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やりすぎ万歳! 名古屋のクリエイティブ(嶋元編集長イチオシ記事)

世界でいちばんエクストリーム! 名古屋のパワーが、日本を変える!?

あ、シャチホコが……。

 確かにそうかもしれません。ファッション雑誌を開けばトレンドセッター・名古屋嬢の特集が組まれ、経済誌の表紙に踊るのは「不況知らずの名古屋経済」の文字。いざ新幹線で名古屋へ降り立てば、迎えてくれるのは245mもある世界一大きな駅ビルです。道を歩けば至るところでなにやら行列ができていて、街中の駐車場に「満車」のサイン。わずか5段の階段のためにエスカレーターがつくられる贅沢な地下街もあれば、6mもある巨大人形が駅前アーケードの真ん中に立っている。喫茶店に入ってコーヒーを1杯頼めば、トーストやらゆで卵までが無料でサービスされ、しかもなんだか料理も旨い!

 ……名古屋って、こんなに面白い街だったんでしょうか。

 答えはイエス。なにしろ金でできた鯱をお城の上に乗せちゃう発想が生まれた街です。ずっと昔から名古屋はエクストリームな価値観に満ちたパワフルな都市だったに違いありません。

 来年には、万博「愛・地球博」が開催されます。街は記念グッズやモニュメント、イベントの企画に大忙し。そのひとつひとつもやはり突飛なものが多く、名古屋パワーにもさらに拍車がかかっているのが見てとれます。とにかく、見たことがないもの、びっくりするものがそこらじゅうに溢れているんです。そこで「広告」は、そんな止まらない名古屋の勢いをとことん特集、分析してみました。どこをとってもあなたがこれまで出会ったことのない世界があるはず。そして、そこに名古屋の「現在」が感じられるでしょう。

 名古屋は今、熱いだけじゃない。名古屋は、日本を動かすパワーを持った都市なのです!

駅ビルからして、この高さ。華やかさ。

名古屋の法則「ようこそ名古屋へ! ギネスも認める世界一の駅ビル」

 大きいものが好き。派手なものが好き。エクストリームなものが好き。名古屋人気質として、そんな表現を耳にすることが多い。しかしその理由は、実は「名古屋はこれが日本一」という事実に基づいた誇りなのかもしれない。大阪や京都などほかの都市とは違い、名古屋人は、名古屋という都市がそれほどの文化的アイデンティティやアピールする魅力を備えていないことを充分承知している。だからこそ、東京や他の地域の人から何を言われようと、タモリに名古屋をバカにされようと、「名古屋はこれが日本一」という事実を心の支えとしているのだ。

 そんな名古屋の玄関、名古屋駅に直結するこのツインタワー。なんと地上51階建て245mmで、「世界一の駅ビル」としてギネスブックにも名を連ねる、正真正銘、名古屋っ子の誇りである。しかし、誇るべきは、この世界一の高さだけではない。冬期シーズンにこの名古屋駅に施される電飾のライトアップは、東京ディズニーランドもびっくりのファンタジックな煌びやかさ。駅の壁面に直接電飾が埋めこまれ、そのまばゆさは、そこが「駅の入り口」であることを忘れさせるほどだ。名古屋人は意外にもこの電飾に関して「東京のミレナリオの方が規模が大きいから」と、あまり自慢したがらないが、このイルミネーションの持つ凄さは、そもそも規模の問題でなく、駅の壁一面を光り輝かせるという発想にある。冬期限定の駅ビル電飾「タワーズライツ」こそ、ツインタワーの高さ以上に名古屋のエクストリーム感を象徴する名物なのである。

冬季の電飾こそがこのタワーの真骨頂だ。


ここどこ!? 美容室の入り口です。

名古屋の法則「中途半端は禁止。好きなことは極めてこそ」

 海外の建築雑誌からも取材がやってくる、このレトロフューチャリスティック空間。実は、名古屋市栄の美容室なのである。店長である平尾さんが自ら設計し、フロント脇の待合いスペースのソファは『2001年宇宙の旅』に登場した実物をオークションで競り落としたという逸品。店内は、美容室という概念を遙かに超えた、究極のコンセプトスペースとなっている。「『2001年宇宙の旅』の世界がとても好きで……それならばと自分の店で再現してみました」とあっさり語る店長。好きなものにはとことんこだわり、そこに注ぐお金と労力は惜しまないとされる名古屋人のメンタリティを体現したようなお方だ。

 名古屋には店長のキャラクターを反映させることで店を繁盛させるという考え方が深く根づいている。社長、店長が自らテレビコマーシャルに出演するのは当たり前。店の看板にも店長の写真やイラストを積極的に取り入れ、店の内装に経営者の趣味を何より大きく反映させる。その現象が遂にヘアサロンにまで波及して生まれたのが、ここ「WORKS」。片山正通や青木淳らとのコラボレーションによりデザイン性の高い空間で他店との差別化をはかる東京・青山のヘアサロンとは違い、この店には決してコラボなどという感覚はない。そこにあるのは店長のキャラ。店長の趣味。店長のこだわり。そして世界的評価を受けるレベルにまで高められた圧倒的な本物志向コンセプトだけなのである。

カットスペースのデザインはご来店時のお楽しみ。

WORKS
愛知県名古屋市中区栄3-23-12 ハイライク栄ハイツ2F
TEL.052-265-0093 受付時間/11時~カット20時、パーマ・カラー19時
(日曜10時~カット19時、パーマ・カラー18時) 予約優先 (休)月曜


朝7時からこのメニュー提案。

名古屋の法則「競争を勝ち抜くには奇抜さも必要」

 愛知県外からやって来た名古屋転勤者が驚くことのひとつとして、会社員の出勤時間の早さが挙げられる。たとえ朝9時始業であっても、8時頃には会社に到着している、というサラリーマンが多い。これは車による出勤のため渋滞を懸念して早めに家を出るという理由によるものだが、そんな彼らのために名古屋で発達したのが喫茶店の「モーニングサービス」文化だ。名古屋の喫茶店は午前6時には開店する。そして平日、土日を問わず午前11時頃まではコーヒーを1杯頼んだだけでトースト、サラダ、ゆで卵などを盛り合わせた「モーニングセット」が無料でサービスされるのが常識だ。これは他の地域では考えられない出来事だが、競争が激しい名古屋の喫茶店ではいかにモーニングを充実させるかに店の存続がかかっているのである。トーストと卵のほか、なぜかおにぎりや茶碗蒸しまでがサービスされる(しつこいようだが、コーヒー1杯の値段で、である)店や、24時間「モーニングセット」を提供している店までが登場しているのだから、もはやその競争も行き着くところまで来てしまったようだ。

 さて写真は、そんな激しい競争の中、絶大な人気を誇る名喫茶店「マウンテン」の人気メニュー「いちごスパゲッティ」「小倉スパゲッティ」である。この店の詳しい情報については本誌30頁で触れるとして、ここで語るべきはこのメニューが朝7時から食べられるという驚愕の事実。店のマスターは語った。「変なメニューと思っとるでしょう。でもこういうもんが、必要なんだて。人がやっとらんことを、せないかん」。激戦区を勝ち抜いた店ならではの、名言である。

コーヒー一杯の注文で、これだけ出てきます。


嫁入り道具は、こうやって運びたい。

名古屋の法則「娘プレゼンは分かりやすく大げさに」

 名ドラマ『名古屋嫁入り物語』のおかげで、豪華な嫁入り道具(主に家具)一式を積んで嫁ぎ先へ輸送する「嫁入りトラック」もすっかり全国に知られる存在となった。しかし、多くの人はまだ知らない。そのトラックには、このようなスケルトン仕様のものまであることを……。嫁入り道具を「寿」の字が踊るトラックに詰めて街を走らせるということは、「うちはこんなにお金持ち。うちの娘はこんなに大事」というデモンストレーション。当然そのトラックは大きければ大きいほど効力を持つわけで、さらにそのトラックがスケルトン仕様で中身を情報開示していたとしたら!それはもはや無敵のプレゼンなのである。ちなみにこのトラック、縁起をかついで走行中は前進のみでバック(出戻りを意味する)は禁止。路駐などでどうしても前進できないときは、祝儀袋を渡して、車にどいてもらい前進するのが常識だ。そこまでして、できるだけ多くの道を走り、わざわざ遠回りしてたくさんの人にトラックをお披露目するのである。また、スケルトントラックが流行した全盛期は「中身を見せること」にこだわるあまり、中に入れる嫁入り家具をほとんどの人がレンタルに頼っていたという事実も。何がなんでも、大事な娘の価値をアピールしたい名古屋人なのだ。

 ちなみに伝統的名古屋の嫁入り時には、娘が花嫁衣装に身を包んで実家を出発する際、屋根の上から親戚一同が近所へ向けてお菓子の詰め合わせを投げる「菓子投げ」の儀が行われる。お菓子は1パック1,000円が基本で、たとえそれが日曜の朝5時に行われようとも、近所の人々に遠方からはるばる駆けつける「菓子拾いフリーク」が加わって100人規模で一緒に結婚をお祝いするのが通常。なんだか地域を挙げた祭り状態である。

菓子を投げる親族も、相当な恍惚感を覚えるらしい。写真協力/川合車


プレシャスメモリー、安土桃山時代。

名古屋の法則「もう一度、天下を取りたい。」

あ、ここにいたのね!

 名古屋人の好きな言葉が「日本一」であることは先に述べたが、その気持ちにはやはり「天下統一を果たしながら首都になれなかった」という歴史的事実が大きく反映されている。毎年開催される名古屋一の祭り「なごやまつり」では愛知出身の信長、秀吉、家康を「三英傑」と称し、武者に扮した行列が英傑の衣装に身を包んだ一般公募の男性たちを祭り上げる光景が見られ(ちなみに淀君、千姫などの姫役には、毎年名古屋地元デパートの女性店員が抜擢されることになっており、姫役に選ばれると良い縁談話が来るらしい。名古屋文化をよく反映した逸話だ)、名古屋人が、いかに黄金の安土桃山時代を大切に思っているかをよく伝えている。

 そんな名古屋市にとって、来年開催する万国博覧会「愛・地球博」に対する思いは格別なものだ。何しろ日本のみならず、世界中の注目を集める一世一代の大イベント。開催地選考では、ソウルに五輪開催地を奪われた屈辱の1981年以来の大盛り上がりを見せた。名古屋市は、今こそ天下分けめの大勝負どき。愛知万博に合わせて、万博期間中に名古屋城から鯱を取り外して地上に降ろそう、という仰天プランまで企画している。

 駐車場に突如現れた謎の金の鯱。これは名古屋市観光局と本誌のコラボで実現した、壮大な「鯱降ろし」プランの超極秘予行演習だったのだ。

 本番も、うまく取り外せますように……。

「なごやまつり」で、つかの間の天下取り気分。


ありえないを作っちゃう

クルマからロケットまで
名古屋は日本を、いや世界を
代表するモノを作っています。
形のあるものだけではありません。
漫画喫茶からスーパー銭湯まで
あたらしいサービスや付加価値を
考えるのも名古屋の得意技。
おまけをつけたり、ゴージャスにしたり
名古屋の人のサービス精神は
とどまるところを知りません。

本屋にダーツをおいてみる。
トーストにあんこをつけてみる。
スパゲティにメロンを入れてみる。

時に過剰なものまで作ってしまうその勢い!
これ、学ぶべきところ多いです。

普通は、思いついても、
想像してありえないと思ったらそこで終了。
でも、それを作っちゃう。

ときにやりすぎ。
当然、失敗もあるでしょう。
でも、とにかく作っちゃうってのはすごいこと。
言うのは簡単、作るのが難しいんです。

やりすぎ万歳!
名古屋のクリエイティブ。

撮影/山本光男 取材/平野真由美

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  『広告』2004年8月号 vol.361
 特集「名古屋大好き!」
 ▶ こちらよりご覧ください

※2004年7月1日発行 雑誌『広告』vol.361 特集「名古屋大好き!」より転載。記事内容はすべて発行当時のものです。


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