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34 著作とオリジナリティ 〜 作詞家 いしわたり淳治 × 『広告』編集長 小野直紀

SUPERCARのメンバーとして音楽活動をスタートし、現在は人気の作詞家として幅広いジャンルや年代のアーティストに歌詞を提供しているいしわたり淳治氏。誰もが使うことができる「言葉」というツールを、いかにして自身の「武器」に昇華させているのか。オリジナリティはどこからやってくるのか。そして、作家性と商業性の比重とは。累計600曲以上の楽曲制作をとおして培った作品づくりの思想や態度に、本誌編集長の小野直紀が迫る。

「誰かに似たくない」とかあまり考えたことがない

小野:今回いしわたりさんに対談をお願いした理由は大きくふたつあります。まず、「言葉」を武器に活動されているということ。僕自身コピーライターをやっていたこともあるので、誰もが使える「言葉」による表現のおもしろさと難しさを感じています。そこで、対談の主題である「オリジナリティ」について、言葉を切り口にお話をお聞きしたいと考えました。

それから、いしわたりさんはもともとSUPERCARというどちらかと言えばオルタナティブな立ち位置のバンドで活動されていたのに対して、現在はSuperfly、Little Glee Monsterなど、よりメインストリーム向けの楽曲を多く手がけられていますよね。そういったキャリアをとおして、「作家性と商業性の比重」についてもご意見を伺えればと思っています。

いしわたり:わかりました。よろしくお願いします。

小野:最初にSUPERCAR時代のことを少しお聞きしたいのですが、作詞家として活動されている現在とバンドに所属していた当時を比べたときに、ご自身の意識においてもっとも変わったのはどういった点だと思いますか?

いしわたり:確かにバンドでデビューした当時といまとでは活動の形態も違いますし、自分自身についてもスキルとかの差はあると思うんですけど……根本的にやっていることは変わらないとも言えるんですよね。SUPERCARは分業制で、メロディをつくるメンバーが別にいました。僕は出てきたメロディに対して「こんなメロディで、男女のこういう歌い分けなのか。じゃあどういう言葉をはめるとおもしろいかな」ということを考えていただけで。いまはいろいろなアーティストに歌詞を提供したり、あるいはアーティストが書いた歌詞をいっしょにブラッシュアップしたりしていますが、やっていることは同じだと自分では思っています。

小野:SUPERCARが音楽シーンに登場した1990年代後半は、「歌う人が歌詞を書く」ことがいま以上に重要と思われていた印象があります。また、SUPERCARと同じく「ロックシーンの新星」として当時名前を挙げられることの多かったくるりやNUMBER GIRLも、それぞれボーカルを担当するメンバーが作詞作曲を手がけていました。そんな状況において、「分業」で音楽をつくっていたSUPERCARのスタンスは異色でしたよね。

いしわたり:それもとくに意識してそうなったわけではないんですよね。「それぞれが得意なことをやろう」というところから自然とその形になっただけで。そのやり方しか知らなかったから、「ほかの人たちと比べてどうか」みたいな発想がなかったです。僕たちは最初ミュージックビデオも自分たちでつくってたし、デビュー盤はCDの帯の文章まで僕が書いていたので(笑)。音楽のつくり方だけじゃなくて、チーム全体のあり方が確かにちょっと変わっていたなといまになってみればわかりますけど、あの頃はそういうものだと思っていました。

小野:あまり周りと比べるという視点はなかったとのことですが、ご自身の歌詞づくりにおいて「オリジナルでありたい」みたいなことは意識しなかったんですか?

いしわたり:「オリジナルであろう」という意識はなかった気がしますね。「誰かと似たくない」とか、あまり考えたことがないです。

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