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これで日本のサッカーが変わる(杉本元編集長イチオシ記事)

Jリーグ チェアマン
川淵三郎氏インタビュー

日本のサッカー活性化にはプロ化しかない

── プロ化への経緯ということから、お話をうかがえればと思います。

川淵
 近年の日本のサッカーの状況というのは、大きく言って二つの問題を抱えていたわけです。一つは観客動員数が頭打ちだということ、もう一つは世界の檜舞台に出て行けないと言うことです。
 この二つの問題をどう打破するかということで、1988年3月に日本サッカーリーグの中に、第一次活性化委員会というのが設置されました。そこでいろいろ話し合った結論が、現状改革を進めながら、トップリーグを商業ベースによる事業化を志向した「スペシャル・リーグ」、つまりプロリーグにすることを検討していこうということだったわけです。

 そこで、同じ年の10月に第二次活性化委員会が作られ、プロ化するにはどうしたらいいかという検討に入りました。「現段階では環境が整っていない、プロ化は環境が整ってから進めるべきだ」という声もありました。確かに環境ということを言えば、サッカーをする少年の数が増えたということと、日本サッカーリーグでプロ契約している選手が約150人に増えたということくらいがプラス材料で、それ以外は整っていないのは事実です。しかし、何か手を打たなければならないし、そのためには、企業スポーツからの脱皮がどうしても必要だということになったわけです。企業から脱皮して地域社会の人が応援してくれるような地盤が出来ないと日本のサッカーは変わらない。
 そこで「こういう条件が揃ったらプロ化したいが、その時は参加しますか」ということで各チームに声をかけてみたら、非常にいい感触が返って来た。それに自信を得て、では正式に条件を設定して進もうということになったわけです。

 もちろん、その段階で相当な反対がありました。プロに行きたくないチームは今のまま日本サッカーリーグのトップでいた方がいいわけですし、お金のないチームはプロなんてどうなるか分からんものに投資は出来ない。そういう嵐の中を強行突破したという感じですね。

 プロ参加にあたっては、参加チームの法人化、フランチャイズ制の確立、1万5千人収容のナイター設備のあるスタジアムの確保、分担金の供出というようなことを条件として設定したわけですが、そうして前に進んでいくと、結構いい雰囲気が生まれてきました。1万5千人収容のナイター設備のある競技場なんてそうないわけですが、プロ化にあたっては是非それが必要だということで頑張ったら、各チームと自治体との協力のなかでそういうものが出来てきた。あるいは、将来はなるべくチーム名から企業名をはずしてほしいということを要望したら、現時点ですでに4チームが企業の名を入れない名称にしている。

 こういうことは、やはりプロ化ということを進めたから生まれたことですし、いま考えると社会のいろいろな変化のタイミングとうまくマッチしたということが言えるのではないでしょうか。自治体の理解、企業の社会貢献という意識の高まり、あるいは景気の動向など、いろいろの要素があって、いまより早くても遅くてもうまく行かなかったでしょうね。

準備の整った10チームでスタート

── ナイター設備のある競技場を確保するということは、プロリーグはナイターで行なわれるということでしょうか。

川淵
 そうです。ヨーロッパではウインタースポーツとして定着していますから、寒くてもお客さんが見に来てくれますが、日本ではそれでは無理です。初めてサッカーを見にきてくれたのに、寒いし芝は枯れているしでは二度と振り向いてもらえなくなります。ファンのことを思うなら、気候のいい時に緑あふれる芝生の上で、しかもナイターでというのが理想です。ナイター照明でやるとスピード感があるし、スタジアムが外界を遮蔽した舞台となって盛り上がる。舞台装置が良くないと、すばらしいゲームをしても、なかなかファンの胸を打つということにはなりませんからね。同時に新しい応援のスタイルやテレビ中継の形も工夫し、こちらからある程度仕掛けていく必要があるだろうと思っています。

── 
93年のスタートは10チームですが、その後チームが増えるということもあるわけでしょうか。

川淵
 ゆくゆくは16チームくらいにしたいと考えています。フランチャイズの問題、専用スタジアムの確保、観客動員、組織の整備などが整って、しかも実力的にもJ2、J1(日本リーグ2部、1部)というようなピラミッドの階段を踏んで上がってくれば、どんなチームでも参加できるというシステムになっています。
 93年にスタートして、95年には新規加入チームを検討することになるでしょう。16チームになるまでは増やすということで、入れ替え戦などで降格させるということは基本的にはしないつもりです。というのは、各チームともプロ化にあたって相当の投資をしているわけで、それですぐ落とされたら困るわけです。しかし、だからといって努力を怠ってもらっては困ります。観客動員が足りないような場合などは、リーグとして勧告するということになります。

プロ野球とはこことここが違う

── 団体競技のプロスポーツというと、わが国ではどうしてもプロ野球と比較して受けとられると思うのですが、その辺はどうお考えですか。

川淵
 プロとしてのリーグやチームの在り方、報酬や契約の形とかチームの経営というような面で、アメリカの大リーグを含めてプロ野球を研究させてもらっています。そういう意味でプロ野球はわれわれのいい先生といえます。
 野球とサッカーはファン層が違いますから、観客を奪い合うというようなことはあまりないと思います。試合の数でいっても、サッカーは野球と比べたら圧倒的に少ないですしね。野球に行かない人はたくさんいるわけで、そういう人たちに、野球とは違うスピーディーなスポーツがあるということを知ってもらうことによって、プロとして成功していく道があると思います。われわれとしては、サッカーというスポーツをまず知ってもらうということが大切で、サッカーの楽しみを知らない人は世の中にはまだまだ多い。サッカーをやっている子供の数は圧倒的に増えたけれど、大人を含めた数でいうとまだまだ少ないですからね。ですからこれから大いに可能性があるということがいえるわけです。

 違う競技ですし、歴史も違いますから、プロといってもいろいろな面での違いがあります。例えば給与体系などはその一例ですね。野球の場合は年俸制で、額が決まると、そのシーズン活躍しなくてもそれを貰えますが、サッカーの場合は基本給と能率給と勝利給の三つに給与が分かれています。基本給は試合に出なくても貰えますが、能率給は試合に出ないと貰えない。さらに勝利給は勝ったら貰えるというものです。ですから、試合に出ないと収入が増えないし、勝たないといけない。試合に出してもらうためには、まず普段一所懸命練習して監督にアピールする必要があるわけです。そういうことから、プロとしてのレベルが上がって面白いゲームが出来るようになるし、日本のサッカーのレベルも上がっていくことになります。

 今回、団体スポーツのプロ組織が野球に続いて50数年ぶりに出来たということで、プロというものがさらにいい方向に行く刺激になるのではないでしょうか。

スポーツ文化の基盤整備も目的

── 先ほど、舞台が大切だというお話が出ましたが、わが国では芝のグラウンドが圧倒的に少ないですね。サッカーに限らず、そういう環境が日本のスポーツを貧弱にしているという気もしますが。

川淵
 おっしゃる通りです。今回のわれわれのプロ化ということの中には、スポーツ文化の基盤整備ということに少しでもお役に立てればという目的もあるわけです。日本の土壌はヨーロッパとは違うし、芝の種類も違うので難しい面もあるのですが、ゴルフ場があんなに出来ているのですから、もっともっと芝のグラウンドが出来ていい。

 クラブハウスがあり、更衣室があり、ロッカーがあり、シャワールームがある。それではじめてスポーツ施設と言えるわけですが、日本にはそういう発想が根付いていませんね。少しでもそういう風潮に風穴を空けたいですね。芝の上でやればサッカーはさらにもっと面白いし、そうなればもっと人気も出ますよ。プロのチームが何面もの芝生のグラウンドを持って、地域の人に開放するというふうに出来たら素晴らしいですね。

 いま地方自治体はいろいろな面で熱心ですから、いいものが出来ると広がるのは早いと思います。ですから、今回のプロ化に向けて幾つかの新しいスタジアムが出来、幾つかが改修されるということの意味は大きいという気がします。良いものをつくれば必ずそれが波及していい結果を生む。まあ、そのためにもサッカーの経済基盤をしっかり固める必要があります。大胆なチャレンジ精神を持って、一歩一歩確実に進んでいきたいですね。


Jリーグ 事務局長
佐々木一樹氏インタビュー

今秋には、プロのカップ戦を開催

── 咋年11月、社団法人「日本プロサッカーリーグ(通称、Jリーグ)」としてスタートされたわけですが、これは財団法人「日本サッカー協会」の傘下の組織ということになるわけですね。

佐々木
 そうです。野球の場合には、プロと大学と社会人と高校の組織が別々に分かれていて、特にプロとアマはほとんど無関係ですね。それでよく誤解されるのですが、サッカーはタテ一本の組織です。これは国内だけでなく、世界が「国際サッカー連盟(FIFA)」を頂点にしたタテの組織になっています。一つの国には一つの協会しか認められていません。プロが誕生するからといって、新しい協会を作るということはないわけです。

── 
93年春の本格スタートまで、どのようなスケジュールで進むことになりますか。

佐々木
 いま日本サッカーリーグをやっていますが、これが終わるのが3月で、そこが一つの区切りになります。そして4月以降、それぞれのチームがプロとしての活動を開始することになります。まず選手の移籍が行なわれるでしょう。昨年もプロ化を目指してある程度の移籍が行なわれましたが、まだ日本サッカーリーグが1シーズン残っていましたので、選手のほうもそれを終わってから移籍を考えたいということがあったと思いますし、チームもそこで改めて補強を考えることになるでしょう。
 そして93年のスタートに向けて強化が始まるし、チームのイメージをファンにアピールしていくことになります。92年の1シーズンを空けたのは、「秋―冬」というシーズンから、「春―夏―秋」というシーズンに代える準備のためで、この間はカップ戦などプロリーグのいろいろなデモンストレーションを行なう予定です。カップ戦は9月、10月を予定していますが、その前に各チームとJリーグのPRを全国で展開したいと考えています。

ファンと一緒になってつくっていく

── Jリーグのスタートにあたって、ファンの意見を募集されましたが、その反応はいかがですか。

佐々木
 小学生から70代の方まで、驚くほど幅広い層の方々からご意見をいただきました。正真言って1000通も来るかどうかと心配していたのですが、3000通を越す手紙がきました。若い人はプロになるという夢が出来たと言うことで喜んでいますし、年配の方では夫婦で見に行く楽しみが出来たというようなものもありました。自分を賭ける夢が出来たということで、中、高生が一番強いインパクトで受け止めているようですね。

 われわれとしては、当初ゲームはプロ野球とバッティングしない金曜日の夜にするのが良いのではないかと考えていましたが、ファンの意見は、土曜日の夜が良いという声が圧倒的でしたね。土曜日にゲームを見て、日曜日は自分たちのチームでプレーするというのが良いというわけです。
 機会あるごとに、ファンの方たちの声を聞くということをしたいし、それをフィードバックするということには、今後も積極的に取り組んでいきたいですね。ファンと一緒にプロリーグを作っていくということです。

 サッカーファンは自分でプレーしている人も多いですし、海外の情報もたくさん知っている。日本のファンの目は外を向いているのが現状です。日本のサッカーは弱いし点が入らない、というイメージが定着していますから、まずそのイメージを変えていかないといけない。
 幸い、プロ化ということが刺激になったのか、今期は面白いゲームが多いし、マスコミの記者の人たちも面白くなったといってくれます。そして、それが本当のファンをグラウンドに呼ぶ役割を果たしています。

 相撲が若・貴、競馬が武豊の人気で活気づき、スポーツの人気が多様化している中にプロサッカーが出てきたので注目してもらえるということもあると思います。これから、より興味を持ってもらうためにいかに面白い情報をタイミング良く出していけるか、私たちも努力していくつもりです。

ユニフォーム、グッズも新しい発想で

── ユニフォームやキャラクターグッズは各チームが独自に作るというのではなく、リーグが統括する方式をとっているようですが。

佐々木
 ええ、ユニフォームはミズノに、10チーム一括してお願いしています。各チームばらばらに作ると、同じ色やデザインが出てきて調整が難しいという問題が出るので、それを避けようということです。
 キャラクターグッズなどのマーチャンダイジングはソニー・クリエイティブにお願いしていて、グレードの高いものを提案してもらうことになっています。最近はすべてに高級志向ですし、いいイメージをファンに与えることによってリーグのイメージも高まる。プロ野球のように個々にやっていたのでは、センスやグレードに差が出て来るおそれがありますからね。

 また、出来れば販売もリーグ全体のものを扱うショップを作って、10チームのものがどれでも買えるようにしたいですね。まず、全体のベースを作って、それに各チームの努力で上乗せしていくようにしたいと考えています。
 ばらばらにならないように、しかし、リーグがすべてを仕切るのではなく、それぞれが企業努力をして競争するというふうになっていく必要があると考えています。

撮影/小出信一

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  『広告』1992年1・2月号 vol.290
 特集「Jリーグ開幕へ、あと1年」
 ▶ こちらよりご覧ください

※1992年1月15日発行 雑誌『広告』vol.290 特集「Jリーグ開幕へ、あと1年」より転載。記事内容はすべて発行当時のものです。

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