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49 コピーと戦うファッション・ロー

ファッションはかつて、階級や所属を表すものであった。その後、大衆化し文化として花開いた経緯もあり、自由を象徴する存在でもある。日本におけるファッションビジネスは少子高齢化もあり縮小傾向だが、世界では成長を続けており、アパレル産業市場規模は2015年の約143兆円から2022年には約195兆円へと36%も伸びると言われている(※1)。

そんなファッション業界で最近注目が高まっているのが「ファッション・ロー」だ。ファッションにまつわるアレコレの問題を法律的な立場で解決しようという動きである。とくにコピー商品について、ファッションデザインにおける“パクリ”をどう判断するかという問題については、線引きが難しい。

ハイブランドによく似たデザインが散見されるファストファッションが問題の一因になっているのは間違いないが、一方で憧れのファッションのエッセンスを取り入れた服や雑貨をリーズナブルに買えるファストファッションの台頭は、若い人々を中心にオシャレの楽しみ方を広げる立役者にもなっている。

とはいえ、グローバル化や情報化が進み、ファッション業界やデザイナーがしのぎを削るなかで、パクリの横行は生活者からの信頼を揺るがせ、ビジネスに与える影響も大きいゆゆしき問題となっている。模倣がファッションのトレンドをつくるという側面もあるなかで、ファッション業界において、いかにコピー問題に対峙していけばよいのか。ファッション・ローを専門とする弁護士・海老澤美幸氏が、同分野のキーパーソンである3人(弁理士・金井倫之氏、弁護士・中川隆太郎氏、弁護士・小松隼也氏)に取材した内容を中心に、ファッションが文化として発展していくためのあり方、守り方を考察していく。


ファッション・ローがなぜ注目を集めているのか

脚光を浴びているファッション・ローだが、これは特定の法律ではなく、ファッション産業にまつわる法律全般を指すものだ。

「『ファッション・ロー』の言葉や概念の生みの親は、フォーダム大学法科大学院で教鞭を執るスーザン・スカフィディ教授だ。2006年に『ファッション・ロー』コースを立ち上げたのち、2010年に米国ファッション協議会(CFDA)から100万ドルの援助を受けて、大学内にNPO法人『ファッション・ロー・インスティテュート』を設立。2015年秋には修士課程を開講した(※2)という流れがある」(金井)

なぜ、アメリカで一気に「ファッション・ロー」が盛り上がったのか。それは、「インターネットの広がり」と「ファストファッションブランドの登場」、そして「グローバル化」により、デザイナーやファッション業界がまったく新しい領域の知的窃盗やデザインの模造品と格闘しなければならなくなってきたからだ。

「情報技術の進化で、模倣のスピードが速くなった。昔は色や素材の見本市などで発表されたり、パリやミラノ、ニューヨークなどのファッションショーで披露されたデザインが、半年後に発売され、1~2年かけて徐々に市場に広がってトレンドになっていった。いまはショーに出たものが翌週や翌月に商品化されたり、デザインやパターンの特別な知識を持たなくてもパソコン上で簡単にものがつくれる時代になった。ファストファッションブランドがどんどん勢力を伸ばし、コピーと見受けられる商品も増えた。そこで、高級ブランドを中心に、海賊版はもちろんのこと、パクリ商品も規制して欲しいという声が高まり、事件も増加し、ファッション・ローという業界に特化した分野の必要性が高まった」(金井)

とくに「ルイ・ヴィトン」や「ディオール」を擁するLVMHモエ・ヘネシー ルイ・ヴィトンや、「グッチ」「サンローラン」「ロエベ」などを擁するケリングなどのファッション・コングロマリットがM&Aをして巨大化するなかで、企業側・ブランド側の発言権が強くなり、知財対策をしようという機運が高まったことも背景にあるようだ。

日本におけるファッション・ロー

一方、日本では、前述の「ファッション・ロー・インスティテュート」のブートキャンプに参加した金井氏が中心となって、「ファッション・ロー・インスティテュート・ジャパン」を2014年に設立。最近の訴訟ケースを分析したり法的知識を高めるための研究を行なっている。これが日本で「ファッション・ロー」の概念が広まる端緒になった。

「ファッション・ロー・インスティテュート・ジャパン」は、ケリング、エルメス、イッセイ ミヤケなどハイブランドのメゾンを主要な構成メンバーとして、ファッションの保護制度を中心に、ファッションに関する制度を調査研究、教育する機関として設立された。

さらに、クリエイター側の権利や労働問題、人権問題なども扱おうと「ファッション・ロー・トウキョウ」を2018年に立ち上げたのが、弁護士の海老澤氏だ。ファッション誌のエディターやスタイリストの経験もあるため、フリーランスでファッションに携わっているスタイリストやデザイナー、カメラマン、ヘアメイク、モデルなどと働く機会も多かった。フォーダム大学のロースクールに留学経験もある、フォトグラファー出身でアートコレクターでもある小松隼也弁護士も仲間だ。また、『ファッションロー』(角田政芳・関真也、勁草書房、2017年)を共著した東海大学の角田政芳教授、そして、関真也弁護士とも連携している。
「ただ、ファッション・ローの専門家がいることもまだまだ知られていないし、数も足りていない。メディアともうまく連携しながらファッションの保護や発展の仕方を考えるサポートをしていきたい」(海老澤)

ファッションデザインの守り方

ここからは、本題である「ファッションデザインを守る」うえでの基礎知識をまとめたい。人間の幅広い知的創造活動の成果について、権利保護できる知的財産や知的財産権は、「知的財産基本法」で定義されている。なかでも、ファッションデザインにかかわる主な法律は4つある。「著作権法」「意匠法」「商標法」「不正競争防止法」だ。まずはこれらの法律の性質と、登録の要・不要などを知っておくことが求められる。

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