにいろいろな選択が混在していて、ファッションとしてブランドやプロダクトを売る人も一定数いますし、最初は志があってもVCマネーが投じられて雰囲気が変わるケースもよく目にします。もともとはD2Cとして、それこそオーセンティシティが支持されていたのに、それを上回るマーケティングフィーが投じられているのが透けて見えて凋落していくような。個人的にはそうした状況には疑問を感じていますし、本気度合いを示す投資は不可欠になっていくのではないかと思いますね。

小野:VCの話が出ましたが、やはりお金が入ると雰囲気が変わる、世界観が変わることもあるわけですね。規模を大きくしながら、世界観に一貫性を持たせるのはすごく難しいことなんだと思いました。規模拡大と、コミュニティや世界観の維持は、どうしたら両方得られるのでしょうか。たとえば平田さんの信念に一定額のお金が投じられたとしても、変わらず世界観を構築できる道はありそうですか?

平田:どこからお金を得るのかが大事になるのでは、と思います。個人からの支持が無数に増えていく形なら、そんなに世界観に影響はないような気がします。「わざわざ」でそれをやろうとすると日本のマーケットの縮小問題が出てくるので、いまは中国を中心に販売を拡大しようとしています。ダイレクトのまま、世界をちょっと広げて、変わらず「いい行動」をとっていく。言語や価値観が変わるとそれに伴う問題も出てくると思いますが、基本的には無数の個人を味方につけていけたらと思っています。

そうすると先ほど話題に上がった、個人がSNSなどでつながって一斉に「おまえが間違っている」と突きつけられる事態も起こるかもしれませんが、そのときは本当に間違っていたら謝って正していければ。社会において役割があり、みんなが求めてくれたらそれが拡大する手立てになると思うので、うちは変わらず「健康」の軸を立てて、わざわざをとおすと健康になれるという方向性を打ち出したいですね。

小野:なるほど。おふたりは、規模と世界観の両立についてどうお考えでしょうか。うまくいっている注目事例などは?

江原:ヨガウェアの「ルルレモン」は、好例のひとつだと思います。もともとスポーツウェアか洋服かというカテゴリしかなかったところに市場を開拓して、コミュニティファーストの取り組みでずっと伸長しています。また、有名どころではパタゴニアも世界観を維持して拡大していますよね。

一定規模を超えようとするとき、ビジョンを優先できるのか、数字を追うのかの判断があると思います。サンフランシスコで割と対比して語られる企業に、オールバーズとエバーレーンがありますが、変わらず支持を集めるオールバーズに対し、エバーレーンはアウトレットにも商品を卸しはじめたりと、少しずれていっている印象がありますね。

最終的には、ファウンダーがどこまでやり切れるか、理想を追い続けられるかというところに大きく関係するのではと思います。私自身とても興味あるテーマですし、規模と世界観は両立すると思いたいです。

佐々木:規模とエッジの立った世界観、これは永遠のテーマですね。ルルレモンやパタゴニアはVCから調達していないので、他人の要請ではなく自分たちに合ったペースで成長するのが大事なのかなと、お聞きしていて思いました。

もうひとつ最近のトレンドでおもしろいのは、個人や数人で運営する「ワンパーソンメディア」の増加です。僕も3人で「Lobsterr」という無料メルマガを運営していますが、定額制や寄付モデルで小規模に運営するメディアの例は世界的に出てきています。ある程度の読者がついて月額や年額制にすれば、すべて自分でコントロールしながら、得意なことで生活を維持できる。そういう世界が広がると、誰かが無理をする感じにはならなさそうです。

思想は変えず、世界観の打ち出し方を変えていく

小野:規模のほかに、世界観や価値観は時代によっても移り変わると思いますが、ネガではなくポジティブに変化していくのはどういう例がありますか?

佐々木:違和感を生みやすいのは、マスを攻めるようになったなと思うときじゃないでしょうか。一方で、テイストの変更はポジティブに感じることが多いです。江原さんが以前ツイートされていた、グッチがZ世代を取り込むためにどんどん新しい表現に取り組んでいることなどは、伝統に甘んじるより自己革新している感じがあって好感を持ちました。

江原:私も、ファウンダーやブランドが自らテイストを変えていこうとするのはポジティブに見ています。逆に下着メーカーのヴィクトリアズ・シークレットは、いまのボディポジティブの潮流に逆行するようなことを強行したり、経営者が時代の空気を読まない発言をしたりして、「変わらないこと」でひんしゅくを買っていたりします。トレンドに影響されすぎるのは問題ですが、ある程度の流動性はむしろ必要なのでは。世界観の統一というより、根本の思想のほうが重要なのだろうと思います。

小野:なるほど。平田さんもずっとお店を運営されるなかで、強い意志を持ちながらも、変えてきたところもあるんでしょうか?

平田:私たちはブランドではなく小売業なので、小売りの視点ですが、まず扱うものには一貫性があります。冒頭でお話しした基準にそって、普遍的な生活必需品をそろえています。

あとは、まさに時代によって「合わせていく場所を変える」という感じですね。たとえば「健康」は軸としてはありますが、お客さんが偏ると店の雰囲気も違ってくるので、最初はあまり天然酵母だとか石窯だとかを打ち出していなかったんです。それが時代が変わり、いまは環境意識やSDGs、ノープラスチックのことなどが大きな話題になっています。それなら私たちは開業当時から取り組んできたのだから、いまこそ言わねば、と。

小野:焦点を当てて打ち出すところを変えていっているんですね。

平田:そうですね。あと、お客さんの買いやすさはどんどん改善しています。山の上でも、電子マネー決済を整備したり。やっていることは一貫性を持たせて、主張は変えていく。12年お店をするなかで、本当に世の中がすごいスピードで移り変わるのを実感しているので、同じではいられないなと思っています。

小野:多少の世界観の変化は許容できることで、むしろ思想や信念をブレずに維持することが大事という意見が共通していました。最後に、今日の感想をいただけますか?

佐々木:「コミュニティコマース」がテーマではありましたが、それに捕らわれずにお話を聞けたらと思っていたので、いろいろなテーマで対話ができてとてもよかったです。

江原:みなさんとのお話から、これから考えるべきことを多く得られました。アメリカのことばかり追ってきましたが、次に帰国した際はぜひ平田さんのお店にうかがいたいです。

平田:ぜひ、ご案内します。中国とアメリカの動向をずっとリサーチしていたので、今日は江原さんから現地のお話も聞けて学びをたくさんいただきました。

小野:ある種の世界観に集まった人を「コミュニティ」と捉えていましたが、従業員や生産者も含めて捉えると、今後の消費の在り方や企業活動についての示唆が広がるなと思いました。お三方とも、ありがとうございました。


文:高島 知子

江原 理恵 (えはら りえ)
証券会社、コンシューマー向けのサービスを投資対象としたベンチャーキャピタル2社を経て、2005年にRE株式会社を設立。草花をテーマにした様々なコミュニケーションプロダクトを制作する傍ら、インターネットサービスとリンクしたオフィスデザインやウェブサービス・アプリのディレクションを行うなど、デジタルとリアルを統合させたビジネスデザインに取り組む。2018年よりサンフランシスコ在住。日本企業向けにアメリカの先端事例を活用したコンサルティングやアメリカ進出のサポートを行なっている。
佐々木 康裕 (ささき やすひろ)
Takramディレクター。クリエイティブとビジネスを越境するビジネスデザイナー。エクスペリエンス起点のクリエイティブ戦略、事業コンセプト立案を得意とする。D2C含むニューリテール、家電、自動車、食品、医療など幅広い業界でコンサルティングプロジェクトを手がける。ビジネス×カルチャーのスローメディア「Lobsterr」の共同創業者。
平田 はる香 (ひらた はるか)
1976年生まれ 2009年長野県東御市の山の上に趣味であった日用品の収集とパンの製造を掛け合わせた店「わざわざ」を開業する。2017年に株式会社わざわざ設立。2019年東御市内に2店舗目となる喫茶/ギャラリー/本屋「問tou」を出店。ECサイト2つと実店舗2店で事業を行ない、リモートワークと移住者で構成された働き方も注目を集める。2020年度で従業員20名で年商3億3千万円を達成。
高島 知子 (たかしま ともこ)
編集者、ライター。雑誌編集者を経て2010年よりフリーランス。広告、広報、クリエイティブなどマーケティング・コミュニケーション領域を軸に、Webメディアや雑誌、書籍などで活動。Twitter: @TOMOtksm
脚注
※1 商品選定基準、食品選定の基準、ものづくりの基準をそれぞれ5つ、明確に設定。「わざわざ」のウェブサイトでも公開されている。


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今回のトークイベントに参加いただいた佐々木康弘さんには、雑誌『広告』流通特集号でもご協力いただきました。現在、佐々木さんへの取材記事を全文公開しています。

61 アフターデジタルとD2C
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