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ECプラットフォーマーの社会的責任

IT批評家 尾原和啓 × 情報法制研究者 加藤尚徳 × デジタルシフトウェーブ 代表 鈴木康弘
『広告』流通特集号イベントレポート

2月16日に発売された雑誌『広告』流通特集号にかかわりの深い方々をお招きし、オンラインでのトークイベントを開催しました。今回は、3月5日にSHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(SPBS)の主催で行なわれたイベントレポートをお届けします。コロナ禍でますます存在感を増すECは、私たちの生活をより便利にしてくれる一方で、様々な問題を抱えていることも事実です。そこで、IT批評家の尾原和啓さん、情報法制研究者の加藤尚徳さん、『アマゾンエフェクト!』著者で実業家の鈴木康弘さんをゲストに迎え、巨大ECプラットフォーマーが抱える問題点を洗い出し、よりよく進化してくために必要な自浄作用や行政・立法への働きかけなどついて議論していただきました。

中国製モバイルバッテリーが原因で火事に

小野:本日は3人のゲストをお招きしています。そのおひとりが、流通特集号の「60 アマゾンがなくなる日」という記事でも取材させていただいたデジタルシフトウェーブ代表の鈴木康弘さんです。鈴木さんは、小売業界をはじめ様々な業界に対するアマゾンの影響を考察した『アマゾンエフェクト!』(プレジデント社)の著者で、流通におけるデジタルシフトやオムニチャネルなどにも精通されていらっしゃいます。よろしくお願いします。

鈴木:よろしくお願いします。

小野:もうおひとりは、IT批評家で『アフターデジタル』(共著、日経BP)や『アルゴリズムフェアネス』(KADOKAWA)などの著書がある尾原和弘さんです。尾原さんは様々な経歴をお持ちですが……。

尾原:本日は、あくまでいち個人として参加させていただいております。ただ、テーマと近いところで言うと、楽天市場が二重価格で消費者の方にご迷惑をおかけしたり、店舗さんの信頼を揺るがしてしまった事件が起きたときに、まさに私は楽天市場の執行役員としてそのプロジェクトにかかわっていました。あとはGoogleの検索事業開発にも携わっておりましたので、そうしたプラットフォーム側の視点からお話できればと思っています。

小野:ありがとうございます。3人めは加藤尚徳さんです。加藤さんは普段は通信系のシンクタンクで働かれていて、主にプライバシーや個人情報にまつわる情報法制などの調査や研究をされていらっしゃいます。しかし今回はそのお立場というより、加藤さんが今年1月に書かれたnote「Amazonとたたかいます。」のお話をお伺いできればと思っています。よろしくお願いします。

実は、加藤さんのnoteを拝読したことが今日のイベントを開くきっかけにもなりました。そのnoteには、アマゾンをとおして買ったモバイルバッテリーが原因でご自宅が火災の被害に遭われたことについて書かれていました。いま、加藤さんはアマゾンに対して裁判を提訴されていますが、賠償金目的などではなくて、同じような被害が起きないように行政が動くきっかけになるような判例をつくっていけないか、ECプラットフォームがよりよくなっていくために何かアクションを起こせないか、という思いからと聞きました。

僕自身も2020年7月、NHKの「クローズアップ現代+」の「追跡! ネット通販の闇に迫る」という番組で、加藤さんと近い状況に陥っている方やフェイク商品を売る業者があとをたたないといったことが取り上げられているのを見て、問題意識を持っていたところでした。まずは加藤さんに何が起きたのか、教えていただけますか。

加藤:もともと私はアマゾンのマーケットプレイスを経由して中国のとあるメーカー製のモバイルバッテリーを購入しました。ところが、2017年の11月にそのバッテリーが充電中に火をふいて、部屋の一角が火事になってしまいました。熱や煙がまわってカメラの防湿庫がダメになっちゃったり、自転車が真っ黒になったり、壁紙まで真っ黒になっちゃって。シーリングライトもエアコンもデロデロに溶けて、結果的に家のなかのものほとんどがだめになるという大きな損害が出ました。

被害写真

火災被害の様子。充電中のモバイルバッテリーが発火し、天井まで燃え広がってしまった 画像:加藤さん提供

そこで、中国のメーカーに対して損害賠償を求めたのですが、どうやら中国製品というのはこのメーカーに限らず多くがOEMで、別の製造工場からロット買いをして自社のブランドをつけて売るということをやっていると。自分たちがつくったものじゃないから、見舞金は払うけれども責任は取らないと言われてしまいました。それで、アマゾン側に商品の瑕疵がないか確認したりとか、適切な事業者か審査したりとか、あるいは何かあったときに補償をしてもらえるようにする必要があったのでは、ということを訴えているところです。

小野:アメリカでも加藤さんのようなケースの裁判があるそうですね。

加藤:はい。アメリカではアマゾン側の責任を認めるような判決が出ています。実は日本国内でも消費者庁がこういったデジタルプラットフォーマーに対して、責任を課していくような法律をつくろうとしていました。そうしたことからもあって、訴訟に踏み切りました。

ただ、いきなり訴えたわけではなく、3年ぐらいアマゾンとコンタクトを取ってきたのですが、協力的ではなかったという経緯があります。ですから、プラットフォーマーにも適正な情報開示をすることや、紛争が起こった時に積極的な解決に協力することなど、果たすべき義務があるんじゃないかと思っているところです。(※1)

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加藤さんが起こしている訴訟の全体像 画像:加藤さん提供

発展途上にあるプラットフォーム

小野:ありがとうございます。深刻な被害のなかで、お体に被害が及ばなかったことだけは本当によかったなと思います。ここをスタート地点としてお話をしていければと思います。冒頭で言えばよかったんですけど、今日はアマゾンを非難したり、叩きたいという意図があるわけじゃなくて、僕もアマゾンで日々日用品を買ったりしているので、もしかしたら自分もそういう被害に遭う可能性があるなと。だからこそ、よりよいプラットフォームになっていくために、建設的な議論ができればいいなと思っています。

加藤:それは私も同じ気持ちです。アマゾンをつぶしたいとか叩きたいということではなくて、むしろアマゾンが適正化していくことによって、みんなが安心して使えるようになって欲しいという願いです。

小野:ということで、かなり重たいスタート地点ではあるのですが、まず鈴木さんに、かつてセブン&アイ・ホールディングスにいらっしゃったりと、流通業界のなかを熟知されているお立場から、この件をどういうふうに見られているかお伺いしてもよいでしょうか。

鈴木:これは、正確には製造者の責任のほうが大きいと思うのですが、ある程度規模が大きくなってきた段階では、販売者も自らこういう責任を果たすということを考えていかないと消費者と良好な関係を結べません。そういう意味でいまは発展途上なんだろうなと。だから加藤さんの問題提起は、僕はいいことだなと思います。

小野:尾原さんはいかがでしょうか。楽天でのご経験や、ネットリテラシーといった切り口から。

尾原:まず、加藤さんは深刻な火事に遭われてお辛い状況にありながら、次に同じ状況が起こらないために何をするかという取り組みをされていることに僕はものすごく共感しました。

鈴木さんがおっしゃるように、こういった問題にプラットフォームとしてどのようなケアができるのか。とくにプラットフォームが便利であればあるほど、できるだけ自分たちは責任を負わない形で儲けることだけを考える人たちが紛れ込んでしまう可能性がある。

もちろんメーカーが確信犯で火事が起こるような商品を提供したのではないと思いますけど、直接の連絡がとりにくかったり、何か起きたときのサポートを受け取りにくいという状況のなかで、ユーザーは商品を買えてしまっている。

プラットフォーム側の説明責任が義務なのか、努力なのかという線引きはこれから話していくことだと思うのですが、少なくともプラットフォームが巨大になっていくと、どうしてもこうした抜け穴的な事例が出てしまう。被害者が出ている事実に対して、事前対応として何ができるのか。今後このようなことが起きないようにするためにどういったことをしていくのか。そして何よりも実際被害に遭われた方に、仕組みとしてどういう形で寄り添っていくのか。

僕は本当に加藤さんがこれだけの被害に遭われたにもかかわらず、これだけのプロセスを丁寧にされていることに、まずはすごいなと思いました。

整備が進む国内の法制度

小野:消費者庁などの行政で、このような問題に対してECプラットフォーマーが負うべき責任や義務を定めるような動きはあるのでしょうか。

加藤:私のほうですべてを説明できる立場にはないのですが、ちょうど本日(3月5日)、消費者庁が提案した「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案」が閣議決定されました。これは、取引デジタルプラットフォーマーの努力義務や、商品等の出品の停止、情報に関する開示請求権など、いま私がアマゾンに訴えているところにも通じるような内容になっています。一方で、事故が起こったときの具体的な補償など、まだ抜けている部分がありますし、どこまでこれで対応してもらえるのかという懸念は残っています。これも発展途上なのかなと認識しています。

小野:なるほど。鈴木さん、ECプラットフォーマーや実店舗の小売ふくめて、問題が起きたときに行政と連携をとったりすることは結構あるものなのでしょうか。

鈴木:実店舗の場合、行政や法律という前に、普通は問題を起こしたメーカーは即刻取引停止です。そして、問題をどう是正するのかといったことをきちんと解決してから取引再開となります。そういう意味で、デジタルのほうはまだ意識が薄いのかなという印象は受けます。

加藤:実は、火災の現場の実況見分をするとき、当事者が立ち会わないと公平じゃないと思って、メーカーにもぜひ見にきてほしいと言ったのですが、返答はありませんでした。それを訴えかける窓口がアマゾンにないというのも違和感を感じました。私も日本企業につとめていますが、日本企業だとそういうことはあまりないですよね。

尾原:こういった問題は、ふたつの軸で考えたほうがいいと思います。たとえば、CtoCのプラットフォームができたことによって、自分が買ったけれど合わないものとかを人に売ることができるようになったり、ユーザーの選択肢が増えているというメリットがあります。一方で、自由が増えるということは、そのぶんいろんなものが混ざってしまうことがあって。いっそ自由を減らしてでも、きちんとした品質のものだけが流通するほうがいいという話がありますね。

もうひとつ、欧米的な考えですが、すべての選択は自己責任とする。何かものを買うとき、レビューを読んだり連絡先がおかしくないかなどを調べて、値段が高くてもレビューや連絡先がしっかりしているほうを選ぶ。自己責任で解決していくという方法です。

とはいえ、加藤さんのケースのような事故が起きてしまったとき、プラットフォーマーとしてメーカーにどこまで責任を追及すべきなのか。あるいは、事後対応でもいいからセーフティーネットとして何が提供できるのか。

豊富な選択肢で自由を謳歌できることを選ぶのか、選択肢が減ってもいいからしっかりしたものを選ぶのかという縦軸と、そこを活用するときにあくまで自分たちの自己責任のなかで対処していくのか、プラットフォーム側にある程度、努力義務だったりある一定の責任を発生させていくのかという横軸との議論なのかなと思いました。

ユーザーとプラットフォームの信頼

小野:ありがとうございます。尾原さんがおっしゃるように、自己責任を求める代わりにいろいろなものが自由に流通するということをよしとして、ユーザー側がリテラシーを上げていくのがひとつありますよね。その視点から、加藤さんは今後どうあるべきか、どこまで厳しくすべきとお考えでしょうか。

加藤:ひとつ言えることは、医薬品や食品など、人に健康被害が出たり、ひどいと亡くなったりする可能性があるものについて、消費者の自己責任にしてはいけないという原則があるんですね。そういった、もともと法律で保護されているものについては消費者側に立って考えたほうがいいいと思います。

それから、実際に家が燃えて損害が出ても、そのメーカーの商品はまだアマゾンで売っています。アマゾンもメーカーも売上やその振込というフローはわかっていてビジネスが発生しているのに、損害が発生したことに対して、日本の法律だったら正統に補償してもらえるはずの私が、何もしてもらえない。もしも、火災で人が亡くなっていたら、洒落にならないと思っています。

鈴木:僕も個人的に自分がその立場だったらと考えたら、加藤さんと同じ意見を持つような気がします。自由を疎外するだとか、自己責任だ、という意見もあるけど、最低限のところはやるべきなんだろうなと。やらない企業はそれなりに社会的にマイナスになっていったほうがいいのになと思います。法律でしばるのがいいのかはわかりませんが。

加藤:もしアマゾンが自由にやりたいというのであれば、そこをきちんとケアすることで、もっと自由な領域が広がるんじゃないかと思うんですよね。

尾原:起こってしまったものに対してどうセーフティーネットを提供するかという話では、アマゾンプライムのような会員には保険を用意します、といった企業努力の形もあるでしょうし、たとえば、プラットフォーマーが企業側にイエローカード、レッドカード制のようにして、消費者の命にかかわるようなトラブルがあったときはレッドカードを出すといった形もありますよね。人の命にかかわらないレベルでも、トラブルに応じてイエローカードを出して、2枚連続で出たら退場いただくみたいな。

まずはプラットフォーム側が、トラブルが起こりにくい構造をどうつくるか。起きてしまったら、当事者の方の痛みができるだけ少なくなるように、どういう補償がありうるのかを企業側が模索する。それをプラットフォーム側に求めていくべきだと思います。

行政等の関係のなかでできないのであれば、最後、僕たち市民ができることとしては、トラブルを告発すること。それによってほかのユーザーがこのプラットフォームでなくて、違うところで買おうと判断するようになる。そのなかで、企業も対応をしないと自分たちが選ばれない存在になってしまうとなって、変化していくと思いますけどね。

鈴木:リアルの小売の例ですが、たとえばセブン-イレブンで牛乳や弁当を買うときに、ほとんどの人が賞味期限を見ません。それはセブン-イレブンが何年も前から、賞味期限に近くなった商品はレジがとおらない仕組みをつくっていたからなんです。僕の子どもの頃は、みんなコンビニで賞味期限をみていたのですが、いまや誰も見なくなった。ある種、信頼なんですよね。ネットでも、起きてしまったことは二度と起こさないくらいの姿勢でやれば、もっと信頼されるのかなと思います。

二重価格問題で変化した楽天

小野:アマゾンはユーザーだけでなく、販売する側にもすごい効率のいいプラットフォームになっていて、アマゾンをとおして売れば、自分たちでECチャネルをつくる手間を省きつつ、簡単にものを売れる。アマゾンありきでビジネスを考えている製造者の方も多いかなと思います。

ですが、アマゾンがいちばんに掲げているのは顧客第一主義ですよね。それにもかかわらず、品質に問題がある商品が売られていたり、それによって顧客が被害を被ったときのサポートが受けづらい状況がある。

鈴木:アマゾンの場合、サービスやインフラの部分は顧客ファーストでやっていると思います。ただ、いわゆるプライベートブランド(PB)のマーチャンダイジングや商品開発においては、まだ発展途上ですよね。

たとえば、リアルな流通でPBをつくるとき、原料まで全部精査します。アマゾンも大きくなっていますので、これからは商品の安心安全という方向に自らなっていくんじゃないかなと思いますね。過去、リアルの流通がそういう風に発展してきたように。

小野:たとえば購入体験とかはすごいスムーズですよね。気がついたらボタン押してるみたいな。ただ、それがオペレーションファーストになっている印象もあるんです。尾原さんそのあたりいかがですか。

尾原:そうですね。いわゆるアマゾンの顧客ファーストというのは、カスタマーオブセッションという言い方ですよね。ベソスが言っている戦略のなかには、顧客がセレクトして買いやすいという体験によって、量が増えて送料が安くなったり、配送時間が速くなったりする。それが戦略の根幹です。

では、そのなかにカスタマーサポートだったり、顧客が自然といい商品を選ぶ仕組みまで入っているかというと、客観的には途上と思わざるを得ない。ただ、そんなことをアマゾンが知らないわけがないと思うんです。合理的に考えたら、消費者にとって優しくあったほうが結果的にいいという社会になっているのに、というのがちょっと不思議ですね。

それに関していうと、楽天は二重価格の問題で世間を騒がせてしまいました。実体的には消費者に対する被害はものすごく限定的だったのですけど、それでもいろいろな不安を持たせてしまったことから学んで、保証制度だったり、店舗に対するレビュー制度だったりを改善していくという姿勢を見せました。そうしたなかで、アマゾンがそれをやらないというのは非合理に見えてしまいますね。

小野:楽天の場合は、店舗へのエデュケートがしっかりされているイメージがありますね。

尾原:そうですね。楽天の場合は、ECCと呼ばれる全部の店舗に対するコンサルタント数百人がサポートしています。商品の価格を変更するときにも、こういう法律を守らないとダメですよという画面が出て、「確認」と押さないと大きな価格変更ができない仕様になっていたり、いろいろな形で店舗側のうっかりミスを防いでいます。逆に確信犯でやっている店舗側にはプラットフォーマー側がレッドカードを出す、ということは、企業努力として取り組んでいますね。

小野:なるほど。加藤さん、今回アメリカで似たような事件での判例があったと伺ったのですが、どのようなものか教えていただけますか?

加藤:アマゾンのマーケットプレイスで買った商品が原因で火災が起こり、購入者が怪我をしてしまったという事例だったと思います。しかし、商品の売主と連絡がつかなくなったので、アマゾンに対して責任を求めたという裁判でした。実はいま、それと同じような裁判が全米で同時に起きています。

日本でいう地裁・高裁のような裁判所があるのですが、それぞれで判断が分かれているものの、全体的にはアマゾンに責任を求める方向で判例が形成されているところです。とくに媒介者であるアマゾンはそこから収益を得ているのだから、一定の責任は負わなければならない、という議論が展開されています。ヨーロッパでも同じような議論がされていまして、日米欧でそういう風潮が流れとしてあるようです。

小野:アメリカで判例が出たことで、アマゾンに変化はあったのでしょうか。

加藤:裁判の結果が出たのが去年くらいなので、まだこれからじゃないかなと思います。まだ係争中のものもあって、日本で私がやっている裁判についても結構慎重に対応しようとしているのが透けて見えます。

プラットフォームにあるグラデーション

小野:ちょっと話の切り口を変えたいのでが、尾原さんは著書『アルゴリズム・フェアネス』において、アルゴリズムが国境や国家を超えて権力、支配的なものになっていったときのつき合い方といったことを書かれていました。生活者としてはどういう視点を持てばよいのか、ご意見を伺いたいです。

尾原:買う側がリテラシーは上げておいて損はないです。アマゾンに限らず、ほかのプラットフォームでも、きちんと企業や商品を精査しているところもあれば、CtoCに近いような、ほぼ無審査でやっているところまで、いろいろなグラデーションがあるという状況を理解することが大事です。

リアルでも実は同じで、セブン-イレブンやイオングループなど、しっかりした商品を扱っているところもあれば、商品の品質をきちんとチェックせず仕入れている小売まである。ただ、リアルの場合は店舗構えや雰囲気でユーザーもある程度判断できるわけですが、ネットだとどうしてもユーザーインターフェイスが便利すぎるがゆえに、わかりにくかったりするんですね。ですので、そうしたものに対してユーザー側がリテラシーを育てることに損はないです。

小野:鈴木さんもおっしゃっていたように、ECプラットフォームは発展途上であって、信頼されるブランドものから、そうでないものまで、いっしょくたになっている場所であることは認識しなきゃいけないと思います。しかし、加藤さんはリテラシーが低い方ではないと思うのですが、今回買われたモバイルバッテリーはどのように選ばれたのでしょうか。

加藤:アマゾンでのレビューもよかったですし、いくつかの有名サイトで「これは結構使える」と書かれていたものでした。私は安さよりも、値段が多少高くても品質がいいものを選びたいタイプなので、今回のモバイルバッテリーに関してもそういう選択をしています。

鈴木:難しいですよね。製造物にはシリアル番号が振られていて、工場のラインごとに品質が変わっちゃうこともある。だから本当はメーカーが火事の現場に来ていっしょに調査してほしいですよね。

加藤:経産省と消防が火災調査をやったのですが、メーカー側に立ち合いをするよう言ったけれど連絡がつかなかったと報告書に書いてありました。経産省や総務省から連絡しても連絡がつかない、日本の考えがまったく通じないというのは怖かったですね。

小野:日本ではありえないですよね。でも、中国製品だから悪いとも言えないですよね。そして加藤さんはリテラシーが高いにもかかわらず、それだけでは防げないものがある。コロナ禍でこれまでECを利用してこなかった方々の利用も増えていると思いますが、そうすると、トラブルが起きてしまったあとの対処として何が適切なのかということですよね。

加藤:まさにそうですね。私の場合、日本の土俵で戦えなかったので中国にいって戦おうとしたけれどもできなかった。それで、アマゾンに土俵をつくってくれと頼んでいるような状況です。何かあったら日本の法律に基づいて解決できるだろうと思っていたのですが、そんな簡単ではなかったという。

小野:これからアマゾンはどうなっていくのでしょうか。改善していくのか、変わらないのか。

尾原:消費者がものを買おうとしたとき、いまはアマゾン以外のプラットフォームもあります。また、日本はリアルの小売が強いですから、同じような値段で同じような品質のものがリアルで手に入れられるケースが多い。そのなかで、ユーザーに対して誠実にならなければ、ユーザーが離れてしまうわけです。アマゾンは合理的な企業なので、なんらかの対処をしていくと思っています。

ですから、僕は被害者にもかかわらずものすごくフラットに議論をしていく加藤さんの姿勢がとても素晴らしいと思います。双方の事実が積み上がって、その事実に対してオピニオンが積み上がって、そのなかで消費者が賢明な選択をして、プラットフォーム側が消費者に対して対処せざるを得ない状況をつくっていくことが大事なのかなと思いますね。難しい言葉になってすみません。もっと簡単にいうと「おまえらそんなことしてると消費者に嫌われんぞ、それでもええんか」という話なんですけどね(笑)。

これからの流通とメディアの役割

小野:外からの圧力といえばメディアの報道もそのひとつですが、加藤さんの被害に対して、動きはどうでしたか。

加藤:私の火事が起きてから3年以上経っていますが、報道として取り上げられたのは、ここ半年くらいに集中しています。そのきっかけは、消費者庁の検討会に資料を提供したことでした。そこで消費者庁担当の新聞記者たちが取材にきてくれました。それからテレビの取材もくるようになって、個人的にnoteでも発信をしたので、みんなに気がついてもらえるようになりました。

それが好循環という言い方がいいかはわかりませんけど、いろんなメディアに取り上げてもらっています。アマゾンとの交渉はあまりうまくいっていませんが、メディアでアマゾンという名前が報道され、こういったイベントで話していることを、どうやらアマゾンでも気がついているようなんですね。

それで、裁判とは別の方法を検討してるんじゃないかなと感じ取れるふしがあります。裁判でガチガチに争って判決をもらうという流れではなく、アマゾンが偉大なる調停者になる可能性もあるんじゃないかと思っています。

鈴木:メディアの役割は、歴史上そういうふうに発揮されてきましたよね。

加藤:まったくおっしゃるとおりだと思います。

鈴木:ただ、メディアもリテラシーがまだまだ低いという部分はあるんじゃないかなと思っています。アマゾンというと「最新」という取り上げ方が多いじゃないですか。

小野:問題が複雑というのもあるのかもしれませんね。アマゾンというより、そもそもメーカーが問題という前提があって、もしも日本のメーカーだったら一発でアウトのニュースじゃないですか。でも、中国のメーカーだったからメディアとしても取り上げづらいし、実態がわかりづらいというのがあって、扱いにくいんだろうなと。そのときに、アマゾンというプラットフォーマー企業の責任についても考えるという、メディア自身がそういうリテラシーを持つことも重要なんだなと思いました。

鈴木:そのうち、プラットフォーマーが問題を起こした売り手には厳しい対処をしますという姿勢がとてもいいねと、メディアがプラットフォーマーをほめる時代が来ると思います。ニトリが法令の基準を超えるアスベストが含まれていた一部の珪藻土商品を回収していましたが、ああいうのを見ると、しっかりしてるなと思います。きっとほかの商品も気を遣ってつくられたり選ばれたりしているんだろうな、買いにいこうという考え方につながります。

尾原:そういう意味で、僕は最後に期待をしたいのはメディアなんですよね。メディアは、こういう小さな意見を流通させるものです。個人の声をブログやSNSで拡散するというやり方もあるけれど、メディアにはそうした小さき声を流通させる役割があると思っています。

たとえば去年、イギリスのガーディアン紙が寄付によって黒字になりました。そのときにガーディアン紙の社長が、消費者のガーディアン(守護者)として誇りをもってジャーナリズムを全うしていれば、必ず寄付が集まる。だから我々はジャーナリズムを守っていく。こんなにサスティナブルな収益化はないと言っていたんですね。

鈴木:素敵ですね。

尾原:流通は、どうしてもコストがかかるからいろいろ人に支えてもらわなければいけないけれど、情報の流通も任意だったり、善意だったり、いろいろな支え方があります。そういったところを考えてくれているメディアには人が集まるから、ジャーナリズムが健全に流通されるという。僕もいちメディア人として協力していきたいと思います。

4つの視点が重なって立体的な議論に

小野:最後にメディアの話になりましたが、歴史上、国家権力に対してメディアが反論をつくっていたという流れがありました。しかし、いまはアマゾンだけでなく、いろいろなプラットフォーマーが世界で権力を持っていて、尾原さんが『アルゴリズム・フェアネス』で書かれていたように国家を超えた存在にもなっています。そうしたなかで、メディアはこれまで国家にしてきたようにプラットフォーマーの社会的意義や責任を問うということをしてく必要があるんだなと感じました。

最後にぜひみなさまからひと言ずつ、いただければと思います。まず鈴木さんにお願いします。

鈴木:加藤さんのお話を聞いて、僕自身も一から考えさせられたなという感じです。先ほど小野さんもおっしゃっていましたが、もちろんメディアの役割も大きいなと思うと同時に、そのメディアを動かすのは消費者なので、僕もいち消費者として見ていかなきゃいけないなと思いました。一方でプラットフォーマーがこの辺をしっかりやると、ますますネットが便利になっていくので、これからも意識をして行動していこうと思いました。本日は本当にありがとうございました。

小野:ありがとうございました。では尾原さん、お願いします。

尾原:最初の話に戻りますけど、加藤さんはご自宅が火災に遭われたなかでこういった行動をとられたことにすごく共感をいたします。加藤さんの被害者でありながらフェアな視点、鈴木さんのような小売側で日本の品質を守ってきたような方の視点、小野さんのメディアからの視点、僕のようなプラットフォーマー側の視点、という4つの視点が折り重なることで、すごく僕たちは立体的な視点をもつことができたと思っています。そういうことがどんどん沸き起こっていくことで、結果的に消費者の声が届いて、提供する側が持続的になる、というのが本当の「三方よし」だと思うので、そういうふうな実現にひと役買うことができればと、改めて襟をただしました。

小野:最後に加藤さん。今日は加藤さんのnoteがきっかけでこの会を開くことができて、改めて問題意識を持つことができましたし、僕はプロダクトデザイナーとしてものをつくったりもするので、つくり手としても生活者としてもアマゾンを利用するので、アマゾンの恩恵に預かっている者として、よりよい環境をつくっていくための問題提起をしていただいたことに感謝しています。最後にひと言、いただければ。

加藤:ありがとうございます。素人が専門家のみなさまのなかでお話をして非常に申し訳ない気分もありますが、大変勉強になりました。この活動をまだ続けていかなければいけないなかで、非常に強いご支援をいただいたことはありがたく感じております。火事から3年以上経って最近メディアで取り上げられてきたということで思い当たるのが、noteです。自分でnoteにひとしきり書きとおしたことで、少しずつ言語化して、伝えられるようになりました。新聞もテレビもそうなのですが、やっぱりメディアってその単なる発信ではないんですよね。記者が丁寧に調べて、何時間もの話を聞いて、それを限られた字数にまとめていく。ものすごく密度が濃くてたくさんの取捨選択をしてフォーカスを絞っていくという作業を、私も目の前で見せていただきました。取り上げてもらう側も努力が必要だなと思いますし、できるだけ最後まで取り上げていただきたいと思っておりますので、私もそこに向けて頑張っていきたいと考えております。

小野:ありがとうございます。本日すごくいい議論ができたと思います。『広告』はメディアとしての力はまだ弱いのですが、ほかのメディアにも注目されるよう、その一助になればなと思っております。小さいメディアでも、個人であっても情報が発信していける時代になって、そこから大きく広がっていくこともあると思いますので、もし本日聞いていただいた方も何か思うことがあれば、ぜひ加藤さんのnoteを見ていただければなと思います。本日はおつき合いいただきありがとうございました。


文:猪谷 千春

加藤 尚徳(かとう なおのり)
通信系シンクタンクで、情報法制(プライバシー・個人情報等)を中心とした法制度や技術の調査・研究・コンサル業務に従事。2019年、情報処理学会「山下記念研究賞」受賞、デジタルフォレンジック研究会よりIDF優秀若手研究者として表彰。一般社団法人次世代基盤政策研究所理事・事務局長、放送大学客員准教授、理化学研究所革新知能統合研究センター客員研究員、神奈川大学および神奈川工科大学非常勤講師、慶應義塾大学SFC研究所上席所員。
鈴木 康弘 (すずき やすひろ)
1987年富士通入社。96年ソフトバンク入社、営業、新規事業企画に従事。99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)設立、代表取締役社長就任。2014年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。15年同社取締役執行役員CIO就任。16年同社を退社、17年デジタルシフトウェーブ設立、代表取締役社長就任。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任。著書に『アマゾンエフェクト! ──「究極の顧客戦略」に日本企業はどう立ち向かうか』がある。
尾原 和啓(おばら かずひろ)
IT批評家。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモ、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレートディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業に従事。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなどを歴任。著書に『アフターデジタル』(共著)、『アルゴリズム・フェアネス』など。
猪谷 千香(いがや ちか)
東京都生まれ。明治大学大学院考古学専修博士前期課程修了後、新聞記者を経て、ニュースサイト記者に。著書に『つながる図書館』(ちくま新書)、『その情報はどこから?』(ちくまプリマー新書)、『町の未来をこの手でつくる』(幻冬舎)など。
脚注
※1 その後この法案は国会にて可決され、5月10日に公布された。「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律

【イベントの動画を販売中】

SPBSのウェブサイトにて、3月5日に行なわれたイベントの動画を販売しています。ぜひご視聴ください。

[視聴チケット代] 1,650円(税込)
[チケット購入方法]下記のSPBSのオンラインストアより
http://store.shibuyabooks.co.jp/item/6332497303376.html


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今回のトークイベントに参加いただいた鈴木康弘さんには、雑誌『広告』流通特集号でもご協力いただきました。現在、鈴木さんへの取材記事を全文公開しています。

60 アマゾンがなくなる日
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