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『広告』リニューアル創刊号 全文無料公開

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2019年7月24日に発行された雑誌『広告』リニューアル創刊号(Vol.413 特集:価値)の全記事を無料で公開しています。
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2019年11月の記事一覧

20 無用なものへのまなざし 〜 打ち捨てられたゴミに息づく生命の痕跡

©shinichiro uchikura 2018年度「写真新世紀」優秀賞を受賞した写真家・内倉真一郎のシリーズ『Collection』。真っ黒な背景にゴミが並ぶ本シリーズは、標本図鑑のように一つひとつ、丁寧に撮影され、その存在自体がまとう異質さがありありと伝わってくる。 これらのゴミは、もともと近所の道端、海岸、川、山、飲み屋街といった、いわゆるゴミ捨て場ではない、日常のなかに打ち捨てられていたものだ。もちろん内倉は、写真を通じて「ゴミを捨てるのは禁止」といった警告

21 誤配という戦略 〜 必要とされないものを、いかにつくり続けるか

人々が必要だと思うものや、社会が必要とするものをつくり、届けることはある意味易しい。ニーズに沿ったものをつくれば、手にとってもらえるからだ。一方、人々が必要性に気づいていないもの、受け手にとって無用に思えるものをつくり、届けるのは簡単なことではない。 そして、それをやり続けることはなおさら難しい。そのことに成功しているのが、思想家の東浩紀さんが経営する出版社「ゲンロン」だ。ゲンロンの戦略は、思想や哲学といった「等価交換の外部」にあるものを「等価交換の回路に忍び込ませる」こと

#4  コスト

コスト、スケジュール、クオリティ。 これは、僕が博報堂に入社して、最初に学んだことです。最終的につくるもののクオリティを上げたいのなら、優先順位は上記の順になるのだと。いまでは、ものをつくる際の基盤として僕の体に染み付いています。 コストというのは、費用・時間・労力のことです。何かものを生み出すためには必ずコストがかかります。それにもかかわらず、つくり手とコストを考える人との間に距離があることが少なくありません。 コストにまつわるあれこれは、まだまだ慣習にまみれています

22 価値を最大化する予算設定

予算は制約ではない。予算とは、価値を生むためのガソリンである。しかし、予算のあり方は最適化からほど遠い場所にある。前年度の決まりに従う慣例や年度末消化など、予算の硬直化が起きている。予算決定者とつくり手に距離があることも多いだろう。 時代の不確実性が増し、計画が意味をなさなくなる時代において、どのように将来の見通しを立て、予算を組んでいけばいいのか。いまこそ新しい価値をつくるべく、予算の考え方や仕組みづくりの変革が必要ではないか。 その課題をとらえるために、まずは歴史を学

23  高予算の駄作はなぜ生まれるのか 〜 日本の映画業界が向かう先

スケールの大きい高予算の映画、でも観てみるとなんだかガッカリ……なんて経験をしたことがある方は多いのではないか。一方で、昨年の大ヒット作『カメラを止めるな!』のような低予算でおもしろい作品もたくさんある。そもそも低予算での製作は、どんな名監督もとおってきた道だ。それがなぜ高予算になった途端に、質が下がるケースが頻発してしまうのか? もしかするとそこには、高予算特有のネガティブな構造があるのではないか?  近年、河瀨直美監督作品をはじめ、上質な作品を製作し続けるキノフィルムズ

24  ザク化する日本のものづくり 〜 ガンダムに学ぶ、コスト度外視の優位性

1979年に放映開始された『機動戦士ガンダム』。 精緻な世界観の構築で、ロボットアニメの常識を覆したセンセーショナルな作品だ。 物語の舞台は、人類が宇宙に居住するようになった近未来。地球連邦軍とジオン公国という2国間の戦争がメインテーマだ。戦場ではモビルスーツという人型兵器が活躍し、タイトルにもなっているガンダムは地球連邦軍所属の最新鋭モビルスーツの名前だ。 戦争以外にも、差別、階級闘争など、子ども向けとは思えないテーマを盛り込み、その仕上がりはもはや、大人が楽しめる社会

25  見積もりの透明化 〜 ブラックボックスをひらくとき、ものづくりはどう変わるのか

見積もりは、ものづくりにおいて価値を生み出すスタート地点とも言える。にもかかわらず、どんぶり勘定や利益の水増しなど、見積もりのあり方には不透明な部分も多い。しかしいま、これまでブラックボックスとされてきた「見積もり」が、建築業界で変わり始めている。近年登場したBIMと呼ばれる建築設計システムは、設計にかかわるすべての情報をクラウド上でデータベース化し、その透明化を推し進めるツールになりうる。 見積もりというブラックボックスがひらかれるとき、何が起こるのか。その実態を探るべく

26 つくり手が変える対価のあり方 〜 慣習を超えて価値を生み出すために

同じ文章を書く仕事でも、「作家」と「ライター」の性質は異なる。商業文章のライターである私は、出版社やクライアントから発注を受けて初めて、文章を「つくる」からだ。 先日、こんなことがあった。私がゴーストライター(編集協力)として参加した書籍で、事前に著者と口頭で約束していた印税の分配率が、出版の直前に出版社の意向で大幅に下げられてしまったのだ。事前に契約書を交わさなかったことが原因であるが、受発注の関係性は得てして「仕事を与える」側と「仕事をもらう」側といった、不均衡なパワー

27  本当の請求書

つくり手が「失うもの」と「得るもの」ものづくりに携わるつくり手にとって、請求書とは、いわばつくり手が仕事を通じて「失うもの」と「得るもの」を記載したものである。つくり手が「失うもの」の代表は時間であり、筆者の属するエンジニア業界では工数といった言葉で表される。ほかに、材料費や外注費、間接経費など、一時的に立て替えたお金も「失うもの」に含まれる。一方で、それらと引き換えに「得るもの」は報酬としてのお金である。 そう、「得るもの」はお金である。請求書の上では、お金以外の「得るも

#5  評価

評価とは、ものの価値の有無やその程度を認める行為です。評価によって、価値が高まったり、潜んでいた価値が顕在化することもあります。これはつまり、評価によって価値が生み出されているとも言えます。評価というのは、とても創造的な行為なのかもしれません。 ひとりのつくり手として、僕はたくさんの人に届けたいとか、あの人に認められたいとか、比較的評価を気にしながらものをつくっています。ただ、評価されることへの欲求に偏りすぎないよう注意もしています。そうしないと、小手先の手法論が先に立って

28  権威の崩壊、民意のリスク 〜 批評家 佐々木敦氏インタビュー

映画や音楽の世界では、いまもアカデミー賞やグラミー賞のような権威あるアワードがあり、日本でもレコード大賞はいまだ、年末の風物詩として残っている。その一方で、ミシュランガイドに対しての食べログといったように民意による評価が勢いを増してきている。評価の影響力が権威から民意へと移行するなか、その裏側で何が起きているのか。権威と民意、そのどちらとも違う立場から世の中を見つめてきた批評家・佐々木敦さんに、いまの時代における評価の実態と行く末を伺った。  権威の力が弱まったあとに、人々

29 権威と民意のアワードマップ

世の中にはたくさんの賞があふれ、いたるところで「〇〇賞受賞作品」といった言葉が氾濫している。つくり手にとって、受け手にとって、業界にとって、アワードの役割は様々。そもそも、アワードというものは、いったいどんな仕組みで、誰によって決められているのか? 権威が認めたらいい作品なのか? 民意によって支持されるものがいい作品なのか? 本稿では、マンガ・音楽・映画の3つの業界のアワード俯瞰マップをそれぞれ作成し、アワードの役割や意味についての考察を行なう。なお、俯瞰マップはコンテンツ