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情熱探訪Journey Part.1|デコチャリを漕いで奇抜な学生に会いに行こう! (木原元編集長イチオシ記事 #1)

過酷旅チャレンジシリーズ 浜松〜名古屋〜京都〜大阪、自作デコチャリ「百均丸」で激走200km!

「新幹線移動のどこに情熱があるんすか?」。そんな意味不明の問いかけにより、奇抜な学生サークルを訪ねて浜松から関西へ! 移動手段がまさかのデコチャリに!

Day1
浜松→名古屋
<自転車>およそ100km

徹底した管理体制のもと出発!

「安全運転でお願いしますよ!」
 マスダ隊員が珍しく真剣な表情で言い放つ。当たり前である。デコチャリに乗って不慮の事故死など遂げてみろ、その“謎すぎる行為と状況”をどう家族に説明すると言うんだ。
 デコチャリ青年団の取材を終え、その足で京都を目指す。2日後には京都に到着していなくてはならない。冷静に考えるとかなりの強行スケジュールだ。
 もろもろ計算すると、初日は浜松から名古屋まで100㎞の道程を走り切らなくてはならないことになる。過酷だ。
 マスダ隊員と中嶋カメラマンはレンタカーで先回りして要所要所で待ち構えているらしい。要するにチェックポイントが設けられているのだ。万全の安全サポート体制だと言い張っているが、「時間ありませんから、途中で寄り道とかしないでくださいよ!」という発言からもわかるように、どうやら徹底した管理体制を敷いているようだ。浜名湖あたりを通るから鰻重でも…と計画していた俺の気持ちは、完全に見透かされているらしい。
 交通量の多い国道を避け、なるべく生活道路を選んで走り始める。この日は月曜日。通学途中の中学生の一団に交じりながら百均丸を漕いでいると、「何すか、何すか、コレ!」とみんな興味津々のようだ。「ゴメンな、おっさん自身も、これが何なのか理解してないんだよ」。

浜松市街から出発。山々に囲まれた県道を走る。通り過ぎるクルマが必ず減速して、「なんだあれ?」と確認作業をする。

浜名湖周辺で鰻でも…。その願いが叶うことは、やはりなかった。この日のうちに名古屋に着かなければならないのだ。

チェックポイントに隠された謎

 次なるチェックポイントがマスダ隊員から電話で指示される。峠を越えて浜名湖を過ぎ、豊橋市街に入った頃から、ある法則が浮かび上がってきた。どのチェックポイントも「史跡」なのである。そういえば、マスダ隊員は大の歴史好き。岡崎市のチェックポイントは岡崎城だった。まさかとは思ったが「なんで城なの?」と聞くと、「城、好きなんすよ」なる返答。
 こいつ、俺が必死こいて自転車を漕いでいるときに、史跡巡りしてやがる。
 名古屋市街まで24㎞に迫った豊明市では“桶狭間”を指定された。「何だよそれ?」と問いただすと、「え、知らないんすか?」ときた。知ってるよ。俺が聞いてるのは、何でルートを少しズラしてまで桶狭間に行かにゃならんのかってことだ。「あのですね、桶狭間で日本の歴史は動いたんですよ!」だってさ。これ以上の会話は時間の無駄だ。行くしかない。

豊橋市に入る前の本坂峠。長いトンネルの中で、ピカピカ光る『広告』ロゴは、不気味だったに違いない。ドライバーの皆様、すいません!

チェックポイントの岡崎城。俺の場合は、通り過ぎるのみである。俺の場合は、であるが。

桶狭間の古戦場跡に到着。LEDの電飾が、まるで亡霊のように俺を照らす。うん、確かに魂は抜けてたよ!

息も絶え絶え、名古屋に到着

 最後のチェックポイントは名古屋の繁華街、栄にあるホテルだ。「僕らはホテルにいるんで、着いたら連絡ください」。何だかどんどん俺に対する対応が杜撰になってきているような気がしてならない。
 名古屋市街に入ると、ネオンサインが賑やかになってきた。百均丸も保護色的に馴染むだろうと予想していたが、帰宅を急ぐビジネスマンがギョッとしてモーゼの十戒のように道を空ける。やっぱり突き抜けた違和感は払拭できないようだ。22時、やっとホテルに到着。

名古屋の繁華街に入り、満身創痍で歩くキハラ。ネオン街には同化できると思ったが、やっぱり、どーかしてる!!


Day2
名古屋→近江八幡→京都
<電車移動>およそ100km <自転車>およそ50km

空力を完全無視したフォルム。冷たい向かい風に悶絶! 夕暮れの琵琶湖大橋を激走する百均丸。

電車でショートカット
新幹線はNG

 2日目にして、このペースで行くと京都での取材日には絶対に間に合わないということになった。何だか“キハラさんの体力的に”というニュアンスでマスダ隊員は告げてくるのだが、行程に無理があることは火を見るよりも明らかである。何たって、この日のうちに京都入りを果たしていなくてはならないのだ。重いデコチャリを超人的な脚力で漕いで、ドリフト走行しながら走らない限り不可能な話だろう。
 新幹線は禁止されているため、在来線を利用して近江八幡まで駒を進める。一度組み立てた百均丸をバラして梱包し、背負っていかなくてはならない。マスダ隊員はレンタカーで先回りをするとのことだ。中嶋カメラマンと電車に乗り、近江八幡駅を目指す。史跡マニアのマスダ隊員に自慢するべく、関ケ原で途中下車してブラブラするものの、重い荷物を背負って歩き回るのは体力を消耗させるだけに終わってしまった。中嶋カメラマンも、俺と一定の距離を保ち、望遠レンズをカメラに付けて遠くの方から盗撮気味に撮影している。
 昼過ぎに近江八幡駅に到着。マスダ隊員を探すも、その姿が見えない。「おい、どこにいるんだ?」と電話をすると、「すいません、安土城に寄ってたら時間かかっちゃって!」などとヌカしてやがる。危うく携帯電話を握力で握り潰しそうになってしまった。

在来線を利用して近江八幡まで移動。「このまま京都まで行くってのどうだろ?」 と、心の中で考えている。

関ケ原駅で途中下車。史跡探訪を試みるも、荷物が重く、体力を消耗しただけであった。

百均丸を組み立てていると、「これで何がしたいの?」との地元民からの問い合わせ。すいません、わかりません!

逆風の琵琶湖湖畔で体力消耗

 悪戦苦闘しながら再び百均丸を組み立て、水郷としても有名な近江八幡の古い町並みを縫うように走りながら、琵琶湖湖畔に出る。この日はとにかく冷たい強風が、完全な向かい風となって吹きすさんでいた。空力を完全に無視した空気抵抗MAXフォルムの百均丸が恨めしい。全力で漕げども前進している気がしない。
「琵琶湖大橋の辺りにいますが、まだっすか?」とマスダ隊員から電話がかかってくるが、まだ6㎞くらいは距離がある。その旨を告げると、「じゃぁ、そろそろっすね」などと言っている。どこがだ。こっちはクルマじゃないんだ。自転車! しかもデコチャリ! 加えてTMレボリューションの西川貴教みたいな状況下にあるんだよ。必死に訴えるものの、既に電話は切られていた。体が疲れ切っている。琵琶湖大橋に着く頃には陽が沈むだろう。 
 でも、辛い中にも嬉しいことだってあった。湖畔沿いの道路を走っていると、何台かの大型トラックがプップッとクラクションを鳴らしてくる。危ないぞ! と注意しているのではなく、頑張れ! とエールを送ってくれているのだ。こっちも大きく手を振り返す。何だか心が温まる。風は強いわ、寒いわで泣きそうになるが、夕暮れで青とオレンジに染まる琵琶湖は美しい。何やってんだ俺? という虚無感の中にも「来てよかったな」という気持ちが芽生えてくる。

情緒溢れる古い町並みを台無しにしかねない奇抜なスタイル。一刻も早く、人目のない場所を走ろう。

人目のない農道を走っていたつもりが、まさかの通学路。下校途中の小学生から、「おかしいのが走ってる!」とゆびを指される。

風は強く、冷たいが、凛とした空気の中で、琵琶湖は美しい。

最後の峠越えに、一瞬の感動シーン

 琵琶湖大橋を渡り、大津市を過ぎると京都まではあと一歩だ。約50㎞の行程なのに100㎞くらい走っているかのような体力の消耗具合だ。しかし、京都市街地へ抜けるためには、最後の峠越えをしなくてはならない。選んだルートは街灯ひとつなく真っ暗だったため、後ろからマスダ隊員がクルマで徐行し、ヘッドライトで照らしてくれることになった。ゼェゼェと百均丸を手押しする俺の姿を見て、「キハラさーん、頑張って!」とマスダ隊員が声援を送ってくる。俺のひた向きな姿に、さすがに心が動かされたようだ。ま、峠を越えたらソッコーで、「じゃ、先にホテルに行ってますんで!」と走り去って行ったけれど。

最後の難関となる峠越え。マスダ隊員の感情が、一瞬だけ揺さぶられる。

出前じゃないんですよ! 取材に来たんです!

 山科の上り坂を過ぎると、京都市街地までずっと下り坂だ。漕がずして、グングンとスピードが上がっていく喜びに体を震わせながら、ゴール地点の三条大橋を目指す。
 眼下に広がる光り輝く京都の街並みを眺めながら、「こんなに大変で、こんなに素敵な京都訪問は初めてだな」と、珍しく感傷的な気分になってしまった。自転車を止めて、車体に張り巡らせたLEDの電飾をピカピカと光らせる。ちょっとしたパレード気分に浸るのだ。
 道行く人が「何やアレ!?」と驚きの声をあげる。背面で光り輝く『広告』ロゴを見ては、「広告? 何なの?」という困惑の反応だ。
 そうなんです。 『広告』という雑誌の取材で京都にやって来たんです! このゴテゴテでピカピカの自転車に乗って。意味わからないでしょ? そりゃそうです。とりあえずやってみたけれど、俺にだって何でやってるのかわからないんだから…。

やっとの思いで三条大橋へ。謎のガニ股ポーズは、単にお尻が痛いから自然とこうなっただけのこと。なにはともあれ、取材地・京都に到着! やっと、本編の取材ができる!

文:木原龍太郎 写真:中嶋久美子

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『広告』2018年 2月号 vol.409
特集「奇抜な情熱〜場外ファウルボールをかっとばせ!」

こちらよりご覧ください

※2018年1月19日発行 雑誌『広告』vol.409 特集「奇抜な情熱」より転載。記事内容はすべて発行当時のものです。



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