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広告、雑誌、デザインのこれから

アートディレクター 上西祐理 × 編集者 河尻亨一 ×『広告』編集長 小野直紀
『広告』リニューアル創刊記念イベントレポート

雑誌『広告』リニューアル創刊を記念して開催された、編集長・小野直紀によるトークイベント。今回は、8月6日に本屋 B&Bにて行われたアートディレクター・上西祐里さん、編集者・河尻亨一さんとのトークをお届けします。河尻さんに司会進行役となっていただき、それぞれの立場から見た雑誌『広告』について、また広告・雑誌・デザイン業界が抱える課題や未来へについて語り合いました。

答えではなく、あくまで視点を集めるのが目的

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河尻:さっそくなんですが、リニューアルした雑誌『広告』の全体テーマ「いいものをつくる、とは何か?」についてお聞きしたいと思います。小野さん、これはどういうところから生まれたんですか?

小野:僕は普段、雑誌や本をあまり読まないこともあって、編集長になったもののどうしようというところから始まりました。そして社内のいろんな人の話を聞くなかで、「好きなことをやれ」「博報堂を背負う必要はないぞ」と言ってもらえたんですね。じゃあ、自分の好きなことをテーマにしようと。

河尻:それを聞くとすごくいい会社に思えるね(笑)。

小野:わりとそうなんです(笑)。
僕は学生時代に建築を、博報堂に入ってからは空間デザイン、コピーライティング、プロダクト開発など、いろんな形でものづくりをしてきたんですが、そのなかで「いいものをつくろう」という思いはシンプルに貫いてきたつもりでした。
でも、いいものとは何か? いいものをつくるとはどういうことなのか? という根本的なことは考えてこなかったんじゃないかと気づいて、この雑誌『広告』をとおして「いいものをつくる、とは何か?」というテーマに向き合うことにしました。

河尻:何を持って「いいもの」とするのかは、つくる人によっても違うし、受け取る人によっても様々だから、テーマに掲げるのは難しい。あえてそれを探っていくということですね。
巻頭メッセージに「『視点のカタログ』としてリニューアルします」と書いてあって、それもおもしろいなと思ったんですが。

小野:みなさん、それぞれに「いいものとはこういうものだ」というのはあると思うんです。でもそれを紹介するだけでは単なる答え集めになってしまって、あんまり意味がないなと。あくまで、「いいものをつくる、とは何か?」を考える視点を集めたかったんです。様々な視点を得ることが、つくり手としての自分の伸びしろになるんじゃないかと思って。

河尻:では、自分のためにつくっていると?

小野:ほんとすみません、そうなんです(笑)。自分を一読者としてますし、たとえば河尻さんとつくる記事なら、河尻さんと僕がモヤモヤしていることを探っていくというやり方でつくりました。

河尻:僕もリニューアル創刊号で「『新しい』はもう古い?」という広告のクリエイティブに関する記事を書かせていただいたんですが、珍しいのが、記事をつくるために小野さんと3回打ち合わせをしているんです。
広告をつくる場合は打ち合わせが3回って少ないかもしれない。でも、雑誌に記事を1本載せるために3回打ち合わせをするというのは、自分はあんまり経験したことないかな。それも書く内容というより、「視点をどこに置くか?」あるいは「どういった文脈をつくるか?」という話題が中心で、自分としてはそっちのほうがおもしろかった。編集者感覚で参加できますからね。

小野:そうなんですね。人によっては10回以上打ち合わせをした記事もありました。

河尻:あと気になったのは、執筆陣の誌面における扱いのぞんざいさ(笑)。目次に誰が書いた記事か一切載っていないの。記事のページには名前とかプロフィールが載ってはいるんだけど、それも小さくてわかりづらいじゃないですか。でも、かなり著名な人も書いてるよね。それも何か狙いがあるんだろうか?

小野:目次に執筆者の名前を入れなかったのは、いろんな視点を全部フラットに並べて、そのなかで興味を持ったものを読んでほしかったからです。そうして選んだ先に自分の好きな人の記事があったら、それはそれで喜びじゃないですか。すっぱりと均一に扱う方が「価値」という特集ともあっているんじゃないかと思ったんです。

デザインチームと議論した、
リニューアル創刊号の「あり方」

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河尻:上西さんにもお話を伺いたい。今回のリニューアル創刊号は、コンセプトも一緒に考えられたとか。

上西:デザインの打ち合わせを始めた当初は、「ものづくり」を主軸に扱いたいという小野さんの思いが漠然とある状態で、ほかはあまり決まっていなかった。でも雑誌って内容ありきじゃないですか。だからデザインを考えるためにも、まずはどんなメッセージを、毎号どんな特集やテーマをとおして伝えていくのかを話し合いました。

小野:今回は上西さんのほかに牧寿次郎さん、加瀬透さんというデザイナーにも参加いただいているんですが、毎週のように4人で打ち合わせをして。

上西:広告業界の方はわかると思うんですが、広告をつくる場合、アートディレクターが1人いて、その下にデザイナーがいるという体制が多いんです。でも私はそういう形に疑問があったし、そもそも「広告」「デザイン」という業界の垣根も嫌だった。だからあえて、広告ではなくグラフィックデザインを主軸にしている牧さんと加瀬さんに声をかけました。その方が雑誌『広告』にも新しい視点がもたらされると思って。
ふたりは私と同世代だし、すごく尊敬できるデザイナーだし、3人の関係は完全にフラット。雑誌のデザインや仕様、書体においてもすべて3人の合意が取れてから進めるようにしていたので、時間はすごくかかりましたね。

小野:書体を決めるだけで3カ月かかったりね(笑)。

上西:そもそも、牧さんと加瀬さんは「『広告』という名前の雑誌なのに、ものづくりがテーマってどうなの? 広告とものづくりって離れてない?」と言っていたんですよ。
広告業界にいる私や小野さんからすると、解釈によっては含むこともできるのではとも思いましたが、ふたりにはしっくりこなかった。だからもっと広告という雑誌名と関わりあう内容じゃないと「なんなんだ?」と戸惑う人もいるんじゃないかという話になりました。もっと「広告」にアプローチしていかないと誠実じゃないのではないかと。

そうして議論を重ね、広告にまつわる特集テーマでいこうとなり、「価値」というキーワードも出てきました。考えれば、広告業界で行われているブランディングもマーケティングもクリエイティブも“価値づくり”に関わるものじゃないですか。だから「価値」というのは、『広告』という雑誌名とも「いいものをつくる、とは何か?」という全体テーマとも結びつくし、「ものづくり」と「広告」の間もつなげられる、すごくふさわしい特集だと思いました。

河尻:うん、なかなかストイックな特集ですよね。そしてストイックな値段。「価値」というテーマの骨格が、デザインからも”見える”つくりになっている。

小野:ものをつくるなかで、値段をつけるってすごく重要な要素なんですよね。だから今回も雑誌をつくるうえで、値決めにちゃんと向き合おうと思ったんです。そして『広告』は儲けなくていい雑誌なので、自由に値段がつけられる。

河尻:広報誌的な存在でもありますからね。以前から雑誌らしい値段はついていたけど、本当は無料でもいいという世界ですよね。

小野:そうなんです。儲けなくていいなら価格って何のためにあるんだろうと。価格は“お金を出してものを買うためのもの”とするならば、特集である「価値」について考える入り口になるような価格にできないかと思って1円にたどり着きました。それこそ最初は無料にしようと思ったんですが、無料だと「買う」という体験にならないなと思ってやめました。
これはデザイナーチームと話していて決まったことでもあります。

1円の雑誌をいかに実現したのか

上西:価格も仕様も全部自由にしてよくて、利益を出さなくていい。じゃあこの雑誌『広告』の雑誌としての存在価値ってなんろう? という議論もずっとあったので、「価値」というテーマにいきついたとき、価値があるかないのか、わからないようなものがいいんじゃないかという話になりました。
分厚くて価値がありそうなのに価格が1円という、違和感のある存在にするのが「価値」を考える入り口になるんじゃないかと。

河尻:話題づくりのために戦略的に1円でいきましょうとなったわけじゃないんだ。

小野:雑誌『広告』のプロモーション企画として出てきたのではなくて、ずっと議論しながら生まれた案なんです。まず「価値」の特集だし価値がありそうに見えるように分厚くしようという話があって、そう決まってから、僕は必死で記事を増やしました。

河尻:そこはさすがプロダクトデザイナーだと思います。普通の雑誌づくりからはあまり出てこない発想だよね。

小野:分厚いって何cm?……3cm!? みたいな。そのころには記事はある程度できていたけど、やばい、全然足りない! と焦りましたね(笑)。

河尻:僕も雑誌をつくっていましたけど、そういうつくり方は珍しいと思います。「厚みを何㎝にしよう」というのは、少なくとも自分には思いもよらないやり方で。その発想はなかった(笑)。

小野:1円という価格で本当に売っていいのかという不安もあったので、関係各所にヒアリングをしました。普通、雑誌って取次会社をとおして全国に配られるんですが、それだと手数料などの関係で1円という価格は難しいんです。
取次会社さんや日本雑誌協会の会長さんにも相談しに行って、興味は持ってもらえたんですが、すぐにはできないし、書店にも迷惑がかかるから厳しいと思うと言われて。なので今回は取次会社をとおさず、ゼロから自分たちで取り扱ってくれる書店さんを探しました。

河尻:それは時間かかるね。

小野:専任のチームをつくって、誌面づくりをしている裏側でそうした販路開拓もやっていました。

上西:小野さんって無理そうなことがあっても、なんでも粘って、結果的に「大丈夫だったよ〜」とか言いながら打ち合わせに来るんですよ(笑)。

河尻:それは何? どういうこと?

小野:ダメそうでも1回やってみる、というのが僕の基本姿勢としてあるんです。価格を1円にすることも、書店さんからふざけるなと言われるかなと思ったんですが、ヒアリングしてみると意外に肯定的な意見が多かった。違和感はあるけどやってみましょうとか。1円で売るという是非も含めて議論したいなと思っていたので、そこはまずトライしたかった。

河尻:そもそもなんだけど、電通の上西さんが博報堂の雑誌のデザインをするって、どういうきっかけだったんですか?

小野:もともと仲はよかったんですが、去年、ちょうど僕が『広告』の編集長に決まって、どういうものにしようと考えているときにカンヌ(カンヌ国際クリエイティビティフェスティバル)で会ったんですね。
そして夜に飲んでいるときに「デザイナーを誰にしようか悩んでいるんだよね」と話していたら、上西さんから「え? 私やろうか?」と言われて(笑)。あ、その考えはなかった、そいうこともありなのかなと思って、日本に帰ってから社内で話してみました。

これまでも社外のデザイナーが参加するケースはあったけど、「電通の方なんですが」と言ったら、さすがにダメと言われて。でも、1回ダメと言われたくらいでは僕は引き下がらないので「なんでダメなんですかね?」と、言い続けていたら、『広告』の発行人でもある広報室長から、とても丁寧な「難しいです」という内容のメールがきました(笑)。
それでも1回会って話したくて、手紙を書いて会いにいったら「こういう風に言われたら応援せざるを得ない」とOKをもらえたんです。

その手紙に書いたのは、ぜひ上西さんとやりたいということ。『広告』という名前の雑誌なんだから、広告業界が変わりつつあるいま競合にとらわれる必要はないんじゃないかということ。常識や慣習ではなくて、メリットデメリットで考えて欲しいということ。
そしてメリットには、博報堂の懐の深さを感じてもらえるとか広告業界への刺激になるんじゃないかとかいろいろ書いて。「デメリットはひとつだけです、常識や慣習に囚われている人たちからの反発」と書きました。そうしたら応援してくれることになって。それから社長にも話してOKをもらって、社内はとおりました。

そうして話を進めているなか、上西さんが「私、8月から1カ月シルクロードに行くから、それまでに決まらなかったらこの話はなしにしよう」って言い出して(笑)。

上西:もともと8〜9月まで休みを取ってひとり旅をする予定で、最初は3月に雑誌が出る予定だったから、準備期間を考えると間に合わないなと思って(笑)。

小野:それが7月の半ばくらいだったかな。それから電通の方にも手紙を書きました。

上西:私もやりたいという思いを手紙にして、面談をしました。そして、快くOKをしてもらいました。最終的に決まったのはシルクロードに行く前日。

河尻:失礼ですけど、小野さんってしつこいよね(笑)。上西さんも、そうだと推察します。それでお聞きしたいんだけど、やりたいことを実現するにはどうしたらいいんだろう? 小野さんのやり方はいま聞いてだいたいわかったけど、上西さんの場合はどうしているんですか?

上西:ひたすら諦めないですね、私が納得する理由が返ってくるまでは。必要ないと思ったことは引くんですけど、絶対やった方がいいということは諦めずに、ずっと熱く「こうしたほうがいい」と言っています。
雑誌でも広告でもなんでも、ものをつくるのって時間がかかるじゃないですか。仕事だって人生のすごい時間を占めているのに、ちょっとした妥協で完成度が下がったりする。「こうしたらよかったのに」という要素を残すと、死ぬまで後悔すると思うんです。だから面倒くさいなと思っても、いまここで言っておかないと! と思ってずっと言っています。

河尻:「いいもの」をつくっている方には、1,000人レベルでインタビューしてきているんですが、みんなそれをそれぞれの言葉で言いますね。「いいもの」をつくるには諦めないこと。異常なくらいの執念で。それだけじゃないかなという気もするくらい。いい意味で”狂ってる”わけです。

「価値」のゆらぎをデザインに落とし込む

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河尻:今回の『広告』って”独特の読みやすさ”があるよね。レイアウトや文字組も個人的には生理的に入りやすかった。僕は風呂入りながら読んだんですけど、ヘタれるといい味出てくるんですよ。
何なんだろう? この「ボロボロにしてーっ!」みたいな感じ(笑)。ペラッとしたシルバーの表紙もおもしろい。文字組みや表紙とかのデザインはどうやって決めていったんだろう?

小野:デザインに関しては完全にデザイナーチームに任せていて、僕は基本的に、予算は大丈夫かな? という心配をしていました(笑)。

上西:「価値」というテーマがようやく決まって、じゃあ小さくて厚みがあって固まり感があるものにしよう、それは何ページ? 大きさは? とかひたすら検証とディスカッションをみんなで重ね、そこからは予算とのやりくりも入ってきて大変でした。紙代が一番かかるから、紙は一番安いのにしようとか、そういうところから紙が決まって。

河尻:紙はそんなに安っぽい感じはしないけど、安いの?

上西:安いです。雑誌で使われる最安の紙はコート紙だったのですが、コート紙だと重くなるし、手触りも違うんじゃないかとなっていたところ、薄くて安いクリアバルキーという紙を印刷会社の方に提案してもらって決めました。結果、どっしりとした厚みがあるのに使っているのはペラペラの紙、というのも、特集である「価値」のゆらぎみたいなものを表現できていいんじゃないかと。
あとは、ページ数を増やすという目的と読みやすさも合わせて、文字を入れるのは右ページだけになりました。文字も読みやすいように大きめにして。

小野:文字を片ページだけに入れるというのは僕もすごく共感しました。僕は文字量が多い本ってあまり読めないんですよ。でもウェブだと1万字とか普通に読める。何が違うんだろう? と。それは同時に目に入ってくる文字の量なんですよね。それが少ないと読める。

河尻:そう言われると今回の『広告』って、スマホとかタブレットみたいな感じにも見えますね。

小野:僕のなかでもともと、雑誌とウェブの間のようなものにしたいなという思いもあって、そういうあり方を探してみようと。

河尻:そこはうまくいっている気がする。それが”独特の読みやすさ”につながるところかも。いまの時代「ネットっぽく書くか、紙っぽく書くか?」は我々意外と悩むところですけど、真ん中があるんですね。自分は自分なりに、その”真ん中”を試してはいるつもりなので、共感できる話です。

上西:みんながスマホの縦スクロールで読むことに慣れているなか、雑誌はページを左右にめくるじゃないですか。でも文字を右ページだけに配置すれば視線を動かさずに読める。あとは写真や図を見開きか左ページにしか入れない制限を設けることで、3人のデザイナーがつくってもデザインにバラつきが出ないようにしたんです。

「視点のカタログ」ということにも通じるんですけど、小野さんが話を聞きたい人がいろんなジャンルにまたがっていて、記事がいっぱいあるけれど、それぞれの記事につながりはない。そういうフラットに視点を集めている雑誌だから、デザイナーも各記事ごとに個性を出すよりは、フォーマッティブなデザインにした方がまとまるんじゃないかとなりました。
デザイナーがデザインしました! みたいな感じがそんなに出ないようにしたというか。

河尻:この背もおもしろいですよね。糊が見えている感じ。

上西:PURという加工です。ページの開きをよくしたかったので、それはPUR製本だねと。そして背表紙の糊はそのまま見せたいねと。普通のくるみ製本だと、背表紙にも表紙と裏表紙と同じ紙が巻かれるんですけど、これは一度つけた表紙を剥がして、糊が見える状態にしています。そこは凝った部分ですね。
あとは小口を削っています。これは予算との戦いでしたけど(笑)。めくりやすく手なじみがいいように、ギザギザにしているんです。

小野:天地の切り口とめくる側の切り口を比べるとわかると思うんですけど、手ざわりが全然違います。プロダクトとしてもその質感の違いはおもしろかったんですが、結構コストがかかるので迷っていたら、印刷会社の方も「ぜひやった方がいいと思うので製本現場に交渉します」と言ってくださったりして。みんな一丸となってそれをやりたかったという。

上西:めくりやすさとか肌馴染みが圧倒的によかったです。

広告、雑誌、デザインはどこへ向かうのか?

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河尻:最後に今日の本題をもう少し深めていけたらと思います。
「広告、雑誌、デザインのこれから」と投げかけられているんですけど、おふたりはどう考えていらっしゃいますか?

小野:僕はどれも“ちょい噛み”なんですよね。もともと空間デザインをやっていたし、そのあと何年かコピーライターをやって、そしてプロダクトをつくるようになって。
今回、編集長となって雑誌をつくりましたけど、いろんなことを少しずつやってきて感じるのは、すべてはつながっているということ。僕がデザインという言葉を使わず「ものづくり」と言っているのは、売ることも届けることもものづくりだし、広告も交渉もフィードバックもものづくりだと思っているからです。
雑誌も広告もデザインも、これから変わっていかなきゃいけない業界ですよね。そのときに、業界の慣習に縛られない姿勢が大事なんじゃないかと思います。

上西:私は最近、「デザイン」という言葉がすごい嫌なんです。意味というより使われ方が。
私はアートディレクター/グラフィックデザイナーという肩書きなんですが、いまは仕事でもいろんなことをやるし、むしろ考えなきゃいけない領域は広がっている。つくり出しているものが「図象」なのか「メッセージ」なのか、「物」なのか「思想」なのか。それは価値があるのかないのか。いろいろ悩ましいんです。
楽しいしやりがいも感じているんですけど、やっぱり世の中における「デザイン」という言葉の受け取られ方との乖離を感じる。難しいと思います。

河尻:僕もあまり「広告」という言葉を使いたくないんですけど、記事を書いたり、こういう場所でお話するときには「広告」と呼ばざるをえない。じゃないと、何の話をしているか、お客さんにわからなくなってしまうので。変に頑張って「ブランドコミュニケーション」とか言ってもね(笑)。

ただ、激しくそう思っていたのは実はもう7〜8年前のことで、いまもその気持ちがないわけではないけど、いまはむしろ「『広告』でいいんじゃね?」という気もしてきている。なかなか複雑なんです、この言葉の問題。言葉はものごとの在り方を決定してしまうので、ときには慎重、ときには大胆にやっていかざるをえないわけですけど。

上西:わかります。過度に新しく言おうとしても混乱するだけですよね。「広告」と「デザイン」って言葉は違うけど、課題に対してイメージを視覚化して定着していくということは同じ。どっちも結局、商業ベースだし。
でも最近感じている「デザイン」の嫌さは、使われ方が広すぎて崩壊しているというか、有象無象すぎて、嫌だなと。デザイン賞の審査員をやることも多いから、「これもあれもデザインなの? どう評価すればいいの?」みたいなことを感じる機会が多いんです。

河尻:ネーミングが混乱した状態だと難しいよね。

上西:ちゃんと言葉の概念を認識してもらったほうが、適材適所でうまくいくのではと。それに、デザイナーにしかできないことって、もっとあると思うんです。

河尻:雑誌『広告』で言葉の概念について取り上げてくださいよ(笑)。

小野:(笑)。

河尻:そんな宿題を残しながらですが、本日はこれで締めさせていただきます。ありがとうございました。

文:飯田菜々子

上西 祐理(うえにし ゆり)
アートディレクター/ グラフィックデザイナー。1987 年生まれ。東京都出身。2010 年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業、同年電通入社、現 在第 5CRP 局勤務。今までの仕事に、世界卓球 2015 ポスター(テレビ東京)、LAFORET GRAND BAZAR SUMMER 2018, 2019(Laforet HARAJUKU)、FUTURE-EXPERIMENT.JP(NTTドコモ)など。主な受賞歴:東京 ADC 賞、 JAGDA 新人賞、CANNES LIONS 金賞など。趣味は旅と雪山登山。旅は現在 40 カ国達成。
河尻 亨一(かわじり こういち)
編集者。1974年大阪市生まれ。雑誌「広告批評」をへて現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰。仕事旅行社ほか企業コミュニケーションのディレクションも。伝説の日本人デザイナー・石岡瑛子の伝記「TIMELESS」をウェブ連載中(http://eiko-timeless.com/)、2020年の書籍化決定。翻訳書に『Creative Superpowers』(左右社)がある。東北芸術工科大学客員教授。

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10 「新しい」はもう古い? 〜 広告クリエイティブの“ねじれ”に時代を見る
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