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雑談『広告』全容と最後の挨拶

こんにちは。『広告』編集長の小野です。今月末で編集長を退任するので、これが編集長として最後の投稿になります。

去る6月9日〜18日に展覧会&トークイベント雑談『広告』を開催しました。

博報堂の会議室を会場とし、僕が編集長を務めた2019年〜2023年に刊行された『広告』の制作の裏側を展示するとともに、アーティストやデザイナー、哲学者や文化人類学者など総勢72名のゲストを迎えて10日間ほぼノンストップで全39回の「雑談」を行ないました。

事前登録なしで一般の方を博報堂社内に入れるというのは前例がなかったため、総務や広報、運営チームとの打ち合わせや懸念つぶしを重ねて臨みました。結果として、悪意ある来場者もおらず、怪我人、急病人も出ることなく、最後まで無事に開催することができました。

10日間の一般来場者は728名でした。
※社員の来場人数を除く。入館の際に来場者に署名いただいた誓約書の枚数で換算。一部来場者の重複あり。

「雑談」に参加いただいた皆さま、来場いただいた皆さま、制作・運営関係者の皆さま、ありがとうございました。

なぜ「雑談」だったのか

『広告』は、「いいものをつくる、とは何か?」を全体テーマとしていました。その動機は、ものをつくることの内側や周縁そして外側にある、歴史や思想、構造を学ぶことで、ものをつくることに向き合う自分自身の思考や態度を再構築したいというものでした。

自分を「第一読者」に据え、非常に自己中心的な動機で『広告』の制作を行なっていたのですが、今回の展覧会も同様の姿勢で企画しました。自分を「第一鑑賞者」としたとき、過去の号の制作過程を見せるだけだと、僕自身がすでに知っていることなので、感慨深さはあれどそこから得られるものはあまりないのではと思い、自分自身が何かを得られるとしたら何なのかと考えました。

「雑談」をメインとしたのは、記事や装丁、販売方法など『広告』における企画の背景には無数の「雑談」があり、そのなかで得られる予期せぬ視点や思わぬ発想こそが、いちばんの醍醐味だったからです。そしてこの企画も、この5年間苦楽をともにしたデザインチームとの「雑談」のなかから生まれました。

以下は雑談『広告』の会場に掲示した挨拶文です。

雑談『広告』

2019年のリニューアル創刊以来、「いいものをつくる、とは何か?」を全体テーマに据え、「価値」「著作」「流通」「虚実」「文化」と5つの特集号を刊行してきた雑誌『広告』。“視点のカタログ”を編集方針とし、論考や対談、インタビュー記事を編集するとともに、毎号、装丁や販売方法に工夫を凝らし、特集の入り口となる体験づくりを行なってきました。

こうした記事や装丁、販売方法などの企画の背景には、様々な領域の専門家や編集者、ライターやデザイナーたちとの数えきれない「雑談」がありました。

明確な目的地を目指して進むのではなく、「どこに行こう」と歩きながら考える。寄り道をしながら、進む方向を感覚的に決めていく。うっすらと目的地が見えてきたあとも、回り道をしたり、同じ道を何度もとおったり、あるいは目的地を変えたり。そんな「雑談」のなかには、ひとりでは決して出会うことのない発見があり、決してたどり着けない場所がありました。

この展覧会も「雑談」のなかから生まれた企画です。「雑談」そのものを目的とした展覧会。そもそも、「雑談」は何かを達成するためにするものではありません。たまたま、手段と目的が合わさることがある、そのくらいのものです。でも、それこそが「雑談」の魅力なのかもしれません。

本展覧会では、各号の背景にある「雑談」の痕跡を中心として制作の裏側を展示するとともに、様々な領域のゲストを迎えて10日間ほぼノンストップで「雑談」を行ないます。

参加するのは、アーティスト、映画監督、エンジニア、クリエイティブディレクター、劇作家、建築家、コピーライター、写真家、ジャーナリスト、デザイナー、哲学者、バイヤー、評論家、ブックコーディネーター、文化人類学者、文筆家、編集者、ライターなど総勢72名。

39の多種多様な「雑談」から生まれる、思わぬ視点の種を持ち帰っていただければ幸いです。


2023年6月 『広告』編集長 小野直紀

「雑談」を中心に据えた会場構成

会場構成は、2019年のリニューアル以降、毎号寄稿していただいた建築家の大野友資さんが率いるDOMINO ARCHITECTSにお願いしました。大野さんは記事制作の過程で最も多く「雑談」をした執筆者のひとりでもあります。

まず、博報堂の会議室が会場なので、システム天井やタイルカーペット、ホワイトボードやオフィス家具など、いわゆる一般的な会議室らしさを活かした会場構成にしようとなりました。「会議室」という記号をそのまま素材にしてしまおうという考えです。

そして展覧会の中心となる「雑談」スペースを、文字どおり会場の中心に配置し、僕が雑談や打ち合わせ、取材の過程で書き留めてきた大量のメモをシステム天井から吊るして内と外に境界をつくりました。

来場者を意識すると、「雑談」ではなく「講演」になってしまい、登壇者から本音や生煮えの言葉が出てきにくくなります。「雑談」だから話せることを最大限引き出したいという思いから、「雑談」に没入できる空気感を生み出そうと考えました。

来場者は、展示を見たり関連書籍を読んだりしながら、「雑談」をラジオのように漏れ聞いたり、メモ用紙の隙間から登壇者の話す様子を伺ったりしていました。

雑談『広告』の来場者アンケートとプレゼント

5月24日に100部限定で発売し、1日待たずに完売した『広告』全号セット(収納BOX付き)。雑談『広告』では、この全号セットを100名さまにプレゼントする特別企画も行なっていました。販売用100部、プレゼント用100部、関係者用および予備28部の計228部の限定品です。

最終的に365名の方からアンケートの回答とプレゼント応募をいただきました。当選者には編集部より随時連絡を差し上げます。

アンケート結果のダイジェストは以下です。

質問)本展覧会についてどう感じましたか?

とてもよかった   69.1%
よかった      28.2%
どちらでもない   2.8%
よくなかった    0%
とてもよくなかった 0%

質問)本展覧会のよかった点をお聞かせください。

全体のレイアウトが工夫されていた点。特に、話し手を囲む紙のカーテンが、話し手と聞き手の間に絶妙な距離感を生み出していて見事だった。(20代・女性)

雑誌『広告』が出来るまでの設計のプロセスが、一つの会議室に埋め尽くされていることが非常に興味深かったです。 また、対談という形式を取りながら、その根本にある「雑談」であることが全面化していることが面白かったです。(20代・男性)

会議室を展示会場にする空間の作り方、大量のメモを壁にする手法が納得感ありすごく良かったです。雑談ブースはステージ状のものを想像していたのですが、ある程度覆われていることで聴く側としても気楽に聴けて、話している方も自然に雑談できる環境づくりが整っていて良かったです。(30代・女性)

作家同士のプライベートな会話を盗み聞きしているような感覚でかなり踏み込んだ内容まで話されていたのが面白かったです。(20代・男性)

編集長のA4メモからいいものをつくるという熱量が伝わってきて印象的でした。インターネット以後の紙媒体の雑誌はいかにして手に取られ、拡散され議論されるのかを、それぞれの特集の仕掛け作りから伺い知ることができる展示だと思いました。また雑誌のコアが雑談であるというコンセプトが会場の形に現れていてユニークで面白かったです。(30代・男性)

以上、特徴的な5つを抽出

質問)本展覧会のよくなかった点をお聞かせください。

雑談感が否めなかった。視聴者を置き去りにしている感があった。(20代・男性)

展示物をもっと見たかったが、聴講してる方々がいて歩き回りづらかったので、分けて頂けたらありがたかったです。(20代・男性)

トークイベントがオンライン配信されていなかったこと。後日、配信されるようですが、せっかく期間中にさまざまな意見交換がされているのであれば、現実と同時進行で場所を問わず聞くことができたらよかったなと思います。(20代・女性)

登壇者の方の表情を汲み取りにくい設計なのと、椅子が硬かったので長居し辛い点は気になりました。(30代・男性)

雑誌「広告」にある程度の興味がないと、展示は自己満足的な思い出振り返りコンテンツに映ってしまうように思いました。それもまた広告業界らしさかもしれませんが…!(30代・男性)

以上、特徴的な5つを抽出

年齢

10代 3.6%
20代 54.1%
30代 24%
40代 12.2%
50代 4.7%
60代 1.4%

性別

女性    43.1%
男性    52.8%
その他   1.1%
回答しない 3%

「雑談」をポッドキャストで配信します

本日より雑談『広告』で行なわれた「雑談」のポッドキャストでの配信を開始します。配信するのは、全39回の「雑談」のうち登壇者の許諾がとれた36回分。本日から週に2回程度のペースで配信予定です。

「雑談」の空気感をそのままお届けするため、編集は最小限としています。また、「雑談」の性質上、テーマと内容が異なる場合があり、内輪的な内容や不確かな内容も含まれます。一部エピソードは収録機材の設定の誤りにより音声にノイズが入っています。ご了承のうえお聴きください。

Spotify、Amazon Music、Apple Podcast、Google Podcastsで公開します。プラットフォームにより配信タイミングがずれる場合があります。

雑談『広告』ポッドキャスト 公開スケジュール

6月29日 猪谷 誠一/竹内 郁雄  不透明な道具
7月4日 山本 友理/refeia/robamoto  AIと絵師界隈のいま
7月6日 嘉島 唯/佐々木 敦  ネット時代のアウラとは
7月11日 つやちゃん/照沼 健太  J-POPの世界進出
7月13日 大野 友資/片野 晃輔/香田 悠真  散歩
7月18日 枝 優花/マール コウサカ/脇田 あすか  何のためにつくるのか
7月20日 浅子 佳英/原田 裕規  書くこと、編むこと、つくること
7月25日 水野 祐  ルールをつくる、変える
7月27日 小杉 幸一/牧 寿次郎  デザイン
8月1日 清水 高志  東洋思想と「つくること」の接点
8月3日 柴田 文江/土田 貴宏  「オリジナル」とは
8月8日 大野 友資/武井 祥平  専門性の中心と周縁
8月10日 TAKT PROJECT/we+/YOY/角尾 舞  実用の外側にあるデザイン
8月15日 奥田 透也/荒牧 悠/田中 偉一郎  意味とか無意味とか
8月17日 eri/村山 佳奈女  サステナビリティの実践と可能性
8月22日 九法 崇雄/佐々木 康裕  「ソーシャル」の意味を問い直す
8月24日 立石 従寛/陳暁 夏代  異なる価値観を行き来する
8月29日 永井 玲衣/和田 夏美  主体性と媒介性
8月31日 岩佐 琢磨  メタバース
9月5日 森山 茜  続けることについて
9月7日 塩谷 舞  書くことについて
9月12日 矢後 直規  自分を真ん中に持つこと
9月14日 細川 美和子/本谷 有希子  「ことば」と「つくる」
9月19日 内沼 晋太郎/山田 遊  選ぶ、届ける、場をつくる
9月21日 嶋 浩一郎  メディア
9月26日 西村 勇哉  続・役に立たないと、いま決めてはいけない
9月28日 尾上 永晃/河尻 亨一/関戸 貴美子  広告のいいところ
10月3日 上西 祐理/松島 倫明  未来に向き合うことの意味
10月5日 加瀬 透/酒井 瑛作/築山 礁太/村田 啓  光と画面から少し離れてみる
10月10日 緒方 壽人/渡邉 康太郎  ひとつだけつくるとしたら
10月12日 松村 圭一郎  価値、文化、人間
10月17日 上西 祐理/加瀬 透/牧 寿次郎  『広告』反省会
10月19日 岡崎 智弘  本能と欲動
10月24日 木田 隆子/佐野 文彦  世界と日本
10月26日 大垣 昌夫  経済と倫理

最後に

『広告』の編集長をやらないかと、役員から電話があったのは、2018年6月。そこから丸5年、『広告』の制作に全力を投じてきました。冒頭でも書きましたが、(上記のポッドキャストの配信や『広告』文化特集号のnote全文公開などいくつかの残作業はあるのですが)今月末で編集長を退任します。

僕の後任はまだ決まっていないそうなのですが、雑誌『広告』が続くことは決まっています。1948年から続く『広告』。いち読者・いち社員として次の展開が楽しみです。

また、「雑談」のなかで「次は何するの?」と聞かれることが多かったのですが、今後のことは未定です。会社の上層部には、何をするのか考える時間をくださいと伝えています。

この5年で142記事を編集してきたのですが、すべて消化するには、もう少し時間がかかりそうです。同時に、142記事を俯瞰することで、そこから漏れているものが見えてきました。そこが新たな興味の対象になるかもしれません。

この5年間が何につながるのか、自分でもまだわからないですが、とても楽しみです。ひとまず気の向くままに、お世話になった書店にまわりながら、今後のことを考えようと思います。(先週末から今週にかけて大阪の独立系書店を回ってきました。)

制作関係者の皆さま、読者の皆さま、ご協力いただいた皆さま、5年間ありがとうございました。また何かの機会でお目にかかれれば幸いです。


『広告』編集長 小野直紀

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雑誌『広告』
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