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42 類型のなかに、いかに自分の型を見出すか 〜 落語家 春風亭一之輔 インタビュー

コピーライターという仕事をしていると、いかに自分の日本語が不自由であるかを思い知ることがしょっちゅうある。ちゃんと言い当てているか、新鮮さがあるか、過去の名作コピーたちに似ていないか、など様々なハードルを越えながら、その商品のその時代における存在価値を見つけ出すことに挑戦する。ほとんどの商品には競合が存在するから、独自の視点が必要になってくる。言葉はあくまでツール。使い手が自由に使うものであるし、それによって縛られるものではない。そう言葉にするのは簡単すぎるくらい簡単なのに、実態は縛られてばかり。そんな「縛り」とどうつき合うかは、悩みの種だった。経験は、「それらしいもの」を量産できるようにしてくれる。その「それらしいもの」の呪縛から逃れるための手がかりをつかみたかった。

そんなことを考えるうちに、ふと落語のことが頭をよぎった。古典という下敷きがきちんとある。同じネタを自分流にアレンジすることが問われる。類型と自分の型。伝統と革新。その間でどのように折り合いをつけているのだろうか。若手実力派で古典の名手である落語家の春風亭一之輔さんに、類型のなかから、いかに自分の型を見つけるのかを伺った。


── 落語はどのように型を身につけるのでしょうか?

一之輔:昔は三遍稽古といって、師匠が一対一で教えてくれるんですよ。3日間連続で通って、ひとつの噺を全部とおしでやってくれて、4日目にそれを自分がやるっていう。昔の口伝の教わり方ですね。上がる上がらない(※1)はね、教えてくれる人によりますね。ボロボロでとりあえず最後までいったっていう状態でも「ああいいよ別に。高座上がってやんな」って人もいれば、ある師匠は一言一句、「てにをは」までズレなくやんないと上がらせないって人も。その息をコピーしてくれという。

── 教えてもらった師匠以外のくすぐり(※2)を使うのは御法度というルールがあると聞きますけど、誰がやったのか覚えているものなんですか。データベースがあるわけでもないですものね。

一之輔:稽古のときに「いまのくすぐりはね、あの師匠が考えたらしいよ」って言われる。「このオチはあの師匠が考えて、俺はそれを教わったから、その考えた師匠の前でやるときは俺から教わりましたって言ってね」とか。自分もそのルーツを大切にしましたね。

── このお噺はこの方の系譜だとかもあるんですか?

一之輔:あります、あります。たとえば、『時そば』(※3)っていう落語は柳家小さん師匠の、柳家のお家芸なんですよね、十八番っていうか。小さん師匠が『時そば』で人気が出たっていうか、「小さんの『時そば』はやっぱりすごいね」ってお客さんのイメージがつくと、やっぱりそれをみんな習いに行きますよね。そうすると、そういうイメージが落語家のなかでできあがって、柳家の『時そば』だねってなりますよね。5代目の小さん師匠も4代目から教わったりしているわけで、そういう系譜できているんでしょうけど。やっぱりそれで人気を博した人の型であると。

── その人の言い回しとか、節回し、間の取り方とか、かなり特徴が出そうですもんね。ほかの一門の人たちはやらないものですか。

一之輔:よその一門の特徴をやっちゃいけないっていうルールはないですね。でも、やっぱりこれは柳家の噺だよねとか、古今亭のだよねとかはあります。たとえば、『火焔太鼓』(※4)なんかはつまんない噺だったのを志ん生師匠がいっぱいギャグ入れておもしろくして、人気になったっていうか。だから、『火焔太鼓』っていえば、志ん生師匠の一門、古今亭の噺だよっていうイメージがあるんですよ。だからその息子さんの志ん朝師匠はよその一門が「教えてください」って言っても「駄目だ、親父の売りもんだから」とか「教えてもいいけどやんないでね」とか噺を守ってたんだけどね。うちの大師匠の柳朝は志ん朝師匠より先輩なんですけど、「教えろ!」つって無理やり教えさせたって。そして柳朝師匠はそれを別の人に……。

── (笑)。

一之輔:それで変な風に広まって、「勘弁してくれよお、柳朝兄さん。教えないでくれよ、俺の噺を」って志ん朝師匠がボヤいてたって。それは志ん朝師匠がケチだからじゃなくて、そういうのを大事にしてたんでしょうね。この一門の売りものとか。古典っていっても、能とかと比べたら落語はだいぶ緩い古典芸能のジャンルであると思うんですけど、落語とはいえ、そういうお作法みたいなものはあったほうが僕はいいなって、思いますね。

── 一門の型=自分の型みたいになって、自分の色が出にくいことはありませんか?

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